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ロリの惑星  作者: 神原ハヤオ
【後章】ロリの惑星:創世記(じぇねしす)
14/27

13「人類の時代」

 目を開けると、雨が止んでいました。

 幼女さんも消えていました。


「今のは……?」


 私は今、どうしてトゥインクルさんの名前を呼んだのでしょう。

 似ていた……から?


 一度部屋に戻ってトゥインクルさんを起こそうと、踵を返しました。


 白く、明るい建物。

 白すぎる。

 しかも、どうして全ての部屋に灯りが?


 足を止めました。

 何かがおかしい。


「どーなっているんだ?! 何かの間違いだろ?!」

「逃げろだって?! どこにもシェルターなんてないんだぞ?!」

「だいたいこの研究所自体、確実に的になっているじゃないか!」


 怒声が施設内に飛び交っていました。

 施設から一人の男が飛び出します。

 男はまっすぐこちらに向かって歩いてきました。


「あの……!」


 ぶつかる、と思った時には男は私の後ろにいました。

 私をすり抜けて行ったのです。


「ウィリアム博士!」


 男を追って、若い女性が走って行きました。

 やはり私をすり抜けます。


「……マリーか。なに、どこにも行きはしないよ……」

「博士……」


 女性が男に抱きつきました。

 女性の肩が震えています。


「世界は……私たちのことを見捨てたようだね……」

「……はい……」

「せめて、最期まで一緒にいよう、マリー……」



ーーーーー



 次の瞬間、私は違う場所に立っていました。


「何、これ……」


 交差点のど真ん中に、奇妙な物体が突き刺さっていました。

 信号機よりやや高く、細長い円柱の鏡です。


 交差点ですが車はなく、それどころか周りの家にも人の気配はなさそうでした。


 ……いえ、一人だけ影があります。

 金髪碧眼の幼女さんが、鏡の陰から姿を現しました。


「あなたが……私をここへ?」


 こくりと彼女が頷きました。

 その表情は今まで会ってきたどの幼女さんとも違う、無感情なものでした。


「あなたは一体……」

「えくびりお」

「えく……?」


 金髪の幼女さんは、おもむろに円柱状の鏡を見ました。

 それを指差して言います。


「すぺぎゅん」

「すぺ……? なんのことです……?」


 幼女さんが空を見上げました。

 曇天の空。


「ばしょかえよう。ここじゃたぶん、よくわからない」


 次の瞬間、私たちは山の中ほどにいました。

 眼下には島の街並みが見えます。

 煌々とした地上の星たちです。


「さっきいたばしょ」

 

 彼女はそう言って、街の中心部を指差しました。

 そのまま、示した指先を天に向けます。


「くるよ……」


 ひどく物憂げに呟きました。


 次の瞬間。

 空に太陽が現れて、視界を白で塗りつぶしました。

 何かが私を通り抜けて行きます。

 通り抜けたそれは、砂利をめちゃくちゃに舞い上げました。


 太陽が消えた時、島は炎に呑まれていました。

 どす黒い煙の中から、巨大なキノコ雲がその首をもたげます。


「……これって」


 修学旅行で行った広島で、これと同じものを見せられた気がしました。

 足が震え、歯がガチガチと鳴りました。


「……たぶんわたしたちのせい。でもわたしたちも、にんげんがにんげんにここまでするなんてしらなかった」


 何を言っているの。

 あなたはいったい、何を言っているの。


 私はまだ、目の前にあるものの意味を掴みきれていませんでした。


「みせたいものはまだあるよ。あんないしますーー」



ーーーーー



 連邦政府の地下シェルターで、数人の政府要人が重々しい話し合いをしていました。


「概算として、70億人以上です」

「たった20年でか」

「これ以上はもう……」


 大統領が重い口を開きました。


「もう、彼女たちに頼るよりほかあるまい……」



ーーーーー



 その日、すべてのラジオ、すべてのテレビ、すべての街頭スピーカーから、一斉に放送が流されました。


「あれから……今日でちょうど20年です。ここまでに、私たちはどれほどの悲劇に見舞われたのでしょうか。ですがもういいのです。すべての争いを捨てましょう。私たちは私たちに残された最後の日々を、平和とともに過ごさなければいけないのですーー」


 その日、世界はロリの炎に包まれました。

 そして全ての争いが地上から姿を消しました。



ーーーーー



 その施設でつくられていたのは、金属の骨格を持つ人造人間でした。

「神は自らに似せて人を創ったというがーー」



ーーーーー



 私の中を断片的な記憶が駆け抜けて行きました。


 気がつけば私は、何もない水面に立ち尽くしていました。

 鏡のような凪の水面、どこまで澄んだ青い空。


「どうしますか」


 金髪碧眼幼女がたずねてきました。


「みたことを、みなかったことにもできます」


 私はかぶりを振りました。


「それは……できません。私は妹に会いに行くから。その時に、少しでも妹と同じ景色が見たいから……」


 どんなにつらく悲しい歴史でも、妹はその中を生きていたはずなのです。

 お父さんやお母さんも。

 友達だって皆んな。


 私だけ楽はできないと思いました。


「……わかりました」


 幼女さんが頷きました。

 その胸に光が灯ります。


 眩しい。


 また光の中に呑まれていきました。


【次回のロリの惑星】


「お姫様抱っこじゃないですか!」

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