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ロリの惑星  作者: 神原ハヤオ
【前章】ロリの惑星
13/27

12「はじまりの島」その3

 お婆さんが語ってくれたところによるとーー


 老人、ウィリアム・K・ナカジマ博士と老婆、マリ・ナカジマは、かつてこの研究所の研究員でした。

 その研究内容は、謎に包まれた『幼女たち』の生態の解明。

 この研究所に島中の幼女さんを収容し、その生態について研究していたのです。


 80年前は政府も混乱のさなかにあり、とても新規事業を始めるどころではありませんでしたから、この施設も元は宇宙研究の施設だったのを流用したのだそうです。


「調べる必要があったのだ。幼女たちについて。そして例の『変異起点』のことをな……」

「へんいきてん……?」


 聞き返しましたが、ウィリアム博士はまたむっすりと黙ってしまいました。


「……ねえ、あなた方はどうしてこの島にいらしたの?」


 お婆さんがたずねてきました。


「差し支えなければ、教えて下さらない」


 私達は語りました。

 妹のこと。

 この世界の秘密を知りたいということ。


「……そう、妹さんを探しているのね」


 お婆さんがためらいがちに切り出しました。


「でもせめて今夜ぐらいは泊まっていって下さいな。この島のこと、もっと詳しく話したいし……」


 ウィリアム博士が老婆をにらみました。


「マリー!」

「博士、お願い」


 マリーさんが静かにウィリアム博士を見つめます。

 沈黙。

 その意味はきっと、二人にしかわからないのでしょう。


 しばしの後、老人が観念したように肩をすぼめました。


「……わかったよ」

「ありがとう。……それじゃあ、タクトのことも紹介しなくちゃね」

「そのことも言う気か?」

「泊めるのなら、どのみちわかることだわ」

「……まあ、それはいいが……」


 老人が何かをためらいました。


「……あいつは今どこにいるんだ?」

「遊んでいます、庭で」



ーーーーー



 庭からは山と海が一望できました。

 天気さえ良ければ絶景なのでしょう。

 空を寒々しい雲が流れていきます。

 山は薄暗く、海は鉛色です。


「あの子、この場所が好きなのよ」


 ウィリアム博士はどこかに行ってしまいました。

 庭にやってきたのは、マリーお婆さんと私、トゥインクルさんの3人。


 庭では無人芝刈り機が雑草の手入れをしていました。


「あれも息子さんがつくったんですか?」

「ええ、そうなの。あの子、『工作』が大好きで……」


 庭の一番海寄りに大きなヤシの木が生えていました。

 その上にお婆さんが目を向けます。


「危ないわよ、タクト。そんな所に登っちゃあ」


 見ると、小柄な少年がヤシの木の上に立っていました。


「いまおります、おかあさん」


 はっと息を呑みました。

 少年がヤシの木の上から飛び降りたのです。

 少年は……奇妙に長い滞空時間とともに地面にふわりと降り立ちました。


 端正で凛々しい顔立ち。

 ショートヘアーで日焼けのよく似合うボーイッシュな『女の子』。


「はじめまして」


 タクトという名の『幼女さん』が私たちに微笑みました。


「……え……息子、さん……?」

「ええ、息子……よ。私がお腹を痛めて産んだ、たった一人の私たちの子供。あなたが言いたいこともわかるけれど……そういうことにしておいて頂戴」


 タクトさんが私に右手を差し出しました。


「よろしく、おねえちゃん」



ーーーーー



「そうだよ。私たちがこの無人島で暮らして来れたのは、タクトの力があったからだ」


 研究室の一室。

 ウィリアム博士はあっさりと、タクトさんが『幼女』であることを認めました。


「ふぅん。幼女さんのことは嫌いだと言っていたのに?」

「トゥインクルさん、そんな言い方……」

「あの子だけは特別だ。それともアンドロイドには、人間の心の機敏はわからないか?」


 老人はコーヒーをすすりました。

 私にもコーヒーをすすめてきましたが、残念ながらコーヒーは飲めないのです。


「この研究所の生活物資は、たいがいがタクトがつくってくれたものだ。食べ物は多少なりとも私やマリーで調達しているが……それだって、タクトが環境を整えてくれているからできること……」


 老人はまたコーヒーをすすります。


「君も必要なものがあるなら、タクトに頼むといい」



ーーーーー



 研究員の宿直室。

 ベッドはさらさらと肌触りが良く、お日様のいい香りがしました。

 日頃からよく干されているのでしょう。

 借りたパジャマも、サイズこそ合いませんが肌触りが良いです。


 夕暮れ頃から降り出した雨が窓を叩いていました。


 天井が近いのは、私が二段ベッドの上にいるから。

 下ではトゥインクルさんが見張りをしてくれているはずです。


「私、おじいさんもおばあさんも、悪い人じゃないと思うんです」


 トゥインクルさんに呼びかけましたが、返事なし。

 見ると、


「……寝てるじゃないですか」




 眠る前にトイレに行きました。

 その帰り、廊下の奥に灯りがつきっぱなしの部屋を見つけました。


「……本当に、全て話すつもりなのか、マリー」

「ええ。あなたもわかっているんでしょう、これが最後のチャンスかもしれないって」


 二人が話していました。


「私たちが知り得たことは、次の世代に託さなくては。でないといったい……こんな長い間……私たちは何のために……」

「まだ会って間もない、どんな子かもわからない……あの子に全て背負わせる気か? 背負えると思うか? ただでさえ……あの子が最後の一人になるかもしれないのに……」


 その先は、なんだかもう聞かなくてもいいかなと思ってしまいました。




 休憩スペースには自販機がありました。

 もちろん、とっくの昔に使えなくなっているはずです。


「コーヒーでも飲みたい気分」


 飲めないけど。

 スポンジの飛び出たソファに腰掛け、窓の外を見ました。


 何もかもが夢心地。

 現実味がまるでない。

 目が覚めてからずっとそう……。



 ぼうと雨を見ていると、外に小さな影を見つけました。

 影は二つ。

 そのうちの一つに見覚えがありました。


「た、タクトさん……?」


 もう一人は?

 背丈はあまり変わらないようですが……。


 あわてて窓を開いて外にはいでました。

 雨が冷たく体を打ちます。

 服が張り付いて気持ちが悪い。


「タクトさん!」


 雨の中でタクトさんがこちらを見たのがわかりました。


「あんないするということになりました」

「案内?」

「……ぼくはしょうじきはんたいなんです。ぼくもおとうさんとおなじいけんです」


 憂いをおびた眉。

 同情するような瞳。

 幼女さんも、そんな顔するんですね。

 みんな、小さな子供だと思ってました。


「あなたがせおうひつようのないことです」

 

 何のこと?

 何を言っているの?


「ーーもう、いい。みてからきめてもらえば」


 奥にもう一人幼女さんが控えていました。

 金色に輝く髪。

 まん丸の青い瞳。


「いざとなれば、きおくをけす」

「らんぼうすぎます」

「これも『あい』です、にんげんふうにいうと」


 幼女の胸に光が瞬きました。

 その光が、幼女たちを呑み込んでいきます。

 光は私にも迫ります。


「どこへ……どこへ連れて行く気ですか? 『トゥインクルさん』!」


 眩しい。

 目を開けていられませんでした。


ーーーーー


 目を開けると、雨が止んでいました。

 幼女さんも消えていました。


「今のは……?」


 私は今、どうしてトゥインクルさんの名前を呼んだのでしょう。

 似ていた……から?


 一度部屋に戻ってトゥインクルさんを起こそうと、踵を返しました。


 白く、明るい建物。

 白すぎる。

 しかも、どうして全ての部屋に灯りが?


 足を止めました。

 何かがおかしい。


「どーなっているんだ?! 何かの間違いだろ?!」

「逃げろだって?! どこにもシェルターなんてないんだぞ?!」

「だいたいこの研究所自体、確実に的になっているじゃないか!」




 このときの私には知る由なかったことですが、そのとき私は飛ばされてしまっていたのです。

 幼女さんの力によって、過去の地球に。

 まだ地球が人間の星だった頃に。


【次回のロリの惑星】


 その日、世界はロリの炎に包まれました。

 そして全ての争いが地上から姿を消しました。


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