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ロリの惑星  作者: 神原ハヤオ
【前章】ロリの惑星
12/27

11「はじまりの島」その2

「こんな……ここまで縛らなきゃダメなんですか?」

「人間さんをためらいなく撃ってきたヤツですわよ。これぐらいのことは当然ですわ」


 老人が木に蔦で縛られています。

 気の難しそうな白髪の老人でした。

 ずいぶんと痩せて、腕や顔が骨ばっています。

 ……本当にこんなに厳重に縛らなければいけないんでしょうか?

 武器も先ほどトゥインクルさんが取り上げましたし……。


「干渉弾。対アンドロイド用の特殊弾ですわ。もっとも私には効きませんけどーー」

 

 トゥインクルさんが取り上げた弾丸を握りつぶしました。


「ーー人間を殺すには十分な威力がありますわ……」


 老人が小さくうめいて瞼を開きました。


「さて、あなたに聞きたいことがあるんですわ」

「………………。アンドロイドに話すようなことは、ない」


 鋭い目つきで私たちをにらみ、押し黙ります。

 トゥインクルさんはため息をついて「あ、そう」とだけ言いました。


「おじいさん、私は人間です」


 老人の前に歩みでます。

 老人は鼻で笑いました。


「嘘をつけ。もうずっと前から人間の子供なんて生まれていない」

「本当ですって! ほら!」


 右手を老人の頬に押し当てました。

 シワだらけの温かい頬。


 彼の瞳に驚愕の色が浮かびました。


「……まさか! いや、どうやって?! 新しい子供をどうやって創ったんだ?!」


「残念ですけれど」


トゥインクルさんが言いました。


「その子は80年前の人間ですわ。コールドスリープでこの時代に来たんです」

「ああ……」


 彼の瞳から輝きが失せます。


「そういうことか……」

「……おじいさん、この島には、おじいさんの他には誰か……?」

「3人いる。妻と息子が……」


 そう言ってから、老人は妙に顔をしかめました。

 私は続けます。


「会わせて下さい。お願いします」



ーーーーー



 どんよりした天気は続いていました。

 私たちは鉛色の海の近くを歩いていました。


「どこに向かっているんですか?」


 向かう先には黒い山。


「どこに向かっているんですか……?」

「ん、ああ……研究所だ。元は100人以上勤めていたが、今は私たち3人だけだよ……」


 細身の体によらず、老人はかなり体力があるようでした。

 石ころだらけの道を難なく歩いていきます。

 私はというと、その後ろをときどきトゥインクルさんに支えられながらかろうじてついていきました。


「……まったく、もう。気をつけて下さいね」

「気をつけて歩きます」

「それだけではありませんわ」


 トゥインクルさんがやや声を落として(それでいて老人にも聞こえるような声で)言いました。


「あの人間のこと、私はまだ信用していないんですのよ。拘束を解いてしまいましたけども……」

「うーん……確かに、アンドロイドを毛嫌いしてましたね」

「幼女さんのことも」


 私は苦笑しました。


「そのようですね」


 トゥインクルさんがさらに声を落としました。

 今度こそ老人には聞こえません。


「今だって、人間さんを研究所に連れ込んで何をする気なのか……ちょっとは警戒してください。人間さんのこと……手篭めにするつもりなのかも……」

「てごめ……?」


 すぐにその意味を察して、顔が熱くなりました。


「いやいやいや! けっこうなお年に見えますよ?!」

「人間の老人が『枯れている』なんて、そんなのは嘘っぱちですわよ」


 何かあったのでしょうか……。


 それでも私には、老人がそんなに悪い人には見えないのでした。

 いや、確かに先ほど殺されかけたんですけど、それは人間だと思ってなかったからですし……。

 それとも、「いい人だと思いたい」だけなんでしょうか?

 未来に来て初めて会った人間だから、いい人であってほしいと思っているだけ?


 それだけではない気がしていたのです。

 海辺を一人で歩いていく老人の後ろ姿を見ていると、それだけではない気がしてくるのです。



ーーーーー



「ここは元々私の国の研究施設だった。……彼女たちを研究するための」


 錆び付いた鉄の門を抜けるとそこからは研究所の敷地内でした。

 守衛所はとうの昔に無人となり、守衛さんの代わりに背の高い雑草が中から顔を見せていました。

 アスファルトはだいぶ傷んでひび割れていましたが、かろうじて原形を留めていました。

 ところどころに雑草が生えていましたが研究所の外ほど荒れ果ててはいませんでした。

 だからこそ余計に『荒れている』ことが実感できてしまうのです。

 荒れ『果てて』原形を完全に失う前だからこそ……原形が想像できてしまうからこそ……。

 

「……彼女たち、というと……つまり、幼女さん?」

「そうだ」

「あの……できれば教えて下さい。どうして……幼女さんや、アンドロイドのことを嫌っているんですか?」

「私は彼女たちを研究していた……人類を救いたかった。結論から言えば……幼女の前では人類は赤子も同然だった……」


「ーー幼女に対する無力感から、彼女たちを毛嫌いしていたというわけですの?」


 トゥインクルさんが不意に尋ねました。


「……癪だが、そうなる」

「私たちのことを嫌いなのは? アンドロイドをつくったのはあなた方人間でしょうに」

「……なぜだろうな? そもそも……お前たちは本当に人間に創られたものなのか?」


 老人は鋭い目つきでトゥインクルさんをにらみました。


「実際のところ何者なのだ? お前達は……」



ーーーーー



 白く大きな研究施設。

 近代的な建物ーーと言っても、たぶん100年以上前に建てられた年代物です。

 中に入ると、これが意外にも小綺麗でした。

 床には埃一つなく、誰がこんな広い施設を掃除しているのだろうかと考えていると、奥から小さなドラム缶のようなものが近づいてきました。


「掃除ロボだ。タクトが……息子がつくったものだ」


 老人は部屋を何部屋か覗き込んで、人の不在を確認するとつぶやきました。


「マリーは図書室か?」




 図書室は別棟にあり、それだけでもかなりの広さです。

 図書室というより、図書館でした。


「帰ったぞ!」


 老人が声を張りますが、返事はなく。


「ったく、あいつも耳が遠くなったな……」


 奥に歩いていきます。


 私もその後に続きました。

 トゥインクルさんがぴったりと私の横を歩きます。

 少し歩きづらい……。


 本棚には難しそうな本ばかりが並んでいました。

 だいたいの本は分厚い洋書でした。


 かろうじて読める棚もあります。

 クェーサー……恒星進化論……超ひも……。


「いた」


 図書室の一角の読書スペースに、品の良さそうな老婆がいました。

 夢中で分厚本を読み込んでいます。


「マリー、お前また補聴器を外しているな」


 はたと気がつき、老婆が顔を上げました。


「あら、おかえりなさい博士。あら?」


 老婆が目をこすり、老眼鏡をかけ直しました。


「……え……誰……?」

「一体はアンドロイドだ……けれどこちらは……人間の少女だよ」

「人間……? それはでも……若すぎないかしら……?」

「コールドスリープ状態だったそうだよ」

「コールドスリープ……ちょっと待ってくださいね……」


 しばらく老婆は放心状態でしたが、やがて私に目を向け、にっこりと微笑みました。


「なるほど、そんな事情が。ようこそいらっしゃいました。私はマリ・ナカジマです。こっちはウィリアム博士。あなた達は……?」


【次回のロリの惑星】


 何もかもが夢心地。

 現実味がまるでない。

 目が覚めてからずっとそう……。

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