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ロリの惑星  作者: 神原ハヤオ
【前章】ロリの惑星
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01「ようじょの国」その1

 病院の外に出ると、そこは幼女の国でした。


 国民、総幼女。


 街を闊歩する幼女。

 車道を走るのは三輪車や自転車(まれに一輪車)。

 街並みは、まるで人形の家をそのまま大きくしたよう。

 ファンシーでスケールの狂うパステルカラー。

 商店街では、幼女が肉や魚や野菜ーーのオモチャを売っていました。


「やすいよぉー、やすいよぉー。お、どうだいおねぃさん、こんやはおさかなさんにしねーかぃ?」


 べらんめぇ幼女が魚の切り身(多分食品サンプル)を売っていました。

 何の魚なのか問います。


「たしか、さーんもとらとう?だったっけな……ほら、そこでおよいでいるぜぃ」


 魚屋のプールでは切り身のシャケが泳いでいました。


 商店街を抜けると、大きな川が流れていました。

 河川敷に座り込みます。


「夢……?」


 あるいは、ここが噂には聞く天国とやら?


 いつの間に、世界はこんな風になってしまったのか……。


ーーーー


 ワンデイズアゴー。


 暗闇から目を覚ますと、見知らぬ幼女さんが私の顔を覗きこんでいました。

 幼女さんは私が起きたことに気がついて、にぱっと笑顔を見せました。


「あーー! めぇさましましたですねー?」


 幼女さんが私のベッドから飛び降りました。

 ナース服を着た幼女さんでした。

 コスプレ……?


「いま、せんせぇよんできますねーー」


 とてとてと去りました。


 はて……。

 ここはどこなのでしょう?

 半身を起こして、見回します。

 病院でしょう、多分。

 白いベッド、ベッドの周りには薄グリーンのカーテン。


 はてな……。

 記憶を辿ってみました。

 高校から帰る途中だった、はずです。

 途中で文房具屋に寄り道して……急いで帰っていた、はずです。

 それがどうして病院に?


 日の加減から察するに、今は昼間のようでした。

 少なくとも、一晩は病院で明かしていたことになります。

 何か大怪我でもしでかしたのかと思い、体をくまなく調べてみました。


 ライトブルーのよくある病衣。

 ブラジャーはどこかに消えていました。

 大きい方ではないとはいえ、困ります。


 さすがにパンツは履いているみたいですね。

 私のではないですけど……(うさぎ柄でした)。


 怪我はどこにも見当たりません。

 体調も良好でした。


「げんきそうですね。おきてだいじょうぶですか?」


 また幼女さんが来ました。

 さっきより大人びていて、そうですね、10歳くらい?

 この子ももれなく白衣でした。


「ええと、ここは……病院ですか?」


 我ながら、なんて間の抜けた質問でしょう……。

 よくわからないまま、よくわからないことを聞いてしまいました。

 幼女さんがきょとんと目を丸くします。


「え、うん、そうですよ?」


 彼女はすぐに、ポンと手を打ちました。


「ああ、きおくしょーがいですね!」

「記憶、障害」


 そうなのかも……。

 どの部分の記憶がないのか、それもわかりませんけども。


 だしぬけに、幼女さんが言いました。


「おねえちゃん、おとといまで『こーるどすりーぷ』になってたの。とってもつめたかったから、がんばってあっためたんだ!」

「……はい?」

「きおくしょーがいはそのえいきょうかも!」

「……はい……??」


 コールドスリープ?

 話が見えてきません。


「ええ……と? つまり?」

「よかったね、おねえちゃん!」

「はぁ、どうも……」


 満面の笑みで去って行きました。

 困る!

 背中から声をかけて、呼びとめます。


「あのう! 先生を呼んできてもらえませんか?!」


 くるりと幼女さんが踵を返しました。


「わたしが『せんせぇ』! おいしゃさんだよ!」


 またくるね、と言ってカーテンの向こうに去りました。


 自分のことは自分でやれ、が私の母の口癖です。

 こうなったら自力で、誰か大人のもとへたどり着かなくてはなりません。

 ベッドから起きて立ち上がります。

 素足にリノリウムの床がひやりと吸いつきました。


 薄緑のカーテンを開けると、そこは幼女の国でした。


「は」


 間抜けな声が口から漏れました。


 同室の入院患者は、もれなく全員幼女さんでした。

 ベッドの上で飛び跳ねていますね、あれ多分病人でもなんでもないですね。


 廊下を慌ただしく走る病衣の幼女さんたち。


「おーにさーん、こーちらー」

「てーのなるほーえー」

「あははははははは!」


 鬼ごっこなんかして怒られますよと思っていたら、案の定ナースさんに怒られました。


「こらぁー、ろうかはしったらせんせぇにしかられるよー!」


 ナースさん(幼女)はご立腹です。


 病室にはテレビが点いていました。

 子供向けのアニメでもやっているのかと思えば、ところがどっこいニュース番組なのでした。


「それでは、つづいてのにゅうすです。にしこうえんのぶらんこがふるくなったのでしようきんしになっていたことが、しんぶんがかりのさっちゃんのしらべによりはんめえしました」


 なんだろう……。

 夢でも見ているのでしょうか……?


「とにかく、大人……」


 廊下に出て歩き出します。


 ナースセンターでは、ナースさんが世間話に興じていました。


「3組のみっちゃん、さっちゃんとつきあってるんだってー!」

「きゃー!」

「きゃー!」


 待合室では、頭に包帯(片目を隠しています)を巻いた幼女が順番を待っていました。

 診察室横のカウンターに案内がかけられています。

【中二病外来】


「54ばんでおまちの、さやかさーん!」


 包帯の幼女が音もなく立ち上がりました。

 そして診察室に入って行きました。

 入って行きざま、小さな声で呟きます。


「そのなは、すてた……」


 捨てたはずの名前で入室していったわけですが、それは。


 しばらく進むと、今度は産婦人科が見えてきました。

 ここなら大人がいるかもしれない。

 むしろ大人しかいちゃダメかもしれない。

 

 診察室を覗いてみました。

 どうやら、大きな白い鳥を飼っているみたいですね。


「あかちゃんはこんできてくれませんですねー」

「がんばるですよ! コウノトリさん、がんばるですよ!」


 努力ではどうにもならない壁があってですね……。



 この病院には(本当に病院なのでしょうか?)、どうやら大人は一人もいないようです。

 夢を見ている説が、いよいよ濃厚になってきました。

 

 とりあえず頬をつねってみます。

 ……痛い。


「あー、だめですよぅ? まだあんせいにしてないと!」


 『せんせぃ』がやってきて、注意されました。


「あはは……なんか、そうみたいですねぇ……」


 寝れば治るだろう……という淡い望みをかけて、私は『せんせぃ』の手引きで病室に戻りました。



 ちなみに、寝ても治りませんでした。


【次回のロリの惑星】


「ぅゎょぅι゛ょっょぃ!」

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