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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第389話 歌神の十重奏

 背後から声が聞こえたその瞬間、マリアは五感を再び奪われていた。それはコンマ秒よりも短い、本来は隙とも呼べないインターバルである。しかし、だ。このレベルの戦いにおいては、致命的な隙になり得た。


『ウォン!』

『うん、仕事をしたら直ぐ撤退! また忘れた頃にやって来ようか!』


 そう念話で皆に伝え、再び隠密状態に戻ったのは、他でもないアンジェ&アレックスである。マリアがセラ達との殴り合いに傾倒する中、二人はこっそりと彼女の背に回り、劇剣リーサルによる斬撃を五回食らわせていたのだ。アレックスがその連撃を浴びせる中、マリアが有する十の光に何やら変化が生じているのを見破ったアンジェは、その光に向かって『凶手の一撃』をザクリザクリ。十の光その全てにクリティカルを与え、即座の離脱を果たしていた。


 本日の主役とは思えないほどに裏方に徹するアンジェであるが、今回アレックスとコンビを組む事で、その狡猾さは新境地に達したと言える。暗殺者としての機動力、全てを透過していく反則性、そこにアレックスの影に隠れる能力が加われば、二重三重の奇襲方法と逃げ道が切り開かれていく。敵からすれば、これ以上に不愉快な相手は居ないだろう。それはマリアも同様であり、このタイミングにおける極小の隙は、看過できないものがあった。何せ、ケルヴィンが『黒神鎌垓光雨ガノゾラガン』の準備をしていたように、他の面々の攻撃用意も万全であったからだ。


『今だ! 気張れよ、ムドぉぉぉ!』

『お、おらだぢの力を、ひとつ、にッ……!』

『いちいち耳元で叫ばないで。言われずとも、決める!』


 次なる攻撃を用意していたのは、人型の形態となった竜王三人衆だった。中心にて三色の光輪を結び、大砲の如くそれを構えるムド。彼女の背後にはボガが控え、ムドが衝撃で吹き飛ばないよう、しっかりと支えている。残るダハクは沈水植物を大量に発生させ、二人と大砲を更に固定。光輪は次第に電気を帯び、竜の咆哮のような轟音を奏で始めていた。そして丁度この時になって、アンジェの不意打ちが決まる。


『―――竜咆超雷撃砲ウラノグラフィア


 その瞬間に放たれたのは、神の怒りに等しい一筋の雷撃弾であった。流れ星、或いはレーザービームの如く一直線に伸び、瞬く間に目標であるマリアへと着弾。五感を失ったのと同時に撃たれては、流石のマリアもこれを躱す事はできなかったようだ。


「うんぬぅぅぅ……! 反動が、やべぇッ……!」

「辛抱、なんだ、なあッ……!」

「もっと、もっと魔力を回して……!」


 下手な攻撃は意味がない。だからこそ竜王三体分の魔力をこの一発に篭めたその砲撃は、マリアの肉体を難なく貫き、血を焼き焦がし続ける。


「……ッ!」


 大砲の如き砲台から放たれただけあって、レーザービームは極太だ。マリアの腹部には大きな穴を開き、それはレーザーが続く限り、傷が塞がれる事はない。また、その間には電撃による強烈な麻痺効果が付与され続け、五感を取り戻した後も、マリアは肉体を上手く動かせない状態に陥っていた。一世一代のチャンス到来、ここでとある人物に出番が回ってくる。


「にゃんの、これ、しき……!」

『三人とも、よくやりました。あと少しだけ持たせてください』


 メルである。これまで仲間達全員の支援に徹していた腹ペコ女神――― もとい、新婚ホヤホヤの新妻であるが、現在の彼女は蒼き天使の輪と翼を顕現させ、凄まじい量の魔力を放出させていた。ここで全てを決めるつもりなのか、『自食』も全開にしているようである。


「―――不変の氷細工アルザベド

「ふゃや―――」


 痺れて舌足らずなマリアの言葉が、その瞬間に完全に途切れた。メルが使用したのはS級青魔法【不変の氷細工アルザベド】、対象をその姿のまま氷の彫刻とし、その中に完全に閉じ込める封印魔法である。効果範囲が一体のみ、それも人間大の大きさまでという制限があり、必要とする魔力量の桁がおかしい、発動するまでに相当な時間が要すると、何から何まで融通が効かない。が、その分効果は抜群であり、一度発動させしてしまえば、どのような怪物が相手だろうと確実に封印する事ができるのだ。マリアとて、それは同様である。


『セラ! ジェラール! 今です!』

『『言われずともッ!』』


 封印が完了した丁度そのタイミングにて、大剣を振りかぶったセラ達がマリアの氷像に急接近。そして、攻撃。完全に粉砕するつもりで放たれた斬撃であるが、氷像は欠片も破壊される様子がなかった。代わりに衝撃は氷像を吹き飛ばす力として還元され、マリアは氷像の中に閉じ込められたまま、場外へと一直線に飛んで行く事となる。


重風圧エアプレッシャーノナ!」


 追い風を追加とばかりに、更にケルヴィンがその方向へ進む力を手助け。これにより氷像の進むスピードは更なる進化を遂げ、次の瞬間にも場外へと至る勢いであった。勝利は目前である。


 ……しかし、またしても場外勝利の目論見は外れてしまう。セラとジェラールのパワー、そしてケルヴィンの後押しで場外に向かっていた氷像が、不自然なほどにピタリと止まってしまったのだ。また、その直後に氷像の背後より、何者かの人影が――― いや、最早この場面において、そこから現れるのはマリア以外に居ないだろう。氷像の中に封印された筈の彼女は、異形の姿のまま、しかし肉体に宿した十の光を口のような形に変えて、再びケルヴィン達の前に現れた。


「やるね、今のは少しだけ負けを覚悟しちゃったよ。けど、海亀の血海モドキミステリースープはこういう時の保険にもなるんだよね♪」

「ッ……! お前、水中の血で一から肉体を作り直したのかよ!?」


 ケルヴィンの指摘は当たっていた。封印が解けないのであれば、肉体をその外部にまた作り直せば良い。そんな暴論の下で行われた肉体の再構成が、いともたやすく行われてしまっていたのだ。恐らく封印の最中にある氷像の内部には、マリアの元本体であった血の残滓が残っているのみだろう。


「フフッ♪」


 マリアは不適に笑うのみで、それ以上ケルヴィンの問いに答えようとはしなかった。その雰囲気があまりに優雅であったが為に、凄まじい攻防が行われていたのが嘘のように、ゆったりとした時間が流れているように錯覚してしまう。実際にはケルヴィンを含め、この場に集った仲間達は新たなる攻撃を放とうとしていたのだが、どうにも世界の動きが鈍い。攻撃が、繰り出せない。


(いや、これは……)


 自分達が緩慢な動作をしている訳ではない。流れる時間が遅くなった訳でもない。ただ、次第にマリアがこぼす笑い声が、少しずつ、だが確実に重なっているように思えて――― 気が付けば、その笑い声は歌へと変貌していた。


「「「「「「「「「「―――♪」」」」」」」」」」


 十の口から奏でられる、単独ソロ十重奏デクテット。異世界のスキル『歌神LV3688』を有するマリアの歌声は、それそのものが人々の心を揺さぶる魔法であり、実際に魔法を発動する呪文でもあった。この瞬間により、ジェラール、セラ、メル、ダハク、ムドファラク、ボガの六名は、戦線を離脱する事となる。

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