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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第383話 誕生秘話

 ケルヴィンが展開した魔法陣、直後にその中より現れたのは、セルシウス家の頼もしき仲間達であった。クロト、ジェラール、セラ、メル、アレックス、ダハク、ムドファラク、ボガ、ハード――― これまでの旅路で契約してきた猛者達が、この海の底で一同に会した訳だ。


 また、それと同時に画面越しのクロメルも、『怪物親』を発動していた。マリア側からは一画面しか表示されていないように見えるが、実のところ、クロメルの前には幾つもの画面が並んでおり、あらゆる方向からフィールド全てを見渡せるように設定されていたのだ。個人としての意識がなく、契約した時期からして繋がりの薄いハードは例外だが、他の契約者達はクロメルにとっての家族同然の存在である。よって、彼女の固有スキルはほぼ全員に行き渡っていく。


 ―――ドドドドドドドドッ!


「……なかなかに壮観だね。戦いの事なんか忘れて、勧誘しちゃいたいくらい」


 海水隔離用の障壁が解除され、フィールド内に大量の海水が流れ込む。その際に生じる轟音をバックに、マリアはゆっくりと味わうが如く、ケルヴィン達を眺め回していた。そうしている間にも海水は満たされ始め、既に膝上の高さにまで達しようとしている。


『双方、準備は良いな? では――― 始めッ!』


 ツバキによる試合開始の号令が発せられた。後に伝説として水国トラージに語り継がれる戦いが、今、始まる。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 『吸血姫』マリア・イリーガル、御年■■10歳。異世界から召喚されて来た彼女は、彼の世界における大魔王を自称していた。吸血鬼としての身体的特徴を除けば、マリアの容姿は大変に可愛らしい可憐な少女、としか映らないものだ。何も知らない者からすれば、大魔王だとは絶対に思い至る筈がないだろう。それどころか魔王、或いは魔王軍の幹部であると説明しても、鼻で笑われるのが関の山だ。更に降格に降格を重ね、“魔界で生まれ育った子供”の位に行き付いたところで、それなら納得であると、相手は頷いてくれるかもしれない。しかし、だ。ご存じの通り、その実態は真逆である。大魔王という仰々しい言葉ですら、彼女の前では過小評価に繋がってしまう。言ってしまえばマリアは、彼の世界におけるバグ・・であった。


 かつてマリアの世界には、その世界を管理していた神が存在していた。有していた権限や力などに差はあるだろうが、この世界でいうところの転生神の役割に近い存在だ。但し、転生神のように代替わりをするような事はなく、彼女は気が遠くなるほどの長い間、彼の世界を管理し続けていた。だからこそというべきか、晩年の彼女の性格は、非常に怠惰なものになっていたようだ。そして、そんな怠惰な性格こそが、彼女にとっての最悪を招く要因となってしまった。


 神が統治していた世界は当初、勇者と魔王が対峙するスタンダートなファンタジー世界であった。周期的に誕生する魔王を討伐する為、神が派遣した天使を介し、異世界の勇者を召喚する。召喚された勇者はチート能力を有しており、魔王を打ち倒すに足りる力を十二分に神から与えられていた。彼の世界の歴史上、神の恩恵を得た勇者は無敵を誇り、どんな強大な魔王が誕生したところで、勇者側の連戦連勝が止まる事はなかった。


 神は思う。自らの姿に最も似た人間こそが、この世界で最も美しい生物であると。この世界の頂点に立つ種族は、人間こそが最も相応しいと。それほどまでに、神は人間達を愛していた。また一方では、同じ人間同士で争いはしてほしくないとも考えていたようだ。


 ……だからこそ、神は敢えて魔王を創造した。人類の敵として、定期的に誕生させてきた。意図して、絶妙な強さになるように。世界に魔王という絶対悪を存在させる事で、人間達を一致団結させる。争い合うのではなく、助け合うよう扇動する。そこに勇者という最強の駒を投入する事で、絶対的な勝利を収めさせる。それこそが神のとっての最も美しい光景であり、この世界のあるべき姿であったのだ。


 魔王が現れ、人々が協力し、勇者を召喚、勝利する。また暫くして新たな魔王が現れ、人々が協力し、勇者を召喚、勝利する――― 何度も何度も、何十何百何千とこの流れを繰り返していくうちに、神である彼女が下界に神託を下さなくとも、自然と魔王は倒されるようになっていった。自然の摂理として、世界とルールとして、この流れが定着していったのだ。


『ああ、漸く完璧な世界が誕生した。美しい、本当に美しい』


 神は満足した。この世界は完璧に至ったと、そう確信していた。だからなのか、これ以降、神は物語りの作り手を降り、好みの劇を空の上から覗き見るだけの、傍観者に成り下がっていった。だがそれでも、彼女の世界は何十年と上手く回っていたのだ。 ……世界のバグ、後に『髑老』と呼ばれるヴァカラ・ズィンジガ、自らを『吸血姫』と称するマリア・イリーガルが、連続して誕生するまでは。


 魔王を誕生させる世界システム、それは限りなく完璧に近いものであり、傑作とも呼べるものであった。しかし、どのような傑作もメンテナンスなしに使用を続けていけば、いずれは故障を来たすものである。長きに亘って酷使し続け、その上でろくに整備もされてこなかったシステムは、ある時に異次元の力を有する二人の魔王を誕生させてしまう。そう、その魔王こそがヴァカラとマリアであり、神が失墜する発端であったのだ。


 だが、この段階で異変に気付く事ができていれば、まだ彼女にも挽回の余地はあった。魔王誕生システムは神の創造物であり、いくら傑作と言えども、彼女よりも強い力を持つ者を誕生させる事はできなかったからだ。召喚した勇者がヴァカラに敗北した時点で異変を感じ取り、自ら討伐に出向いていれば、そこまでの障害になる事は決してなかった筈なのだ。


 ……尤もお察しの通り、そうはならなかった訳だが。この頃の彼女は既に怠惰を極めており、勇者の敗北も「まあ、そんなまぐれ・・・もたまにはあるものよね。じゃ、次に期待しましょう」で済ませてしまったのだ。そして、以降も彼女は極上の勇者を召喚し、極上の経験値としてこれをマリア達に献上し続けた。


『……あれ? 流石におかしくない?』


 幾度もの勇者の敗北を経た頃、流石の怠惰神も事の重大さに気付き始めたようだ。だが、もうその時には全てが遅かった。バグ的な素質を秘め、その上で十分な経験を積んだヴァカラとマリアは、既に神をも超える力を持つまでに成長していたのだ。今更になって神が直接出向いたところで、彼女は無力である。精々、二人が更なる成長をする為の起爆剤にしかならず―――


『はぶべべ……!』


 ―――結果として、神はマリア達に食われてしまった。彼女の血肉は余すことなく二人の糧となり、彼の世界は管理者を失ってしまったのだ。何ともあっけない、本当に間抜けな最期である。


 神の敗北後、世界のパワーバランスは大きく変動していった。連戦連敗の異世界の勇者は、徐々にその存在が不審に思われ始め、最後には召喚の儀式自体が風化。人間の領土は大きく刈り取られ、堂々と魔王の国が乱立するようにもなった。神に寵愛された人間達にとって、この時代は絶望そのものと言って良いだろう。このまま自分達は滅んでしまうのではないかと、眠れぬ日々が続いていく…… が、不思議な事にそれ以降、マリア達が人間の国に攻め入る事は殆どなかった。


『盆栽!』

『アイドル!』


 ……二人は目覚めていた。何がとは言わないが、完全に嵌っていた。世の中、戦争だけが全てではないのである。


 まあ、そんな冗談半分は抜きにするとしても、だ。文化的で面白い事をする。美味しい料理を開発してくれる。稀に強い個体が生まれて遊びに来てくれる――― そんな人間の事を、マリア達がそこそこ気に入っていたのは確かだろう。少なくとも永劫の年月に溺れた怠惰神よりかは、よほど好ましいと思っている。まあそんな訳で、以降も彼の世界は人間と魔王が共に生きる、何とも不思議な関係が今日こんにちまで続いている。


 ……ちなみに、勇者を召喚する為に神が派遣した天使には、異世界へと道を繋げる力があり、マリア達はそんな彼にも大変な興味を持ったようだ。現在、その天使は大魔王の一人を名乗っており、神の事も忘れて、今も元気に活動中である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 女神が盛大?やらかした件w マリアの職業レベル、ケルヴィンとの模擬戦で上がるんじゃ・・・あと70だし
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