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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第374話 つまりは愛

 一方その頃、披露宴会場では。


「はぐはぐはぐはぐはぐッ!」

「もぐもぐもぐもぐもぐッ!」

「これは凄まじい食事スピードだぁぁぁ! 双方に置かれた料理が次々に消失し、空の皿が量産されていきます! フルコース大食い対決が始まってから、一体今は何巡目に入ったのでしょうか!? 食べるのが早過ぎて、カウントが間に合いませぇーん!」


 本日の主役、新婦メルと友人枠代表の久遠による、熾烈な大食い対決が行われる真っ只中であった。片やウエディングドレス姿、片やお呼ばれ用のドレス姿と、絶対に大食いに適していない恰好であるが、二人はそんな事など一切気にする様子もなく、目の前の御馳走に意識を集中させていた。司会役のスズ(弟子三人の選出ジャンケンで勝利)も頑張って声を張っているが、あまりにもあんまりな二人の食事速度に、言葉が追いついていないようだ。


「もう見ているだけでお腹一杯なのに、まだまだ空腹は衰えない! それも笑顔、笑顔です! どちらも良い笑顔! マスター・ケルヴィン! あの笑顔には一体どんな意味がッ!?」

「え? あ、いや、フルコースが美味しいから笑顔なんじゃないかな? あと、食べても食べても、直ぐに次が用意されるのが嬉しいんだと思う」

「なるほど、そうだったんですね! 流石はマスター・ケルヴィン! 目の付け所が違います!」


 彼女の補助の為に急遽解説役に駆り出されたタキシード姿のケルヴィンが、若干胃もたれしたような表情を浮かべながら、スズの問いに返答していく。


「しかし、今回の調理と配膳を担当している天使の皆様も負けていません! 大食い選手達の食事スピードに負けていないだけでなく、こちらもまた笑顔です! 皆が良い笑顔なのです! マスター・ケルヴィン! あの笑顔には一体どんな意味がッ!?」

「う、うーん…… 推しの為に働ける喜びが無限に湧き出ている、とか? 自分達の作った料理を美味しそうに食べてくれる姿を見て、それもまた堪らない状態なんじゃないかな……?」

「なるほど! つまりは愛、そういう事なんですね!?」

「こ、広義的には多分……」


 自らの仕事を全うする為、見た事がないくらいにハイテンションなスズの様子に、ケルヴィンは若干押され気味だ。


「「おかわりッ!」」

「っと、ここで同時におかわりの催促が出ましたッ! もっとスピードを上げても構わない! むしろ、ドンドン持って来い! これはそういう意図があっての合図なのでしょうか!?」

「あー…… 食材の在庫が切れる前に、一杯食べたいだけじゃないかな?」

「な、何とッ! 目の前の料理を口にするだけでなく、提供する側の在庫状況も気にしていたッ……!? ま、まさかそんな深い読み合いが、大食いたたかいの裏で発生していたなんて……!」

「いや、単に経験則だと思う」


 これまで幾つもの店の在庫を枯らしてきた、そんな二人だからこそができる荒業なのであった。


「さ、流石はメル様のご友人……! まさか世界には、メル様に匹敵する食欲の持ち主が存在していたとは……!」

「フッ、これはメル様が二人居ると仮定して動いた方が良いかもしれませんな――― 待て、メル様が二人居る!?」

「うおおおお! メル様が二人いらっしゃるぞおおお!」

「動け、私の体! これまでの二倍のスピードで動けぇぇぇ!」

「不足分の買い出しぃぃぃ、行って来まぁーーーす!」


 そんな二人の期待に応える為、裏方の天使達もギアを上げ始める。それは現実か妄想か、彼らの目にはメルが二人映っているようで、本当に二倍の速度で仕事をしているのだから驚きだ。


「む、戻って早々、白熱しているようであるな」


 そんな風に披露宴会場が荒ぶる中、邪神アダムスが自らの席へと戻って来る。


「あ、おかえり~。そうそう、久遠が今頑張っているとこ~。でも、そろそろ限界かな?」

「そうなのか? まだまだいけそうな雰囲気があるようだが」

「うん、胃の方はまだ大丈夫。でも、食べた分のエネルギーが消費し切れない領域にまで来ているから、もうギブアップすると思うよ? 昔は大丈夫だったけど、今は年齢的な事もあって、健康に気を遣っているんだって~」

「……アレで、か?」

「アレでなんだよね~」

「んぐんぐんぐんぐんぐッ!」


 また健康の為、昔よりよく噛み、アルコールの類も控えるようになったそうだ。どう見ても十代にしか見えない容姿の久遠であるが、ひょっとしたらそれ相応の努力を、日頃からしているのかもしれない。 ……尤も、そろそろフルコースのおかわりが三桁に届きそうな辺り、それでも常人の食生活とはかけ離れた日々を送っていそうではあるが。


「ごくごくごくごくごくッ!」

「おっとー!? メル選手が大樽ごとワインを飲み始めたー! 明らかに自らよりも大きな大樽を抱え、ドレスを一切汚す事なくラッパ飲み開始だぁーーー!」

「ワインを控えている久遠に対して、メルはアルコールもお構いなしって感じだよなぁ。まあジェラール並みに酒に強いから、二日酔いになる事はないと思うけど…… これ、絵面的にどうなんだろう? 花嫁がラッパ飲み――― いや、そもそもアレはラッパ飲みの範疇に収まっているのか?」

「それを言ったら、披露宴で大食い対決もどうかと思います!」

「う、うん……」


 それはそうであった。


「ところでマスター・ケルヴィン、お箸が止まっていませんか? 解説役を買って出てくれた事は嬉しいのですが、私はマスター・ケルヴィンにも沢山食べてほしいです!」

「え、俺も? いや、この勝負を見ているだけで満腹気分なんだが…… 一体どうした?」

「どうしたも何も……」


 スズ、なぜかひそひそ話に移行。


「ヒソヒソ(マスター・ケルヴィンはこれからが頑張りどころなんですよね? いえ、私も詳しい事は知らないのですが、式が終わってからも連戦が控えていると、そんな風の噂を耳にしまして)」

「えっ? 何の話だ?」

「ヒソヒソ(いえ、全てを語らなくても大丈夫です。スズは分かっていますとも。“ちょっと待った”に選ばれなかった因縁の相手と、秘密裏に戦う事になっているんですよね?)」

「……?」

「ヒソヒソ!(くう~、流石はマスター・ケルヴィンです! 来るものを拒まず、正々堂々挑戦を受けるスタンス! 痺れますッ!)」

「いや、盛り上がっているところ、悪いんだが……」

「ヒソヒッソ!(だからこそ、英気を養う為にも頑張って食べてくださいね! マスターの一番弟子であるこのスズ、陰ながら応援させて頂きます!)」

「………」


 ケルヴィンは不審に思った。そんな予定、今のところないんだが? ……と。


(この後に連戦、だったっけ? いいや、そんな嬉しい予定、あるとすれば俺が忘れる筈ない。スズの奴、何か勘違いしているんじゃないか? 式が終わった後の予定と言えば――― あっ)


 何かを思い出したかのように、ケルヴィンがある客席の方へと目を向ける。


「うう、メル様のあの雄姿を、この目に焼き付けなければ……! 私の脳内に、永久保存版として……! あ、あとメル様とフルコースが交わったこの馥郁とした香りも、私の中にあるスメル百科に登録しておかなければ……!」


 そこに居たのは、一昨日にケルヴィンと結婚を果たしたコレットであった。いつもの様子で信仰に身を捧げるその姿は、最早ケルヴィンにとっては見慣れた日常そのもの。改めてツッコミを入れる必要さえない、普通の光景である。が、そんなコレットを目にして、ケルヴィンは別の点で思うところがあったようだ。


(……もしかして、連戦ってそっちの意味? おい待て、どうしてあの話・・・が広まっているんだよ!? 誰だ犯人!? バトルの方の意味で噂になっているのは、まあ不幸中の幸いだけど……!)


 取り合えず、精の付く料理を無理にでも食べる事にしたケルヴィンなのであった。

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