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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第361話 夜は長い

 荒野での輝かしい記念撮影を終え、釣り堀会場に帰ってからも、新たに記念撮影を行う事になった俺達。最終的に全員が自分の魚拓を持って撮影するという、何とも結婚式らしくない絵面になってしまったが、これもまたフリーダムな結果だと言えるだろう。


 大会で一尾も釣れなかった俺は自分の魚拓がなくって、ちょっと疎外感があった――― ゲフンゲフン! とか、そんな風には微塵も思っていない。義父さんも持っていなかったし、決して悲しくはなかった。最終的にセラの魚拓を三人で持つという荒業で、何とか切り抜ける事ができたしな!


 ただ、その後も大変だったんだ。酒が厳禁である筈の会場になぜか酒が持ち込まれ、お酒弱々なセラと義父さんが色々な意味ではっちゃけ、主に俺に対しての絡み酒を始めてしまったのだ。この親子、酒が入るとリミッターが解除されて、加減もクソもなくなるからな。今日の“ちょっと待った”では出番がなかったけど、まさかここで命の危機に瀕するとは思ってもいなかったよ。


 これが戦いの場であれば、首を絞め落す行為くらい余裕で許せる。洒落にならない関節技だって、いくらでも受け入れよう。けど、こういう宴の場でやる事じゃないと思うんだ。確かに新しい技を実際に体験したいと、そう思ってはいたよ? でも、でもさ? 俺が望んでいるものと、こうさ――― 違うじゃん!? うん、思っていたのと違う!


 ……で、そんな波乱の披露宴も、形式上はしっかりと締めて終える事ができた。俺が頑張ったのはもちろんなんだけど、悪魔四天王の皆がフォローしてくれたんだ。断言しよう。彼らが居なかったら、披露宴はもっととんでもない方向に進んでいただろう。悪魔四天王の皆、本当にありがとう! 本気の本気で助かったよ……! と、俺は心から感謝し、バアル家に酒は厳禁だと再確認させられるのであった。


 あ、ちなみにベルもセラや義父さん同様、酒はからっきしなようである。酒を発見した時点で、お姉様の式で恥はかけない! とか言って、一目散に逃走。その時の逃げ足の速さは、本日の“ちょっと待った”のそれに匹敵していたくらいで、実に素晴らしいものだった。けどまあ、酒癖の悪さも親子姉妹で同様だとすれば、ベルの選択は正しかったんだと思う。セラと義父さんの二人だけでも大惨事だったのだ。これが三人になっていたパターンを想像すると…… 嫌な汗が止まらないです、はい。ベル、逃げてくれてありがとう。君の判断のお陰で、俺と悪魔四天王は割とマジで救われたよ。


 まあ、アレだ。そんな皆の協力の下、セラとの結婚式は幕を閉じ、トラブルはあったものの一生の思い出になったんだ。めでたしめでたし―――


 ―――なんて、綺麗に終われば良かったんだけどな。残念な事に、まだ試練は終わっていなかった。そう、今日の式の諸々が終わった後に、俺にとっての真の試練は待っていたんだ。


『え、えっと…… セラさん?』


 夜、さあこれから寝ようかという時、酔い潰れた筈のセラがまさかの復活。まだ相当に酔いが残っている状態で半端に覚醒したセラは、トロンとした表情で俺にこう言ったんだ。


『えへへぇ♪ ケぇルヴィ~~~ン? まだまだぁ、夜は長いわよぉ~~~?』


 拙い口調ではあったものの、力強さは尚も健在。暗闇の中にて紅の瞳を爛々と輝かせたセラが、ベッドの上にて俺に覆い被さる。本日覚えたばかりのファンタジー合気『手詰』も絶賛稼働中で、俺は一切の身動きを封じられてしまった。


『お、落ち着け! お前、まだ着替えていないんだぞ!? ドレスがしわになるって!』


 苦し紛れにそんな事を俺が言っても、予想していた通りセラは聞く耳を持たず――― まあ、何だ。その後の事については、これ以上語る必要もないだろう。例の如く酔いどれセラは加減を知らない為、俺の試練は日が昇る時間帯まで続くのであった。


 ……あのさぁ、確かに久遠の技術を体験したいとは思ったよ? けどさ、何かこう、違うと思うだよねぇ。俺だって何度も愚痴りたくはないんだよ。でもやっぱり違うと思うんだよねぇ、こういう体験の仕方はさぁ…… 違うじゃん!?


 と、本日何度目かの嘆き。しかし、いくら嘆いても現実は変わらず、気が付けばメルとの結婚日である。こんなにも消耗した状態で今日の“ちょっと待った”に臨めるのか、その辺が怪しいところだが、それ以上に夜の方も大分怪しい。だってほら、この前にコレットがあれそれはメルと一緒が良いって、そんな希望を出していたじゃん? 俺、その希望を了承したじゃん?


「―――やばいじゃん!?」

「朝っぱらからどうなさったんですか、あなた様?」


 未だに昨夜の出来事を引き摺っている俺に対し、メルがモグモグと朝食を咀嚼しながら訝しむ。現在、俺達は墜落した白翼の地イスラヘブンに到着したところで、避難場所から故郷へと戻った天使の皆さんと朝食をご一緒している――― 予定だったのだが。


『推しと一緒に食事だなんて恐れ多いです!』

『メル様はどうか、ケルヴィン様と二人きりで朝食を楽しんでください! え、御息女のクロメル様も一緒に? いえいえ、全く問題ありません! どうぞどうぞ!』

『給仕は私達にお任せを! 気配を殺してお支えしますので!』

『ああ、メル様方が我々の用意した料理を食されている……』

『呼ばれない限り私達は空気、そう、何の邪魔にもならない空気……』


 とまあ、そんな事を言われて拝まれ泣かれてしまって、我々家族のみで食べる事になったのだ。メルとクロメルの三人で過ごすのは久し振りだったし、天使達の反応は想定内でもあった為、ここは御厚意に甘えさせてもらう事にした。部屋の外にすし詰め状態となった天使達の気配があるが、まあ気にしなければ、さして大きな問題ではない。昨夜の出来事に比べれば、本当に些細も些細である。


「え、えっと…… パパ、ママ、いよいよ今日は結婚式ですね。私もお鼻さんが高々、です」

「あなた様、クロメルに気を遣われてどうするのですか? 天使以上に天使なんですよ、クロメルは? ハグモグ!」

「いやあ、それについてはどこまでも同意しちゃうんだが、俺にも色々あってさ…… いや、そうだな、ここからは気持ちを切り替えよう。クロメルの言う通り、いよいよ今日がパパとママの結婚式だ。クロメルにもお仕事してもらうから、その時は頑張ってくれよ?」

「はい! 確か、んっと、ベールガール、ですよね? き、緊張しますが、頑張りますです!」

「フフッ、期待していますよ」


 クロメルとメルの笑顔が交差し、俺の中でビックバンが巻き起こった。ああ、何と平和で幸せなひと時なんだろうか。久し振りというのもあって、尚更にそう感じてしまう。メルの目の前に並んでいる山盛りの料理から目を逸らせば、理想的な朝食風景と言えるだろう。


「うう、転生神を引退されても、メル様は女神様だ……」

「それでいてクロメル様は天使だ…… 天使の中の天使だ……」

「私、箱推しになりそう……」


 ……部屋の外から聞こえて来る声も無視しておこう。今はただ、この理想を大切にしていきたい。


「ふふん、ベールガールで喜ぶだなんて、まだまだお子様ね。そんな事をしなくたって、妾は無条件で目立っちゃうんだから!」

「む、食前酒はないのか? ただの我の食事は、酒がないと始まらないのだが」

「……いや、お前ら何でここに居るんだよ?」


 窓の外よりヒュッと風が吹いたかと思えば、椅子を持参したマリアとアダムスが朝食の席に着いていた。唐突な登場、かつ暫く振りの再会ではあったが、予感はあったので驚きは少ない。昨日、久遠も言っていたしな。つかそれよりも、子供のクロメル相手に何言ってんのって感じだし、朝っぱらから酒を飲もうとするな。


「愚問だね。結婚式のあるところに妾あり、だよ~」

「愚問だな。美味い酒のあるところにただの我あり、だ」

「うん、そうじゃなくて」


 ともあれ、今日からこの化け物共も参列してくれるようだ。始まる前から心配である。

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