第344話 惑星弾丸
舞桜が放ったショットにより、この場が惑星の入り乱れる超危険地帯と化す。弾かれた赤い惑星はひと際大きな木星に衝突し、弾かれ、その二つが今度は別のところで別の惑星と衝突――― それを繰り返していけば、存在していた惑星全てに影響が出る。まあ、ビリヤードのイメージそのまんまだな。ただ一つ、通常のビリヤードと違う点を挙げるとすれば、超スピードに至った惑星が、なぜか全く速度を落とさないってところだ。減速と言う言葉が、どうやらこの場には存在していないらしい。
「で、俺がビリヤード台の穴、ポケット代わりって事か!? しかし、舞桜がビリヤードを知っていたとは意外だな!」
「いえ、俺の時代にはなかったゲームですよ! ただ、セルジュさんの知識にあって、何となく面白そうだなぁと!」
え、セルジュの知識由来の技なの、これ? ま、まあ確かに、幻影である舞桜を形作っているオリジナルはセルジュな訳だから、そういうのもアリなのか。
しかし、この惑星ビリヤード、ふざけた発想とは裏腹に結構やばい。飛んで来る惑星を躱しつつ、射線を変えようと魔法をぶつけたりもしているのだが、生半可な威力じゃ微動だにしないんだ。まるで本当に惑星の質量を相手しているような、と言ったら流石に言い過ぎになるが、本気で重いし硬い。聖剣ウィル、舞桜の願いを洒落にならないレベルで体現しにきている。
「っと!」
飛来して来た巨大惑星、木星ボールを回避する。ああ、特にこいつは食らっちゃ駄目だな。見た目のサイズ感通り、この木星が一番重いし、当たったら間違いなく致命的なダメージを食らってしまう。尤も、他の惑星よりも速度が明確に遅いから、躱す行為自体は難しくはないだろうが。
「あ、先にこの技の名前だけ紹介しておきますね! 今ケルヴィンさんが躱したのが、モデルが木星の『聖木』、そっちの真っ赤なのが火星モデルの『聖火』、見るからに土星なのが『聖土』、あっちの氷惑星が海王星を模した『聖海』、あの一番小さいのが水星の『聖水』、そして緑がかった青色が『聖天』、語るまでもないですが天王星がモデルです!」
頑張って名付けましたと言わんばかりに、わざわざ全ての惑星を教えてくれる舞桜教授。いつもの俺であればツッコミの一つも入れているところだろうが、今は割と余裕がないから止めておく。つか、紹介する数が足りなくない? 並列思考で数えていたけど、今の説明じゃ六つ分しか話していないぞ? いや、と言うかだな――― 土星、二つない?
「おいおい、おかしいなぁ!? 俺の知識の中には、太陽系に土星は二つもなかったんだがなぁッ!?」
「奇遇ですね、俺もそうです」
ですよね!? つうか、さっきまで土星は一つだけだった筈。って事は、途中で増えたのか?
―――ギュゥイィィィン!
それとこの土星の輪っか、何か高速回転して斬撃を浴びせてくるんですけど!? 斬り結びたいとは言ったけど、まさか土星と斬り結ぶ事になるとは思わなかったよ! その輪っか、巨大なチャクラムか何かで!?
「■■、■■■■■■■■■■!?(火花、火花が散ってますけど!?)」
「ケルヴィンさん、さっきから思っていたんですけど、その魔剣喋ってません? 何て言っているのかは分からないんですけど、明確に言葉を発していますよね?」
「ああ、早くお前の生き血を啜りたいってさ!」
「■■■■■!(言ってない!)」
飛来する惑星自体の質量と相まって、土星の斬撃は脅威の一言だ。変に受けると、クライブ君の刃が折れちゃうかもな、これは。しかし、この前の改良からクライブ君が普通に喋るようになったのは、プラスと考えるべきか、それともマイナスと考えるべきか。幸い、彼の言葉の意味は俺にしか分からず、他の者には何か気持ちの悪いノイズ、程度にしか認識できないようだが。
って、今はそれよりも目の前の問題か。変な事を考えているうちに、二つあった土星が一つに戻って、今度は海王星が二つになってる。
「……なるほど、単に惑星の姿形を真似たんじゃなくて、その一つ一つに能力を持たせているのか」
二つの海王星が接近した途端、俺の身体とクライブ君が急激に凍り付いていった。氷惑星って名の通り、どうやら周囲の敵対勢力を凍結させる力が備わっているらしい。そして、その力は海王星が二つになった事で、更に強力なものになっていた。
「で、さっきから他の惑星を真似てるやつが、紹介になかった金星って訳か!?」
「ご名答です!」
ピンポン! と、正解音を声にする舞桜。思ったんだけど、元の身体がセルジュのせいなのか、ノリが軽くなってません?
ともあれ、舞桜は続けて説明してくれた。土星や海王星となって、他の惑星の姿と能力をコピーしていたのは、『聖金』と言う名の金星モデル。どうやら自身に一番近い星の性質を真似る事ができるらしい。とんだトリックスターが現れたものだよ。
「凍り付いた傍から回復するのも、楽じゃないんだがなぁッ!?」
「ハハハ、嬉しそうな顔をしている癖に、なかなか天邪鬼な発言ですね」
言葉の通り、凍り付いた氷を剥がし、瞬時に回復させる作業に従事する俺。それと他の惑星弾丸も警戒しなくちゃならんし、まだ解明されていない能力の解明も同時進行、舞桜は舞桜で惑星の陰から聖剣を放ってくるはで、これがなかなかに忙しい! そして何よりも楽しい! こういうマルチタスクは大歓迎だ!
「けど、そろそろ一発食らっとけ、っと!」
「いった!?」
多少の無理を承知で、舞桜に一撃を食らわす。上手く回避行動を取られたせいで浅くしか入らなかったが、今のは他でもない愚聖剣クライブ君の一撃だ。傷口ができれば、そこから呪いが溢れ出るぞ!
「『呪晴』! 『厚遇治療』!」
と、そんな事を考えていたのも束の間、舞桜は自力で傷口と呪いを瞬時に治療してしまった。おいおい、軽傷は兎も角として、クライブ君の呪いは色々と煮詰まった、それはそれは強力は呪詛なんだぞ? 具体的に言えば、子々孫々まで続くタイプだ。それをそんな気軽く治療してくれるなっての。
「ッチ、セルジュの白魔法か……!」
「ええ、持ってて良かった白魔法ってやつです!」
まあ、セルジュの力が使えるのなら、奴の白魔法が使えるのも当然だよな。あいつ、白魔法でも俺とどっこいどっこいの技量があるからなぁ。つまるところ、お互いに致命傷級の一撃を与えない限り、この戦いは勝負がつかないって訳で――― おお、そうか、そうなるよな! 何て素敵な事実が判明してしまったのだろうか!
「おい、何かクライヴ君が錆び始めたぞ!? 赤錆塗れだ!」
「フフッ、それは『聖火』による影響……! 彼の星に近づけば近づくほど、ケルヴィンさんの武器はなまくらになってしまうのです!」
「『大地の研磨』!」
「あっ、魔法で研磨なんて狡い!」
「こんな戦場にしておいて、今更何言ってんだ! つか、さっきからちょくちょく視界がグルグル回転してんだけど!? これも何かの能力か!?」
「フフフッ、それは『聖天』の力で、惑星が自転する角度と敵の視界を同調させる攪乱兵器……!」
「ああっ、またタスクが増えたぞ、どうしてくれる!」
惑星の陰に隠れ、距離を保とうとする舞桜を追い、赤錆と氷に塗れるクライヴ君を振るう俺。並列思考は常に全開モード、それだけやる事が多い、いや、今も増え続けている。ハハッ、この宇宙で生きるのも楽じゃないな、全く!
「煌めく星々が綺麗ですねぇ。これも流れ星の一種になるのでしょうか?」
「ケルヴィン様の笑顔の良さを全人類が理解できますように、ケルヴィン様の笑顔の良さを全人類が理解できますように、ケルヴィン様の笑顔の良さを全人類が―――」
昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の敵。そんな関係を続けてきた俺と舞桜に、この場を楽しまないなんて選択肢は存在しなかった。コレット達も楽しんでいるようだし、俺達も負けていられないぞ、舞桜!