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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第334話 対神戦の鬼

 鮮血が舞う。神の血が舞う。舞う、舞う、舞う――― 今“ちょっと待って”が始まって以来、ドロシーは初となる痛みに遭遇していた。それも全身が削ぎ落されているような、極上の痛みだ。


「ッ……!」


 全方向から無数の斬撃が迫り、全身が斬り刻まれる。それら全ての攻撃は、神の肉体を持つドロシーの防御力を突破し、明確なダメージを現実のものとして実現させていた。序盤、リオンがあれだけの猛攻を仕掛けても、かすり傷の一つもドロシーに与える事ができなかった事を考えれば、これが如何に驚くべき事柄なのかが理解できるだろう。


 事実、ドロシーは嘘偽りなく、この瞬間に驚きを享受していた。ああ、やはりリオンは素晴らしい友人であると、自分の予想を軽々と超えていく偉人であると、感動さえ覚えていた。ならば、この偉業に応えようと、この戦いが始まって以来初めてとなる、反撃に転じようともしていた。 ……しかし、全ては遅過ぎた。ドロシーのラストチャンスは、リオンに『疾風疾風』と『迅雷迅雷』を使用される、その直前までしかなかったのである。


(こ、れは…… 出られ、ない……!?)


 ドロシーを取り囲む斬撃の檻、それは絶えず、そして隙間なく迫り来る絶望そのものであった。物理的に跳ね返そうとしても、斬撃には圧倒的な破壊力が備わっている。弾いても弾いても終わりが見えず、その分だけ自らの拳が傷付いてしまうのだ。また、斬撃は電気を帯びているのか、それらと接触する度に肉が焼かれ、感覚が麻痺していく。無敵を誇るドロシー自身でさえそうなのだ。彼女が持ち込んだ装備品、杖や書物も無事である筈がなく、真っ先に切り裂かれ、S級相応の電撃で消し炭にされてしまった。


(クッ、ならば『時魔法』で――― ッ!?)


 物理的な排除が現実的でないのであれば、時の加速で脅威の消失させてしまえば良い。そのような考えの下、次なる手を打とうとしたドロシーであったが、ここで彼女の体にある変化が起こってしまう。


(何も見えない!? しかも、視覚だけじゃない! 音も聞こえないし、触覚も皆無……! 自分の衣服に触れている感覚さえない!?)


 終わらない斬撃の脅威、その次にやって来たのは、視覚や聴覚、触覚といった感覚の剥奪であった。言ってしまえば、五感が全く働いていないのだ。


 唐突にやって来た無の世界に、ドロシーは酷く混乱した事だろう。如何に神となった彼女とは言え、感覚器官を全て停止させられるなんて事は、全くの未経験だったのだから。そして、そこに陥ってしまえば原因の究明は不可能に等しく、ましてや、まともに防御を行う事もままならなくなってしまう。


 寸前にまで使用しようとしていた『時魔法』も、このような錯乱状態では下手に使う事はできない。時を操る魔法は強力だが、だからこそ繊細な操作が必要となってくる。間違って暴発でもしてしまえば、ドロシーの周囲を動き回っているであろうリオンに当たる可能性もあるだろう。それはドロシーにとって、絶対に避けなければならない事であった。


(これは、えげつないなぁ……)


 『並列思考』を張り巡らせ、外よりリオンとドロシーの戦いを注視していたケルヴィンは、ドロシーが五感を失った原因を何となく察していた。相変わらず姿は見えない。が、ドロシーを取り巻く気配が一つ増えている。十中八九、その増えた気配はアレックスのものだろうと、そう見当をつけていた。


(唐突なドロシーのあの反応、恐らくは五感を奪われたんだ。アレックスが銜えているであろう『劇剣リーサル』――― 五度の攻撃で対象の五感を根こそぎ奪う、あの武器こそが原因だろう)


 ダメージが通れば、それに伴う得物の効果も有効となる。ドロシーが神であったとしても、それは例外ではない。ケルヴィンはそう結論付けた。しかし、ここで疑問となるのは、アレックスもリオンと同様、異次元のスピードとパワーを得ている事だ。ラミ曰く、今回二つの力を与えたのはリオンのみで、アレックスはその対象となっていない筈なのだ。だと言うのに、アレックスはリオンの速度に追いつき、絶妙なコンビネーションで斬撃の檻を張り続けている。これはどうにも理屈に合わない。


(……いや、そうでもないか)


 ケルヴィンは考える。アレックスの『模擬取るもの』を使えば、ラミの固有スキルを模倣する事も可能ではないかと。『模擬取るもの』は影の上に映るものの形を真似、その特性までを模倣するコピー能力。生物は無効だが、それ以外であれば、かつてはセルジュの聖剣だって模倣し尽くしてみせた。ならば、ラミの固有スキルだって無理ではないだろう。現に、今のアレックスの動きはそれ以外に説明がつかない。


(序盤、アレックスを影の中に潜りこませたのは、ラミちゃんの力が発動するまで、アレックスの安全を確保する為。いざその時が来れば、リオンに付与された疾風迅雷を『模擬取るもの』で模倣。そうする事でアレックスも、疑似的に疾風迅雷モードに突入。後は影から飛び出て、リオンと一緒に集中砲火を開始――― ハハッ、そうなれば無敵だ。策に嵌ったドロシーなんて、相手にもならない。なるほど、だからアレックスを加えた2対1の戦いにしたのか……!)


 ケルヴィンは気が付く。リオンにとって、こうなる事は最初から計算尽くだったのだと。理由は何でも良い。それらしい理由を並べてお願いすれば、ドロシーはリオンの条件を必ず飲む。また、どこまでもリオンに甘いドロシーは、実力差を理由に舐めプに走る。そんな馬鹿な行為が許されるほどに、実力差は明白だった。が、ドロシーがどんなに強く格上の存在であろうとも、その隙にハメ技に陥れてしまえば、本来の力は全く出せなくなる。本領発揮? そんなものは許さない。良い勝負をしようなんて、リオンは元より考えてはいなかったのだ。目指すは全ての事柄を利用し、勝利のみを追求した容易い勝利――― そう、この戦いは最初から、リオンの掌の上で進んでいたのだ。


「おろろ? ドロシアラちゃんの姿が消えちゃった」

「む、ここに来ての新たな能力か?」


 五感を失い、最早成す術のないドロシー。苦し紛れ、或いは逆転の一手を狙ってなのか、彼女は神霊デァトートの力を使い、自身を霊体化させて、この場を切り抜けようとした。霊体化した状態であれば、斬撃も電撃もすり抜けられると考えたのだ。だが、しかし。


「ぎッ……!?」

「無駄だよ、シーちゃん。霊体は僕にとって、格好の獲物でしかない」


 結論から言えば、肉体の霊体化は大失敗であった。固有スキル『絶対浄化』を有するリオンは、現在ドロシーの周りを光速で駆け抜けている。リオンが移動すればするほどに、この戦場一帯は浄化され、神聖な場所へと移行していくのだ。幽霊でも出現しようものならば、瞬間的に成仏させられてしまう、サンクチュアリである。尤も、そこは個としての存在が強固であるドロシー、直ぐ様に霊体化を解き、大ダメージを受けるのみに留まったようだ。


(です、が……)


 ドロシーは悟る。これから戦況を覆すとなれば、それこそ大規模な反攻を行う以外に手立てはない。だが、そうなればリオンを巻き込んでしまう。細かな調整が効かない今、最悪パーズの街をも巻き込む可能性がある。元よりこれは、ケルヴィンに対する嫉妬心から始まった戦いだ。それは彼女の望むところではないし、彼女にとっての“ちょっと待った”には、それほどの意義もない。まあ、つまるところ―――


「リオンさん、ご結婚おめでとうございます」


 ―――ドロシーは敗北を認め、斬撃の嵐に身を投じるのであった。

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