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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第325話 救出劇

「どうだ? 見えるか?」

「おおっ、何だか全体的に色合いが独特ですが、さっきよりも眩しくないです! 良いですね、この眼鏡! って、あ、あれはッ!?」


 ダンからサングラスを受け取ったロノウェは、その実況力を大いに発揮させる事で、猛烈な輝きの中から二つ、何者かの人影が弾き出されたのを確認した。双方が全く逆の方向へと向かって行くが、どちらも猛スピードである事に変わりはない。このまま進んで行ってしまうと、コレットの結界の外へと出てしまうのは明白である。


「ぐっ、げほ……!」

「か、はッ……!」


 二つの人影は、ボロボロになったケルヴィンとエマのものだった。声色を耳にするだけで分かるほどに、両者とも酷い状態である。意識が朦朧としているのか、回復魔法を使用する様子も、結界の外に出ないようにブレーキをかける様子も見られない。このままでは本当に、双方とも場外負けになってしまう。そうなってしまえば、どちらが先に場外になったかが焦点になる訳だが―――


「させま、せんッ……!」

「エマ……!」


 ―――双方の相方が、それを黙って見ている筈がなかった。


(ダメージも酷いですが、全身の火傷と凍傷も無視できない状態……! ご丁寧に『咎の魔鎖』でそれら状態異常も固定化していますね、これは……!)


 ありったけの魔糸を展開したシュトラが、それらで弾き出されたケルヴィンを受け止める。先の衝突で氷女帝の情愛セルシウスカリタスの魔糸は切られ、フィールドに張っていた蜘蛛の巣も全て破壊されてしまった今、ケルヴィンを止められるのは自前の魔糸のみ。猛スピードで飛ばされたケルヴィンを止めた反動は凄まじく、魔糸に、そしてシュトラの両指に激痛と負担がのしかかるが、この魔糸を手放す訳にはいかない。国の為、勝利の為、式を成功させる為――― シュトラをそうさせる理由は様々ある。だが何よりも、何が起きようとも、愛しき人を諦めるなんて選択肢は、シュトラの中に存在しないのだ。


(クッ……! 最後に使ったケルヴィンの大鎌、あれはいつもの魔法じゃなかった……! 見てくれは絶対の斬撃、だけど実体は凝縮に凝縮を重ねた、爆風の権化……! 初めからエマを場外にする事のみに焦点を当てた、そんな攻撃だったんだ……!)


 戦闘の火中で唯一無事だったシルヴィアであるが、今の彼女の表情に余裕なんてものはない。大急ぎで踵を返し、爆風によって弾き飛ばされたエマを追う。ケルヴィンと衝突した際、そこで巻き起こった衝撃の殆どはシルヴィアが盾となり、防ぎ切った――― と、当初の予定ではそうなる筈だったのだが、ケルヴィンの大鎌の一撃は非常に不規則なものだった。正面からぶつかり合う純粋な力の衝突、一見そのように見えはしたが、実際は大鎌の刃は鞭のようにしなり、シルヴィアの背後に居たエマにまで、その凶刃を届かせていたのだ。結果としてエマは爆風をもろに浴びる事となり、気を失ってしまった訳である。


 そんな経緯があって始まった、両陣営による相方の救出劇。こうなる事をある程度予想しての事なのか、シュトラの動き始めは非常に迅速であったし、シルヴィアの反応も実に超人的で、判断の早さも文句のつけようがなかった。このまま順調に事が進めば、ギリギリではあるが場外扱いになる前に、どちらも仲間を助け出す事ができるだろう。 ……そう、順調に事が進めば、であるが。


「ッ!?」


 痛みに苦しみながらも、シュトラはケルヴィンを受け止め切った。しかし、その一方でエマを追いかけるシルヴィアの前には、とある物体が立ち塞がっていた。


(これは、シュトラの……!)


 漆黒の蜘蛛型ゴーレム、ケルヴィンとシュトラの共同作業の産物――― その名は、黒土傀儡像アダマンアレニエ。彼の蜘蛛は先の衝撃の際、シュトラの盾となって全て破壊されたと思われていた。しかし、実のところ一体のみ、結界の隅に隠れ潜んでいた黒土傀儡像アダマンアレニエが居たのだ。


「シュト、ラ……! まさかここまで、読んで……!?」


 排除するだけであれば、シルヴィアがこのゴーレムに苦戦する事などあり得ない。が、今は一分一秒、それどころかコンマ秒を争う状況なのである。倒すにしても、迂回するにしても、相応の時間は必要。躱して突破するのが、最も時間を節約できるだろうか? 考えている時間も惜しい。シルヴィアは自らの感覚を信じ、最小限の動きで黒土傀儡像アダマンアレニエを突破。エマに向かって手を伸ばし、親友を助け出す努力を尽くした。 ……が、元よりギリギリの想定は覆らず、シルヴィアがその手を握るよりも前に、エマの体が結界の外へと抜け出してしまう。


「鍛え抜いた実況力、つまるところそれは眼力! 私の目は今、確かにエマさんが結界の外に出たのを捉えました! ええ、本当ですとも! 凄いぞ、私の目ぇぇぇ!」

「そうか、良かったな。それで、つまるところ?」

「ええ、つまるところですね――― この試合、ケルヴィンさんとシュトラ様の勝利でぇぇぇす!」


 堂々と宣言されるケルヴィン達の勝利宣言、それに続けて轟く観客達の声。結局戦いの殆どは見えずじまいだったし、何が起こっているのかも大半の者は理解できなかったが、シュトラが勝利したその事実は、トライセン国民の心を揺らすのに十分過ぎるものだった。


「ん、間に合わなかった……」


 コロシアム中に声援が鳴り響く中、気絶したエマを抱えたシルヴィアが地上へと降り立つ。


「シルヴィア、本気で勝ちに来てくれて、ありがとな…… 本当は判定勝ちじゃなくて、直接の勝利を掴みたいところだったが…… 場外を選択しないと勝てないってくらい、マジで追い詰められたよ。うん、本当に最高の時間だった……」


 続いて、シュトラに肩を借りたケルヴィンも地上へと降りて来る。ここへ来るまでに回復魔法を使ったのか、戦闘のダメージはすっかりなくなっている様子だ。但し、全身の火傷と凍傷は未だそのままで、正直見た目は痛々しいままである。


「まさか術者が気絶しても、固有スキルの力が続くとは…… 読みが甘かったです」

「終始読みに読んでいたシュトラがそう言ってくれると、エマも浮かばれる。是非とも辞世の句に入れておきたい」

「あの、まだ私、死んでないんですけど……?」


 何ともタイミングが良いもので、ここでエマも目を覚ましたようだ。同時にケルヴィンに施していた『咎の魔鎖』が解除され、漸く治療可能な状態となる。


「では、改めまして…… シュトラ、ケルヴィンさん、ご結婚おめでとうございます。あなた方が結ばれた事を、心から祝福します。本当にお似合いですよ、ったくもう」

「ん、おめでとう。二人が一緒になってくれて、私も嬉しい。あとケルヴィン、今度はちゃんと殺すから、その辺も安心しておいて」

「ちょ、ちょっと、シルヴィア!?」


 笑顔でとんでもない事を言うシルヴィアに対し、エマが鋭いツッコミを入れる。その光景が何だかおかしくて、ケルヴィンとシュトラは揃って笑ってしまうのであった。


「く、くふっ…… クハハッ! ああ、お陰でこれからも人生が楽しめそうだよ。しっかし誠実って言うか、どこまでも義理堅い奴だな、シルヴィアは」

「何でそうなるんです!?」

「まあまあ、良いじゃないですか。物騒に聞こえるかもしれませんけど、これもコミュニケーションの一種なんです」

「シュ、シュトラ、理解のあり過ぎる奥さんも、正直どうかと思うよ……?」

「ねえ、披露宴には御馳走出る?」

「もちろん。シュトラ曰く、トライセンの伝統料理が並ぶらしいから、シルヴィアにとっては懐かしい味も多いんじゃないかな?」

「おおー……!」

「ああ、もう、既に別の話に切り替わってるし……」


 ―――新郎ケルヴィン、新婦シュトラ、“ちょっと待った”の撃退に成功。

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