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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第324話 二人だからこそ

 シュトラが蜘蛛の巣の一部を耐久性特化、或いは斬撃性に特化させて敵の次の手に備えている最中であるが、何はともあれ、まずは現在進行形で迫っている炎の壁、真っ赤な熱湯大津波の対処をしなくてはならない。ケルヴィンが大鎌を大きく振りかぶり、その迎撃に当たる。


「フッ!」


 振りかざされる極太の斬撃。それが放たれると同時にシュトラが魔糸を操り、斬撃の通り道が開けられる。たとえ相手がS級魔法であったとしても、何の耐性も持たないのであれば、大風魔神鎌ボレアスデスサイズの敵にはなり得ない。狭間にある蜘蛛の巣を抜け出した巨大な斬撃は、こちらを飲み込もうとしていた炎と水を逆に飲み込み、ど真ん中から二つに引き裂いた。超広範囲を巻き込む攻撃手であった筈の二つの魔法は、以降すっかりと勢いを失ってしまい、多少進行方向にあった魔糸を焦がし、濡らす程度の被害を出すだけで、その役目を終えてしまう。


 所謂阿吽の呼吸で行われるケルヴィンとシュトラの動作は、正に共同作業の極致と呼べるものであった。しかし、これはあくまでも敵の攻撃に対処しただけであり、決して最後の共同作業などではない。先ほどの衝突は前哨戦に過ぎず、本番のぶつかり合い、本番で最後の共同作業は、正にこれから起こるのだ。


「来るぞ。シュトラ、準備は良いか?」

「いつでも」


 二つの脅威を屠った後も、ケルヴィンの斬撃は前へ前へと行進を続けている。その矛先はもちろん、シルヴィアとエマだ。しかし、強大な魔法を打ち破ったこの斬撃でさえも、二人を倒す事は叶わないと、この時点でケルヴィンは確信していた。シルヴィアに魔法が効かないから? 当然、それもある。だが今はそれ以上に、四散した魔法の背後から現れた二人の姿を見て、自然とそう思えてしまったのだ。


「「―――雪火焔氷剣フェリシタシオン!」」


 真っ赤な炎と水飛沫、それらが晴れた先で待っていたのは、巨大な、それこそケルヴィンの大風魔神鎌ボレアスデスサイズをも上回る大剣を携えた、二人の姿であった。シルヴィアが前に、エマがその後ろに並ぶ形で共に大剣の柄を握っている。剣を振るうにしては異形とも呼べる構え、そもそも振り切れるのかも怪しいところだ。


 そんな二人の体勢にも目が行くが、それ以上に存在感を放っていたのは、やはり炎と熱、氷の水が複雑に混ざり合った異形の大剣だった。前述の通り巨大であり、炎を吐けば氷も纏っていると言う、矛盾に満ちた見た目をしている。本来であれば互いが互いを苦手とし、共存なんてできない存在、しかし、それは確かにそこに存在し、激しく、そして静かにその時を待ち望んでいた。


「ん、この日の為に私とエマで編み出した、とっておきのとっておき」

「これを以って、最後のサプライズプレゼントとします。二人とも、受け取ってくれますよね!?」

「「もちろん!」」


 ケルヴィンとシュトラがそう答えると同時に、異形の大剣が強烈な炎を吐き出した。それはこの戦いの最中、エマが使用していた噴焔ペルセと同種の炎――― いや、同種ではあるが、火力が段違いであった。炎の噴射と共に二人は宙に放たれ、恐るべき速度でケルヴィン達の下へと迫る。


「やっぱり邪魔かも」


 最初に衝突したのは、元よりシルヴィア達に向かっていた大風魔神鎌ボレアスデスサイズの斬撃であった。つい先ほどシルヴィア達の魔法を正面から食い破った、言わずと知れた絶対攻撃――― だった訳だが、例の如くシルヴィアに対しての効果は薄い。薄いどころか全くの無力と言っても良く、前に構えていた彼女とぶつかった瞬間に、粉々に砕け散っていってしまう。


『あの構え、ふざけているようで厄介だな……!』


 炎の噴射で空を舞う今も、シルヴィアとエマの構えの体勢は変わらずに維持されている。前にシルヴィアが居る限り、彼女自身が盾となって、魔法の類を全て無力化してしまうだろう。


『ですが、それは前面から迫る攻撃に限定した話です。全方位から攻撃を仕掛ければ、少なくともアシュリーは……!』


 シュトラが両腕を大きく引くと、その動作に従って数多の蜘蛛の巣が動き始めた。複雑な編み目を描いた魔糸が、シルヴィア達に吸い寄せられるように、四方八方から一斉に飛び掛かったのだ。まるで放り投げられた投網とあみである。しかし、その網を構成する魔糸の一本一本はどれも強力、斬撃と耐久性に優れた魔糸を交差させ、攻防一体となって―――


 ―――ジュジュッ!


 ―――駄目だった。前後左右上下のどこから魔糸が近付いても、二人に触れる事もなく溶解してしまった。どうやらあの異形の剣は刃を振るわずとも、ただそこにあるだけで周囲の物体を溶かしてしまう、そんな危険な代物であるらしい。さながら小さな太陽である。


「ん、その程度じゃ崩せないし、負けられない」

「まさか、それが最後の共同作業じゃないですよね!?」

「当然! シュトラ!」

「―――氷女帝の情愛セルシウスカリタス


 それまでシルヴィア達を標的としていた魔糸の行き先が、どういう訳なのか、ケルヴィンへと切り替わった。仲間への攻撃? と、シルヴィアとエマは訝しんだが、次の瞬間にはそうでない事を悟る。


 魔糸を全身に受けたケルヴィンであったが、体が魔糸で絡み取られる――― といった事態には至らなかった。ケルヴィンの装備に溶け込むようにして、接触した魔糸が次々にその中へと編みこまれていく。それとは別にケルヴィンの手足などの可動部には、魔糸が操り人形の糸の如く張り付いてもいた。


 この日の為にシュトラとケルヴィンが編み出した、とっておきのとっておき、S級青魔法【氷女帝の情愛セルシウスカリタス】。能力を付与した魔糸を縫合する事で装備を強化し、魔糸で操る事で対象者に限界を超えた力を発揮させる、所謂補助魔法の一種。しかし、この魔法の使用は困難を極め、使用者と対象が完全に意思疎通できていないと、むしろ行動の足枷となってしまう諸刃の剣でもあった。誰よりも広い視野で戦況を把握し、ケルヴィンのやりたい事・次にするであろう動作を先読みできる、シュトラならではの魔法と言えるだろう。これこそがこの模擬戦における最後の共同作業、サプライズプレゼントを受け切る為の最終形態なのだ。


「施術完了、如何です?」

「完璧な仕上がりだ……!」


 構えた大鎌の黒杖部分にまで魔糸を纏わせたケルヴィンが、不気味に口端を吊り上がらせる。背後に控えるシュトラの表情も、不思議とそれにあやかっているようであった。


「「いざッ!」」

「「勝負ッ!」」


 二人だから成せる異形の大剣が、二人だから成せる共同作業が、真っ正面から衝突する。その瞬間に巻き起こったのは、ありとあらゆる災厄であった。問答無用で蒸発させる爆炎、時間をも停止させてしまう凍結、全てを消し飛ばす暴風が、一気に辺りへと広がっていく。それは周囲のバトルフィールドにも多大な影響を及ぼし、ありとあらゆる方法で蜘蛛の巣が消え去り、シュトラの盾となる為に彼女の前で重なり合った黒土傀儡像アダマンアレニエと剛黒の黒剣オブシダンエッジも、距離を置いていたのにも拘らず、その殆どが機能停止にまで追い込まれてしまっていた。コレットの結界がなければ、被害は確実に外にまで及んでいただろう。


「こ、これはッ!? ダン将軍、眩しいです! 凄く眩しくて何も見えない! これでは私の鍛えに鍛えた実況力も、全く発揮できません!」

「決着、か。強くなりましたな、シュトラ様」

「え、見えているんですか!? ででで、であれば感慨に耽るのではなく、会場の皆さんの為にもどうか解説をばッ!」

「……いや、ワシがそんな事をせずとも、もう空が晴れる。勝者敗者関係なく、我々は双方を称えようではないか」

「ええっーーー!?」


 ロノウェの叫びが轟く中、第一回目となる“ちょっと待った”の幕が下りようとしていた。

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