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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第304話 第一印象は大事

 俺は感動した。俺は泣いた。俺は動揺した。この僅かな間で、俺の心は凄まじいまでの勢いで動きまくった。その理由は言わずもがな、リオンの卒業式に立ち会った為だ。それ以上でもそれ以下でもない。ただまあ、如何なる衝動も時間によって多少なり癒されるもので、今の俺はそれなりの冷静さを取り戻している。義父さんだってそうだ。ついさっきまで動揺が呂律ろれつにまで関与して、まともに喋る事もできない状態だったけど、今はもう大丈夫っぽい。いやあ、良かった良かった。やっぱ人間、ある程度は俯瞰して物事を見定めないといけないからな。今くらいの心持ちが丁度良いってものなのである。まあ俺は魔人だし、義父さんに至っては悪魔の王な訳だけど。


 で、そんな冷静なる俺と義父さん、そして辺りの出店から大量の食料を調達したメルが、今どこに向かっているのかと言うと、これも言わずもがな、卒業式を終え、友人達と別れの挨拶しているであろうリオンの下に、である。理由はこの一年間、リオンと仲良くしてくれた友人達に一言挨拶をしておきたいのが一つ、リオン自身を褒めたかったのが一つ、そして何よりも――― 在校生として学園に残る事となる、クロメルの問題を解決しなければならないからだ。うん、落ち着いた事で思い出したが、用意周到な俺は予め解決策を考えていたんだよね。いやあ、うっかりうっかり。


「愚息よ」

「ええ、居ましたね」

「モグモグ!」


 リオンとクロメルの気配を探って移動したのもあって、二人を発見するのには、そう時間は掛からなかった。予想通り、学園を卒業するリオンはベル、ドロシーと共に友人達に囲まれており、クロメルも見送る側として、その友人達の中の交じっていた。


「……卒業生用のマントを羽織るリオン、良いなぁ」

「うむ、いつにも増してベルが理知的だ。涙を枯らしていなければ、この場で感動の海に沈んてしまうところであった」

「パクパク!!」


 リオンの晴れ姿、今のうちに堪能しておくとしよう。友人達の視界に入った後は、リオンの兄として無様な姿を晒す訳にはいかないからな。え? さっきまで学園内で十分に無様を晒したろって? ハハッ、まあ部分的にはそうかもしれないな。けど、俺と義父さんが無様を晒したのは、あくまでも俺達に話し掛けようと機会を窺っていた、どこの誰とも知らぬお偉いさん達だ。学園の生徒達は卒業生を見送る為に、別のエリアに集まっていたからな。タイミング的にリオンの友人達に知られる事はないのである。


「義父さん、ここからはキリッと行きますよ?」

「愚息よ、それは我の台詞だ。お前こそ、ベルの名に傷を付けるような事はするなよ?」

「ゴックンコ!」

「……あの、メルさん? 一応今から真面目に臨む感じなんで、一旦抱えている大量の食料、クロトの『保管』の中にでもしまっておいてほしいんですが……」


 今のうちに注意しておこう。さっきから凄い音を奏でているメルに。


「ご安心を、先ほどのゴックンコで全て食しましたので。いつでも元女神モードでいけますよ」

「………」


 メルの言葉の通り、抱えていた大量の食料は綺麗さっぱり消えていた。相変わらず、惚れるような食べっぷりである。まさか、俺も追えないような速さで完食してしまうとは…… ま、まあ兎に角、これで不安要素は解消された。漸く心置きなく、リオンらに声を掛けられると言うものだ。さあ、行くぞ!


「リオン! クロメル!」

「あっ、ケルにい!」

「パパっ!」


 声を掛けた瞬間、リオンとクロメルが一目散に俺の下へと駆け寄って来てくれた。よしよしと両手でそれぞれの頭を撫で、二人を迎え入れる。隣では義父さんが物欲しそうな顔でベルを見ていたが、当のベルはその視線を丸っと無視しており――― まあ、そういう事である。


「リオン、卒業おめでとう。しかも飛び級での卒業とはな、お兄ちゃんは驚きっ放しだ。学園での生活は楽しかったか?」

「うん、とっても! かけがえのない日々の連続でね、一杯一杯、とっても一杯話したい思い出ができたんだ! もちろん、大切な友達もできたし、勉強も楽しかったよ!」

「それは重畳、リオンをルミエストに通わせて良かった」

「うん、僕の我が儘を聞いてくれて、その…… ありがとね、ケルにい」


 そう言って、百点満点を超えて千点いや万点の照れを含んだ笑顔を見せてくれるリオン。やばい不味いこれは破壊力がとんでもなくてパンデミックぅ……! 折角恰好付けようとガッチガチに固めた仮面装甲が、早くも破られる寸前のところにまで至っている。いや、たとえこれが致命傷であったとしても、ここで負ける訳にはいかない。いかないのだ……!


「……フフッ、その笑顔が見れただけでも十分儲けものだ。思い出話は時間がある時に聞くとして…… クロメル、リオンとベルは先に学園を卒業してしまう訳だけど、これからの学園生活は大丈夫そうか?」

「えと、もちろん寂しいです…… けど、私にだって友達が一杯できたんですよ? パパが安心さんになれるように、クロメルは一杯頑張ってきました。なので、んと…… これからも大丈夫さん、です!」


 むん! と、可愛らしく気合を入れるクロメル。俺、辛うじて見た目の体裁を保っているけど、内心ではその健気さに胸を撃たれまくる。ズドドドドッと、本当に容赦のない乱射である。この小さな女神は誰かって? 実はねぇ、俺の愛娘なんですよぉぉぉ! と、自慢したい。すっごく、とっても自慢したい。だがしかし、今は学園の生徒達にもろに見られている。よって我慢、我慢なんだよ俺ぇぇぇえええ……!


「な、なあ、皆? あの人ってひょっとして…… リオン君のお兄さんにして、クロメル君のパパさんなケルヴィン――― いや、ケルヴィン氏だったりする? このシャルルアイの見間違いだったりしない?」

「ひょっとしなくても、そのケルヴィンで合っていますよ。対抗戦の最後で、私と戦っていたじゃないですか」

「むむっ、近くで見ると尚更に強さが窺えるでござるな。拙者と戦ったバッケ殿もそうであったが、S級冒険者は佇まいから凄まじいで候……!」

「た、確かに……! そ、それじゃあさ、ケルヴィン氏の隣に居る超絶美人さんは、もしかして……!?」

「もしかしなくても、奥さんのメルぢゃん? ほら、どことなーくクロメルにも似てっし!」

「クロメル君のママさん、だとぉ!? 道理で綺麗な人だと――― いや、若くない? 僕らとそう歳変わらなくない!? いや更にちょっと待って!? 更に隣に居るあのあの強面の方から、すっごい圧が飛んで来るんですけど!? 何かすっごい僕の事を睨み付けている気がするんだけど!? 気のせい? 気のせいだよね!? って言うか誰ぇ!?」

「ああ、それは私のパパよ」

「……えっ?」

「だから、私のパパよ。悪い虫が私に付いていないか、そんなくだらない事を心配しているみたいね。まあ、害はないと思うから安心なさい」

「え、ええー……」


 どうやらリオンとクロメルの友人達からは、変な風には見られていないようだ。どちらかと言うと尊敬の眼差しと言うか、そっちの系の想いが視線から感じられる。よし、第一印象は良い感じだな!


 ただ、何やら友人の一人が酷く動揺している様子だ。なぜ――― ああー、義父さんの圧が強いせいか。義父さん、学生相手にそんな怖い顔しちゃ駄目ですって。え、あの動揺している子から、何やら軟派な気配を感じる? ……あっ、本当だ。これはアレかな? 悪い虫ってやつなのかな? クロメルが学園に残る以上、それは最優先駆除対象になってしまう訳ですけど、どうします? 処します? 間違いが起きないうちに、処してしまいます? 喜んで手伝いますよ、義父さん?


「あなた様、少しは落ち着いてくださいね?」

「パパもよ。何学園内で殺気撒き散らしてんの?」

「「がふっ……!?」」


 不意に聞こえてきたそんな言葉と共に、後頭部を猛烈な勢いでメルに叩かれる。叩かれたのは義父さんも一緒だったようで、あちらの相手はベルな訳で――― はい、落ち着きました。すんませんでした……

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