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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
906/1031

第296話 グロリアさん

 ―――エルフの里・長老宅


「ふう、これで情報共有はオーケーかな」


 皆に念話を送り終え、一息つく。相手が誰か伝えるだけであれば、それほどの労力にもならないのだが、色々と質問とかも多かったからな。特にマリアが相手となるアンジェ、相手の名前がふざけているとしか思えないコレットとは、結構な数のやり取りがあった。それでも問題は解決しておらず――― って感じだから、これから二人のところへ直接訪れようと思っている。あ、いや、アンジェの場合、向こうの方から来そうかな? それも確認しておかないと。


「お疲れ様です、ご主人様。お茶をどうぞ」

「ああ、ありがとう、エフィル」


 エフィルが煎れてくれた茶で喉を潤す。うーん、美味い! やっぱエフィルの茶は格別だなぁ。


「ケルヴィンにエフィルよ、そんな呑気にしていて良いのか? 貴様らの相手は、あのアダムス・・・・だぞ? 他の者達の心配をするよりも、まずは自分の心配をすべきだと思うのだがな」


 と、和んでいたのも束の間、眉をひそめるグロリアから、そんな忠告をされてしまう。


「ハハッ、確かにそうかもしれないな。耳が痛いよ」

「分かりやすいほどに上っ面の言葉だな。本当はどう思っている?」

「アダムスとマリアが参戦してくるのは、最初から確定事項だっただろ。今更心配してどうすんだって、そんな風に思ってる。最初の段階で覚悟が決まってなければ、そもそもこんな提案をこっちからしないって」

「む、それもそうか……」


 納得してくれたようで何より。


「そうか、そうだったな。鍛錬と称して、捕らえた私を一時的にでも解放してしまうお前だ。最初から狂っていたんだったな」


 だが、まるで変人のように思われるのは頂けない。これでもS級冒険者の中では常識人的立場なんですよ、俺?


「俺としてはそんな事よりも、アダムスの配下であるお前達、十権能が誰も参加しなかった事の方が気になったよ。以前の戦いで微妙な決着となったケルヴィムとか、セラとジェラールが二人掛ふたりがかりになって漸く倒す事ができたイザベルとか、気になる面子が一杯居たのに…… ひょっとして遠慮したのか? 周りを気にせず参加してくれて良かったんだぞ?」

「……何か勘違いしていないか? 遠慮も配慮も無関係だ。我々十権能はそもそも最初から、この余興に参加するつもりはなかったのだからな」

「え、そうなの? 何で?」

「戦いがそこにあれば無条件で飛び込んでしまう、そんなお前と一緒にしないでほしいものだな…… 先の二人に関して言えば、ケルヴィムは今、十権能の新たなリーダーとなって無駄に張り切っている最中だ。今回の余興とやらに参加する暇がないほどにな。イザベルもイザベルで、既にお前達の事を愛しい守護対象であると、そう認めてしまっている。守護する対象に自ら刃を向けるなんて本末転倒な事、あのイザベルがする筈ないだろう?」

「お、おう、そう…… かもな?」


 ケルヴィムの話は兎も角、正直イザベルの方の理由はよく分からなかった。ええっと、平和主義って事?


「あ、あの、グロリアさん! その帽子はどこで買ったんですか? 私も欲しいので、是非お伺いしたいです!」


 俺が悩んでいると、ウィアルさんが意を決したかの如く、横から飛び出してきた。相変わらず彼女の事が獣王に見えてしまう俺、密かにビビる。


「これか? これは私の自作だ。戦闘用としてバルドッグに作らせる手もあったが、どうにも奴の作る防具のデザインが気に食わなくてな」

「デザイン、ですか?」

「ああ、デザインが本当に気に食わなかったのだ。なぜ防御性能を上げる為に肌を晒す部分が多くなるのか、全くもって意味が分からないし風紀にも反しているしでブツブツ……!」

「あ、あの、グロリアさん……?」

「っと、コホン! ともあれ、そんな経緯で頑張って自分で作ったのだ」

「ほ、本当に自作なんだ!? わあ~、格好良いだけじゃなくって、自分のスタイルを貫く為にそんな努力までされたなんて、本当に素敵……」


 瞳の煌めきが一層に増すウィアルさん。いや、確かにグロリアが裁縫までできたとは、意外である。そして今は亡きバルドッグ、一体何を作ろうとしていたんだ……


「ふむ…… よし、ならばこれをやろう」


 そう言ってグロリアが、自らが被っていたベレー帽をウィアルさんの頭にポンと置く。


「えっ? ……ええええっ!? い、良いんですか!? この帽子、お店で買ったらとっても高そうなのに!?」

「フッ、そう思ってくれるのは嬉しいものだが、そんな高価なものではないよ。それに、私はこれと同じものを大量にストックしているからな。その一つをお前にあげたところで、特に困る事はない」

「わあ、わああぁ……!」


 グロリアのイケメンムーブに、ウィアルさんは言葉もない様子だ。しかし、俺の『鑑定眼』によればそのベレー帽、S級の代物の筈なんだが…… まさかただでプレゼントしてしまうとは、何という度量の広さだろうか。


「わーい! 本当にありがとうございます、グロリアさん! この帽子、私の家宝にします!」

「好きにすると良い」

「はいッ! どうどう? お父さん、似合う?」

「あ、ああ、似合っている、が…… あの、本当に良かったのですか? ただで帽子を頂くなんて……」

「フッ、気にするな。私がそこの娘に似合うと思い、勝手に送り付けただけの話なのだからな」


 本当にどこまでもイケメンなグロリアである。意外と世話焼きだったりするんだろうか?


「ふむ…… 私の目から見ても、彼女は相当の裁縫力を持っていますね。いつかお手合わせ願いたいものです」


 ほほう、エフィルも感心しているって事は、やっぱ凄い出来なんだな、あのベレー帽。けどさ、裁縫力って何? 手合わせできるもんなの? 裁縫バトル?


「おい、ケルヴィン! その間抜けな顔、また変な事を考えているな!? 覚悟を決めたのであれば、そんな顔を晒すんじゃない!」

「いやいや、今のは俺の素の表情ですけど!? って言うか何か君、俺にだけ接し方が厳しくなってない!?」

「何を言うか、アダムスと直接対決する事が決まったのだぞ? それは大変に名誉な事なのは、今更言うまでもないだろう。だからこそ、敵である貴様にもそれ相応の品格を求める! これは当然の事だ! 少しは品性と風紀の塊であるエフィルを見習うが良い!」

「結構な無茶を仰るねぇ、君ぃ!?」


 それに風紀とは言うが、夜の風紀はエフィルが割と一番――― いや、何でもないです。けどさ、さっきウィアルさんに向けたあの優しさ、一割くらいは俺に向けてくれても良いと思うんだ。


「……何だその目は? 本当にやる気があるのか? どこまでも仕様がない奴だな、貴様は! ならば、私が無理にでもやる気を出させてやる! 貴様がやる気を出す為の願いを、この場で言ってみるが良い! 私がやれる事であれば、何でもしてやる!」

「え、ええええっ!?」


 グ、グロリアさん!? さっきああは思っちゃったけど、その言葉は気軽に使っちゃいけないと思うよ!?


「何を呆けている!? さあ、さっさと願いを口にしろ!」

「マ、マジか…… え、えっと、そうだな…… 例えばアダムスの権能を教えてくれたりしたら、助かるしやる気が出る…… かも?」

「アダムスの権能か? ああ、それくらいなら教えてやろう! 傾聴せよ!」

「あー、やっぱり無理か…… 悪い、俺とした事が調子に乗った質問を――― って、おいおいおい!? 良いのかよ!? 何で!?」


 俺、割とマジで混乱中。そしてツッコミの連続で、潤したばかりの喉が痛くなってきた。


「何でって、別に秘密にしている事でもないからな。今の時代がどうなのかは知らないが、古き大戦の頃は、割とどの神も知っていた事だぞ?」

「そ、そうなの……?」


 ひょっとして、メルも知っていたり?


『あなた様、私はとっても若い神、そう、イケイケの神でしたので、そんな昔の常識なんて管轄外です。転生神として邪神アダムスの封印の管理を任されてはいましたが、特にそういった引継ぎもありませんでした。文句はそんな重要な情報を引き継ぎの項目に載せなかった、主神に言ってください』


 例によって彼方から俺の心を読んだのか、メルからの念話が届く。そ、そうか、引継ぎの対象外だったのか。しかしお前、イケイケって…… いや、何も言うまい。


「あー…… それじゃあさ、遠慮なく聞いちゃっても良いかな? やれる事は全部やっておきたいんだ。もちろん、やる気も出る。気品とかも努力する」

「フッ、やっとそれなりの目になったな。良かろう、そこまで言うのであれば、私の知る全てを教えてやる。アダムスの権能は『薫陶くんとう』、神々や人々、生きとし生けるもの全てを導く力だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] グロリアさん……その発言はもう少しよく考えてから発言してくださいよ…… ケルヴィンが風紀を乱すような発言してたらどうするつもりだったんですか……
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