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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第287話 蹂躙のバッカニア

「ベベベベ、ベル君!? それは一体全体どういう事なんであうべぱぁっ!?」


 衝撃の事実に居ても立っても居られず、埋もれた壁から何とか抜け出し、ゾンビの如く床を這いずるシャルルは、自らの疑問を口にしていた。しかし、そんな彼の姿は周囲の野次馬生徒達の視界には入っておらず、シャルルは迫り来る彼女らの突進に蹂躙されてしまう事となる。まあ、言ってしまえば踏み潰されてしまったのだ。


「ベルさん、リオンさんが結婚されるって本当!?」

「お相手は誰? どちらの王子様なの!?」

「きっと素敵な殿方に違いありませんわ! 大国の貴族、いえ、王族です!」

「式を目標にして卒業されるという事は、前々から予定していましたの!? ベルさんも前々からご存じでしたの!? 私も招待して頂きたいですわ!」

「ああん、抜け駆けは狡いですの! その権利、是非私にも!」


 こうして取り囲まれてしまったベルは、質問攻めの嵐に遭ってしまうのであった。


「あー……」


 正直失敗したなと、自らの口の軽さを反省するベル。


(今この場にリオンが居ないのが、不幸中の幸いか。あと関係ないけど、普段標準語で話している生徒達まで、なぜにですわ口調……?)


 同寮の舎弟の口調が伝染してしまったのかと、一瞬恐怖するベルであったが、直ぐにそれは違うなと考えを改める。恐らくはダイヤモンド世代の代表という立ち位置が、彼女達をそうさせているのだろう。要はベルを完全に上位の存在として見ているので、少しでも丁寧な口調をと、そう心掛けているのである。尤も、ですわ口調が丁寧に類するものなのかどうかは、論議の余地があるのかもしれないが。


(まさか、ここまで興味を持たれているとはね。一応、相手は名誉的な意味で貴族階級だし、大国相手にも引けを取らない立ち位置でもある。けど、義理のとはいえ兄と結婚するなんて、あまり周知するような内容でもないわよね)


 取り合えず、ケルヴィンの名前を出すのはエヌジー。そう結論付けたベルは、当たり障りのない回答で場を収める事とした。 ……ただその前に、先ほどコップを握り潰していたドロシーをチラ見。


「………(ピキピキ)」


 彼女は完全にピキッていた。額にお怒りのマークを大量に浮かべながら、ピキッていたのだ。


(いやいや、何で貴女までそんな反応を返してんのよ? 他の野次馬達とは違って、貴女は事情を知っていた筈でしょうが? 流石にそこまで面倒見切れないわよ、私?)


 と思いつつも、ベルはドロシーに配慮して、尚更穏便に場を収める方向に舵を切る事に。入学前から婚姻は決まっていた。相手の身分は保証されており、大国の王相手とも対等に渡り合えるほどの人物であると、ケルヴィンの名前を伏せてそれらしく説明を行う。ケルヴィンを褒めているようで癪に障るが、意味もなくリオンを害する訳にもいかない為、この時ばかりはベルも我慢。


「まあまあまあ! ベルさんからしても、そんなに素晴らしい殿方ですのね!?」

「……まあ、そうかしらね。だから、余計な心配をする必要は一切ないわよ。ええ、ないわ」


 眉間にしわを寄せながらも笑顔を作り、我慢に我慢を重ねて何とか取り繕う。


「けれど、この件でリオンに根掘り葉掘り聞くのはあまりお勧めしないわね。リオンは人が良いから特に気にしないだろうけど、そのお相手がどう思うかは分からないもの。ほら、あんまりプライベートな話に突っ込まれると、気にする人はするじゃない? もしそうなったら、貴女達の御家や御国が大変な事になってしまうかも」


 が、この台詞を言う時ばかりは、ベルも生き生きとした表情を作っていた。溜まった鬱憤をここで晴らすとばかりに、笑顔で力強く野次馬達を脅していく。それはもう、心からの笑みであった。


「うっ…… た、確かにそうですわね。私も同じ立場だった場合、ひょっとしたら嫌な気持ちになるかもしれませんし……」

「ここだけの話にして、リオンさんに対しては優しく見守っていきましょう。きっとそれが一番ですわ」

「「「「「うんうん」」」」」


 ベルの脅しは効果覿面だった。それまでの勢いが嘘であったかのように、野次馬生徒達は大人しくなっていた。恋バナやゴシップが大好物な彼女らであるが、誰しも家族を故郷を危険に晒してまで、それに興じるつもりはないようだ。また、ベルからそれ以上の情報を聞き出せないと分かると、丁寧にお礼を言った後に解散する流れとなった。


「ふぅ、どうにか穏便に済ませられたわね……」

「大儀であったな、ベル殿。助力したかったのでおじゃるが、拙者、皆の勢いに恐怖してしまい、一言も発せなかったで候」

「ああ、まあ、うん。今のは私が軽率だったし、別に気にしなくて良いわよ」

「………(ビキバキベキッ)」

「……で、ドロシーはどうしたのよ? 無言のままテーブルを粉砕されると、流石の私も戸惑ってしまうのだけれど」


 いかにもか弱そうな容姿をしたドロシーであるが、彼女の握力であればガラスのコップはもちろんの事、木製のテーブルも軽々と粉砕する事ができる。が、それ自体は特段珍しい訳ではない。やろうと思えば、相席しているベルやグラハムにだってできる事だ。問題なのは、なぜそんな事をしているのか、その理由である。


「……失礼。リオンさんの結婚については、ご本人から既にお伺いしている事です。ええ、ルームメイトですから、そのくらいの事は分かっています、いますとも。とても嬉しそうに語ってくれたリオンさんの顔は、正しく天使でした。いや、女神だったのかもしれません。そんなリオンさんに対して、私はお祝いの言葉を述べましたよ。友人として、親友として、リオンさんを祝福しました。 ……が!」


 くわっ! と、そんな音が聞こえそうなほどに目を見開くドロシー。ベル、正直少しビビる。


「その相手が彼である事が、どうにも納得できないんです……! リオンさんのみを愛すると言うのであれば、万歩譲って許します。がッ! 彼は他にもお相手が居るではありませんか! その中にはメル――― さん、も、居るとの事です……! 浄化された筈の私の心が、なぜか沸き立つのですよ! 絶対に許すな、と! 唯一無二の親友の結婚、これを祝福すべきなのは分かっているんです! 心では! ですがですが、私の魂がそれを許そうとしないのです!」


 周りには聞こえぬ小さな声で、しかし大地を引き裂くほどに力強いその独白は、ドロシーの心情を正しく言い表していた。だからこそ、ベルは困る。


「……グラハム、これは私が悪いのかしら?」

諸行無常しょぎょうむじょうでござる」

「こら、私を残して悟ったような顔をするんじゃないわよ」

「もちろん、リオンさんにこんな事は言ったりしませんよ? そんな水を差すような真似、する筈ないです。でも、そう、だからこそ、ここで一度吐き出しておきたかったんです……!」


 ベルは思った。え、まだ続くの? ……と。


「ああ、駄目ですね。一度気持ちを整理して多少はスッキリしましたが、やっぱり駄目です。この複雑な気持ちを何かにぶつけないと、とても冷静でいられる気がしません。全くしません。だから、参加しようと思うのですよ、私」

「ええっと…… 参加って、何に?」

「無論、“ちょっと待った”に、です。リオンさんの式を台無しにせず、尚且つ彼に一矢報いるにはこれしかありません。対抗戦のリベンジ、という訳ではありませんが、その結果次第では認めましょう。彼がリオンさんに相応しいかどうかを……!」

「……そう。まあ、頑張りなさいよ」


 ベルは思った。まああの新郎なら喜ぶだろうし、別に放置で良いか、面倒だし。 ……と。

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