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第85話 エルフの里

 ―――ガウン領南東・紋章の森


「ふう、随分走ったな。ここにエルフの里があるのか」


 ここは獣国ガウンの南東、トライセンとの国境近隣の深緑森林が広がる緑豊かな場所だ。リオから渡された獣王レオンハルトからの手紙を読んだ俺達は、数日の準備期間を経てここを訪れた。思いの外時間はかからなかったな。今の俺達の足であれば馬よりも数倍速い。


 さて、問題の手紙であるが、内容は至ってシンプル、レオンハルトの直筆で『S級昇格試験実施のお知らせ』と書かれていたのだ!


 ……いや、正直予想外の内容でずっこけたよ。妙に力強い字でそんなこと書いてくるんだもの。ってか何でガウンの国王が試験の手紙を送ってくるんだよ、とその場でツッコミを入れてしまった程だ。


 これについてはリオが補足してくれた。まず、冒険者ランクのS級への昇格にはいくつか条件がある。簡単にまとめると以下の通りだ。


 ①A級以上の依頼を10回連続で成功。

 ②S級相当の依頼を達成した経験がある。

 ③東大陸2国の国王から許可を得る。(西大陸所属の場合は別条件)

 ④S級冒険者立会いの下、昇格試験に合格する。


 俺の場合、①と②は既に達成している。問題となるのは③と④だな。実はこの2点がレオンハルトの手紙に関係していた。


 まず③であるが、リオが予め手回ししていてくれたようで、トラージのツバキ様から許可を得ていた。唯一面識のある国王でもある為か、すんなりとツバキ様は了承してくれたらしい。やはり人との繋がりは大切だな。


 だが③を達成するにはもう一国の国王から許可を得なければならない。トライセンは現在の状況が悪いので弾くとして、残るは獣国ガウンと神皇国デラミス。直ぐに反応したのはガウンの王、レオンハルトだった。


 ガウンの王族は10代になると武者修行の旅に出るという風習があるらしく、レオンハルト王はその時に冒険者として生活し、S級にまで昇格したそうだ。修行の旅の後に国内最強の者を選定するバトルロイヤルに見事勝ち抜き、今の地位を掴んでいる訳だな。俺も人のことはとやかく言えないが、なかなかに滅茶苦茶である。そんなレオンハルト王からの手紙、その真意は―――


 まあ詰まる所、S級冒険者であるレオンハルト王直々に昇格試験に立ち会ってくれるそうなのだ(姿は見せず、どこからか監視しているらしい)。何でそんな大事になっているのか気にはなったが、リオ曰くツバキ様の自慢話がレオンハルト王の耳に入ったからだそうだ。


 獣国ガウンは強者を称える国、S級冒険者の候補となる者も早々現れるものでもない。要は興味を持たれてしまったんだな。王自身が試験官を務め、俺の力を見極めようとしているのだろう。


「……不思議です。懐かしい感じがします」


 エフィルがぼんやりと森の木々を見上げる。


「エフィルはハーフエルフだからな。エルフの血がそうさせているのかも。この森、魔力が濃いし」

「でも変ね。エルフは西大陸の種族じゃなかった? 冒険者や商人のはぐれエルフは稀に見掛けるけど、本拠地である集落は東大陸にはないって学んだけど?」


 純粋なエルフは閉鎖的で希少な種族だ。セラの記憶の通り、東大陸では変わり者でもない限り見ることはまずない。


「十数年前に西大陸から移り住んだエルフの集落があったらしい。何があったのかは分からないが、今はガウンが保護しているそうだ」

「ふむ。そしてその新しいエルフの里を護るのが、今回の試験か……」


 レオンハルト王の手紙に記されていた試験。それはエルフの里で出現している正体不明のモンスターの討伐であった。以前リオはトライセンとの国境線付近で様々なトラブルが発生していると言っていた。このエルフの里もその例に漏れず、最近になってモンスターが森に発生したと言う。


 E級~D級で討伐できるようなモンスターは以前から出現していたが、この新種のモンスターはB級レベルのモンスターを引き連れ、エルフを攫っていくらしい。その強さはおそらくS級相当…… ガウンの一般兵士では子分のモンスターにも歯が立たず、苦戦しているという。


 本来であれば王や軍内でも高位の者が対処するらしいのだが、近頃のモンスターの凶暴化といい、人手が足りていないそうなのだ。レオンハルト王からすれば俺の実力を測ることができ、問題も解決と一石二鳥を目論んでいるのだろう。いや、俺は別に構わないけどさ。なかなかS級と戦う機会もないし。


「ケルにい、やっぱりそのトライセンって国が絡んでるんじゃないの?」

「十中八九そうだろうな。エルフは老いることがなく、男女共に美形揃いだ。奴隷にしようと企む奴がいても不思議じゃない」

「うむ、王のようにな」

「そうね、ケルヴィンのようにね!」

「ええ、あなた様のように」


 おい、なぜ皆で俺を見るんだ。言っておくが、エフィルが嫌がることはしていないぞ。する気もない。


「ケルにい、エルフ萌えだったんだね!」

「リオン、誤解するな」


 最近になって気付いたが、リオンの知識はかなり偏っている。兄妹は一緒に風呂に入るもの! とか言って日常的に風呂場に突撃してくるし。まさかとは思うが、一部の漫画や小説の知識をそういうものだと純粋に思い込んでいるのかもしれない。ここは兄(仮)である俺が真っ当に育ててやらねば!


 心の中で決心していると、エフィルが俺の袖をそっと掴んだ。


「大丈夫ですよ、ご主人様。私はご主人様をお慕いしておりますし、ご主人様の奴隷として誇りを持っています」


 やはりエフィルは天使であった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ―――紋章の森・エルフの里


 エルフの住まう森、この辺りでは『紋章の森』と呼ばれるそうだが、その名に違わずいたる所に紋章が刻まれている。鑑定眼で見る限り魔法的な結界の役割を果たしているようだ。森に侵入する外敵から身を護る為の手段なのだろうが、俺達に対しても効果を発揮しているのが考え物だ。空から見下ろしてもみたが、視覚的にも幻影を発生させて場所の特定を防いでいた。


「感覚性を魔法で強化しますね」

「んー、こっちね!」

「うんうん…… ケルにい、この小鳥さんがあっちに里があるってさ!」

「そちら側から懐かしい気配がします」


 とは言うものの、メルフィーナの補助魔法を施す、セラが察知スキルを使う、リオンが森の仲良くなった動物達から里の方向を教えてもらう、エフィルのエルフとしての感覚に頼るなど、探る方法は十分過ぎるほどあるのだ。皆を頼りに進むと木で作られた櫓と塀が見えてきた。特に迷うこともなく里に到着することができたようだ。


 一応、俺達の目的は討伐なんだが、もしここで迷いでもしたらどうするつもりだったんだ…… まあ、これも試験のうちなんだろうが。


 ちなみに残念ながら、今のところB級以上と思われる対象のモンスターとは遭遇していない。


「そこの者達、止まれ!」


 正面の門に近づくと、櫓の上から叫ばれる。見上げると、3人のエルフ達が弓矢を構えて矢先をこちらに向けていた。


「この森は結界で護られている! 迷い人ではなかろう、お前達は一体何者だ!」

「レオンハルト王の命により参上致しました、冒険者のケルヴィンと申します」

「こ、国王様の遣い、だと!?」


 エルフ達が狼狽する。


「これが紹介状になります。確認して頂きたい」


 俺はリオから渡されたレオンハルトの紹介状を掲げ、緑魔法でそよ風を発生させ、エルフの手元まで届けてやる。


「ま、待て! 長老をお呼びする! しばしその場で待機せよ!」

「承知しました」


 一気に長老まで話が通るのか。流石はガウン国王の紹介状、効果抜群だな。まあ、未だに残ったエルフ達が弓を手放さないのが気にはなるが。モンスターの出現で気が立っているのかもしれないな。


「……お待たせした。あなた方を客人としてお迎えします。数々の無礼、お許しください。門を開けよ!」


 ガラガラと木製の門が上がっていく。俺達が門をくぐると、里の広場と思われる場所に大勢のエルフ達が集まっていた。年老いた者はおらず、皆若々しく、そして美しい。その先頭に一人の男性のエルフが立っている。このエルフが長老だろうか? 当然ながら見た目は若者だ。


「遠い地からよくおいでになった。私がこのエルフの里の長老をしております、ネルラスと申します」


 やはり長老だったようだ。


「ケルヴィンです。この度は―――」


 簡単に挨拶をし、自己紹介を済ませる。


 ―――事は、順々に紹介が周り、エフィルの番になったときに起こった。


 ガタッ!


「ば、馬鹿な……!?」

「長老? どうかされましたか?」


 エフィルを見たネルラスが腰を抜かして倒れてしまったのだ。周りのエルフも全員ではないが、何人か酷く驚いているようだ。


「ル、ルーミル…… なぜ、お前が生きて……!?」


 ……誰?

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