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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー2 白翼の地編
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第233話 融合

 世界が動き出し、破滅が訪れる。ハザマは時間停止によって遮られていた言葉を、それ以上口にする事さえ許されなかった。背徳的な肉体は一瞬にして腐り果て、内部から風化間近の骨が露出。荒廃した研究施設と共に、この場で朽ちていく事だけが許され――― 


「ハァ、信じられないしぶとさですね……」


 ―――いや、どうやら勝敗が決したと判断するには、まだ早かったようだ。死滅し塵に帰ったかと思えたハザマの肉体が、急速に膨張を始め、元の肉塊へと戻っていく。それは無から有が生まれるかのような、不可思議な光景であった。


「カ、カカッ、カカカカカカッ! 娘ぇ、てめぇ、ただの黒魔導士じゃねぇな? 今の一瞬で、ワシのストック・・・・が一気に百以上も減ったぞ?」

「それは良かったですね。で、一体いつ私が黒魔導士だと言いました? 勝手に勘違いしたのは貴方の方じゃないですか」


 ハザマの肉体は、もうドロシーと対話できるまでに再生していた。


「減らず口を…… おまけにワシの餌場も壊しやがって。どれだけ貴重な場所なのか、お主は分かっておるのか?」

「……餌場?」

「ああ、そうじゃ。この施設は養殖ではあるが、天使の肉を生み出す機能が備わっておった。ワシはその肉が大好物でのう。こうして度々足を運んでおったという訳よ。まあ、良い。餌場があるのは、ここだけではないからな」

「………」

「何じゃ、お主も天使の肉が気になるのか? カカッ、興味があるのなら、食わせてやらん事もないぞ?」

「いえ、結構」


 その言葉の直後に、ノータイムで放たれる黄泉飛ばすモールの矢。ドロシーの攻撃はハザマの一つ目を貫き、大目玉を後方へと吹っ飛ばした後に腐らせた。尤もドロシーが予想していた通り、一つ目は直ぐに復活してしまうのだが。


「……そうか、残念じゃのう。食わず嫌いはいかん。人生の八割ほどは損をしておる。じゃから、のう? 人魚の肉、ワシに食わせてくれんか? アレじゃ、不老不死になるとか、そんな逸話に事欠かない肉じゃろう、それ? カカッ!」

「しつこくて醜くて性格が腐っているのは兎も角として、その肉体の性質には興味が湧いてきますね。あと何度死んだら、そのストックとやらは切れるのです? 私が試して差し上げましょうか? ええ、強制的に」

「カカカカカカカカカカカッ! できるものなら、試してみるがよい! 権能、顕現!」


 権能の顕現を宣言。これにより元の姿にまで復活していたハザマの肉体が、更に膨れ上がり始める。どこまでも生物の在り様を否定するかのように、肉と骨を繋ぎ合わせ、自らの体を拡大・拡張・膨張――― その結果として出来上がったのは、いや、正確には今も尚成長(?)を続けているのだが、この地下空間の大半を埋め尽くすほどに巨大な何かが誕生した。そう、獣やドラゴンの首、天使と悪魔の体の一部、単なる肉の塊、節足動物の甲殻、はたまた蛸足やゲル状の物体、巨人のものと思われる巨腕等々、何の纏まりもない何かが、だ。


 但し、その何かの頭上には堕天使の漆黒の輪、そして背に漆黒の翼がこれ見よがしに備わっていた。他の生物はぐちゃ混ぜになろうとも、堕天使だけは不滅であると、暗に言っているかのようである。


「……随分と的が大きくなりましたね。これなら適当に撃った攻撃も当たりそうです」

「カカッ! ワシのこの姿を目にしても、一切表情を変えないとはな! 偽神が創造したものとはいえ、確かに仮初の神ではあるようだ。 ……じゃが」


 ―――ヒュッ!


 風切り音と共に蛸足やムカデの尾、肉の触手といった不気味な攻撃が、ドロシーに襲い掛かる。ハザマの肉塊から無数に放たれるそれら攻撃は、圧倒的物量にて彼女を押し潰すつもりのようだ。


「じゃが、何です?」


 ドロシーは周囲に腐食の壁を展開して、それら攻撃を真正面から腐らせていった。焦る様子は微塵もなく、冷ややかな対応も継続中である。しかし、それでもハザマは攻撃を手を止めない。肉の壁から次々と新たな攻撃を放出し、力づくで時間の壁を越えようとしている。


「カカカカカッ! 娘っ子、お主に絶望的な情報を教えてやろう! ワシの有する権能は『融合』! 食った相手の肉を取り込み、ワシの体の材料にする事ができる大いなる力! 権能を解放したワシからは、材料となる頭数の制限が一切なくなる! 更に、じゃ! この権能で食った相手の数だけ、ワシは命をストックする事ができる! つまりお主がどんなに奮闘したところで、ワシは即座に復活できるという訳よ! 理解したか? これからお主が挑むのは、ワシがこれまでに食ろうてきた、全ての者達の複合肉体! カカッ! 無数に! 無限に! いくらでも存在するワシに、如何にして勝つと言うのじゃ!?」

「……フッ」

「あ? どうした、何がおかしい? 気でも触れたか?」

「いえ、失礼。わざわざ自らの能力を説明してくれて、ありがとうございます。ただ、少し誇張が過ぎるんじゃないかなって、そう思ってしまいまして」

「……何じゃと?」

「だって、そうでしょう? 食べた分の数だけ権能の力に加わるのであれば、思いっ切り有限じゃないですか。それのどこが無数で無限でいくらでも存在する事に繋がるんです? 貴方、ちゃんと自分で食べた数を把握できていますか? その言い方、かなり誤解を生むんじゃないですか?」

「………」


 このタイミングでのまさかの怒涛の反論に、思わず言葉を失ってしまうハザマ。神として長き時を生きてきた彼にとって、それほどまでにこの体験は衝撃的なものだったのだ。この醜くも強大な姿を前にして、ここまで辛辣な口撃をしてきた者が、これまでに存在しただろうか? いいや、神々の大戦時にも、これまでの彼の記憶の中にも、そんなものは存在しなかった。


「……カカッ、馬鹿めが。ワシがこれまでに食ろうた肉の数は、優に億を超えておる。つまり、命のストックも億以上あるという事! 如何に不可思議な術と魔力に長けたお主であったとしても、そんな途方もない数の集合体であるワシには、絶対に勝てんのじゃ!」


 ハザマは攻撃の物量を更に増やし、更には肉塊の隙間からガスらしきもの放出し始める。見るからに毒々しい色をしたそれは、恐らくは毒の類だろう。


「ハァ、優に超えるって、大雑把の極みですね。やっぱり正確に把握していないんじゃないですか? それに、億程度が途方もない数? 冗談も休み休み言ってください。無限を語るには、桁が足りな過ぎますよ」

「抜かせ、小童こわっぱがぁぁぁ!」


 ハザマの怒りと共に激化する攻撃。だがそれでも尚、時間の壁とドロシーの表情は崩れない。


「閉鎖空間での物量作戦、毒ガスの散布、相手が私でなければ、まあ悪くない戦法だと思います。先ほどは小馬鹿にしてしまいましたが、億の命というのも、まあ厄介な代物ではあります。正攻法で削っていっては、いくら時間があっても足りませんからね。 ……ですから、少しだけ残酷にいきたいと思いますよ?」

「ッ!?」


 その瞬間、ハザマに謎の悪寒が走った。ドロシーの背後に居た何かと、視線が合った気がしたのだ。一体いつからそこに居たのか、そこに何が居たのかは分からない。まるで幽霊であるかのように透明で、そこに姿らしい姿は何もないのだ。だが、確かに何かがそこに居て、ジッとハザマの方を見ているのは分かる。その視線は酷く不快で、酷く不安を駆り立てるものだった。


「―――黄泉帰化すアンスタン

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― 新着の感想 ―
[良い点] この融合とかいう権能、メルフィーナに持たせたらバグるくね? [一言] ミミとカンロがいたら話し合うかも?と思ったけどよく考えたら黒鵜家のルール的にアウトだから速攻戦争ですね
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