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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー2 白翼の地編
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第227話 心からの贈り物

 血しぶきが宙を舞い、ハオの片腕が真っ赤に染まる。その光景を間近で目にしたムドファラクは、今も戦闘中であるというのに、思考を止めて頭を真っ白にしてしまっていた。


「ぐ、ふっ……」


 苦し気な声、そして大量の血を吐いたのは――― グロスティーナの方だった。彼女はハオの貫手によって、左胸を貫かれていたのだ。位置からして、恐らくは心臓も潰されているだろう。それでも彼女は未だに生きており、意識も保っている。そして対峙するハオの鋭い目を、何かを訴えるかのようにジッと見詰め続けていた。


「貴殿、心臓を自ら差し出したな? 一体何のつもりだ?」

「う、うふん、やっぱりハオちゃんには、分かっちゃう、みたいねぇん…… でぇも、貴方なら来てくれると、思っていたわん…… 貴方、見た目は硬派、だけれどぉ…… 案外ノリが、良くってぇ…… 相手の誘いに、乗っちゃうタイプ、でしょ、ん……?」

「……こと戦いにおいてだけは、そうかもしれんな」

「うふふ、やっぱりねん…… さあ、ムドちゃん?」

「え、あっ! ご、ごめん、そうだった……!」


 瀕死のグロスティーナに声を掛けられたムドファラクは、我に返ってその場からの離脱を開始する。その行動に何か策略めいたものを感じ取ったハオも、一旦その場を離れようとするが―――


「むっ?」


 ―――グロスティーナの左胸から、一向に腕が抜けない。まるで彼女の体内から、粘着性のある何かが纏わりついているような、そんな感覚があった。


 グロスティーナのゴルディア、『舞台に舞う貴人妖精バイオレッドフェアリー』には強い粘性力があり、一度物体に吸着してしまうと、なかなか取る事ができない。しかも、彼女が今展開しているのは、その粘着性を極限にまで高めた『舞台に舞う貴人妖精バイオレッドフェアリー片翼形態モードルシファー』である。如何に武を極めたハオと言えども、初見でそれを見抜く事はできなかったようだ。


「心臓を、捧げたのはぁ…… それ、が、必要な事、だったからん…… 貴方に勝つには、そこまでしないと、無理そう、だったから、ねん……」

「何をしようとしているのかは知らないが、長話に付き合うつもりはない。生きているうちに、速やかに目的を果たせ。あの草木のように、貴殿の体を粉々にしてやっても良いのだぞ?」

「まあ、怖~い…… で、もぉ、ご心配は、無用よん…… 私の最期の技は、もう発動しているの、だからぁん……」


 纏わりつく紫色のオーラが急速に膨張し、ハオを丸ごと飲み込もうとしていく。量だけでなく、その粘着力もより強力なものとなっており、最早ハオといえども、自力での脱出は不可能になりつつあった。


「……なるほど、そこまでの覚悟があっての事か。あの世への餞別だ。その技の神髄、間近にて見届けてやる」

「まっ、優しんだからぁん…… じゃ、行くわ、よぉん…… はい、バチコン、と……」


 血を吐きながらも、グロスティーナは最高の笑顔のまま、特大のウインクを決める。そして―――


心からの贈り物レガートクオーレ……!」


 ―――グロスティーナがその言葉を口した次の瞬間、周囲が眩い光によって彩られた。鮮やかな紫色の光は、発生元である二人を瞬く間に飲み込み、同時に極上の猛毒でその体を蝕む。


 『心からの贈り物レガートクオーレ』は命を代償として、限界を超えた猛毒を作り出し、自身の心臓を起点に限定的な範囲で爆発させる、グロスティーナの最終奥義だ。この技は身命を賭したものであるが為に、彼女の姉弟子であるゴルディアーナからは、技の創造自体を固く禁じられていた。しかし、ゴルディアーナが敵に捕らえられたあの日から、グロスティーナは禁を破って技の修練に励み始めていたのだ。全ては圧倒的強者であるハオから、最愛の姉弟子を救出する為に。


(ダハクちゃん、嘘を言ってしまって、ごめんなさい、ねん……)


 ダハク、ボガ、ムドファラクの三竜王、そしてグロスティーナは、この日の為に鍛錬をすると同時に、幾つもの作戦と策略を練ってきた。戦闘がどのような展開になっても対応できるように、ハオがどんな行動を取ってきたとしても勝てるように、没頭してきたのだ。当然の事ながら、それらの事柄は四人で共有されている。


 ……ただ、その中でたった一つだけ、グロスティーナが皆に秘密にしていた事があった。それが先の最終奥義『心からの贈り物レガートクオーレ』についてだ。彼女は最悪のピンチに陥った際に、この技を使って逆転を図ると、皆にそう豪語していた。また周囲の者達も危険に晒されるからと、彼女が合図を送ったら、直ぐにそこから退避するようにとも伝えていた。一度きりの必殺技だから、失敗は許されないとも伝えていた。 ……この技の代償については全く触れず、自らの回復も行える最高の技だと、そう嘘を交えてまで伝えていた。


「おおっ! グロスの野郎、マジでやりやがったのか!?」

「す、凄い光、なんだな」


 だからこそ、全速力で戦場に戻って来たダハクとボガは、そんな事情を知り得ない。知り得ないからこそ、仲間の活躍を興奮した様子で見守っていた。


「二人とも、戻って来るのが遅い。とんだ遅刻もの。その間に、私とグロスティーナが勝ってしまった」

「な~に言ってやがんだ、この甘味馬鹿は!? お前は作戦通り、こっちに避難しに来ただけじゃねぇか!」

「で、でも、ムドの援護も凄かったと、思うんだなぁ」

「うん、ボガは多少分かってる。ダハク、少しは見習ったら?」

「お前、ホントに口が減らねぇのな。けど、グロスティーナは大丈夫なのか? 毒で体を再構成して、その時に生じた毒を攻撃にも転用させるとか、すげぇ事を話していたが……」

「グロスティーナは嘘を言う人間ではない。それはダハクが一番分かっている筈」

「そりゃあ、そうだけどよぉ…… 相手はあのハオだ。悔しいが、欠片も油断ならねぇ相手なんだ。ダチとして、やっぱ心配なんだよ」

「あっ! ひ、光が収まっていぐ、みでぇだぞ!」

「「ッ!」」


 収まっていく紫の光を目にして、三人は次の手へと作戦を移行し始める。グロスティーナの最終奥義は、ハオに止めを刺す想定で語られていた。しかし、それで無事に戦闘が終わるなんて楽観視は、この場に居る者達は誰もしていない。何事にも、もしもの事態は付き纏うものなのだ。グロスティーナの援護に回る為に、瀕死のハオに追撃を加える為に、様々な状況に対しての対策を講じる為に、ダハク達は最善の手を打ち続ける。 ……しかし、収まった光の中から現れた光景は、彼らにとって余りにも残酷なものであった。


「……自爆、か。俺が好む手ではないが、その覚悟は認めなければな。最期を飾るに相応しい、良き攻撃であった」


 光の消失。が、そこにグロスティーナの姿は欠片もなく、肌を毒々しい色に変化させたハオだけが残っていた。その光景が意味する事が理解できず、一瞬思考が停止してしまうダハク達。それでも三人は、ハオが大量の血を被っているのを目にして、ある最悪の答えに考えを行き着かせる。その血はもちろん、ハオのものではないだろう。では、その血の持ち主は……


「……あ゛あ゛? 自爆? てめぇ、何を言ってやがる。グロスの野郎をどこにやりやがった?」

「言葉通りの意味だ。それを理解できない貴殿らではなかろう。早く状況を呑み込め。無理矢理にでも理解しろ。戦場はお前達を待ってはくれないぞ?」


 淡々と語るハオの言葉で、想像した最悪の結末が、現実のものとなってしまった事を悟る。


「てぇん、めぇぇぇ……!?」

「嘘……」

「あ、ああ、ああああああっ……!」


 判断を狂わす怒り、絶望、悲しみ――― 仲間が命懸けでやり遂げたチャンスを、見す見すドブに捨てるのか。所詮はその程度か。ハオが抱いた感情は、若干の失意であった。


 ……しかし、丁度その時になっての事である。


 ―――ドォッパァァァン!


 まるで大陸全土が悲鳴を上げているかのような、とんでもない轟音と共に、白翼の地イスラヘブンが大きく揺れたのだ。


(これは……)


 察知能力を駆使して、逸早くハオは気付く。大陸の心臓部を守護していたイザベルの気配が、この白翼の地イスラヘブンから消えている事に。敗北したのか、何か不測の事態があったのかは分からない。ただ、封印の役目を担っていた彼女の消失は、戦況に大きな影響を与えるであろう事は、容易に想像がついた。


「グロス、姉弟子より先に逝くなんて、一体どんな了見よぉん。小言の一つも言ってやりたいわん。けれどぉ、今は止しておこうかしらぁん。貴女のお陰でぇ、私が復活するまでの時間を繋ぐ事ができたのだからぁ。全く、できた妹弟子を持ってぇ、私は幸せ者よねん。 ……今は静かに眠りなさぁい、私の可愛いグロスティーナ」


 そう、例えばこのような展開が起こり得る事も。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この話で気づいてしまった…………これアニメの進行速度的にゴルディアーナ出てくるくね? なんか見てみたいような見たくないようなだな
[一言] グロスティーナマジ?巫女だし何とか出来ないか?
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