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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー2 白翼の地編
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第217話 大地が揺れる日

 激戦の末、シュトラ達がレムに勝利した丁度その頃。そこから遠く離れた地、白翼の地イスラヘブン辺境の地下深くでも、三人の強者達――― ジェラール、セラ、イザベルによる熾烈な争いが繰り広げれていた。その場所は浮遊大陸の心臓部、本来であれば戦いが起こって良い場所ではない。ちょっとした間違いが起これば、浮遊大陸が墜落し大惨事になってしまう、戦場としては最低最悪なスポットであった。


 だが、そんな最低最悪なバトルフィールドであろうとも、その三人は一切手加減する様子もなく、だが浮遊大陸の動力源コアには一切の傷を付けずに、器用かつ大胆な戦いを今も続けていた。空間全体は大惨事なのに、動力源コアだけは無事という、何とも不思議な空間である。


「ふんぬっ!」

「せぇい!」

「ふっ!」


 宙に跳んだイザベルに向かって、ジェラールが上段から大剣を、セラが真下から潜り込むように拳を放つ。が、見た目によらずイザベルは接近戦にも長けていた。彼女は自身が持つ杖の先と底を使い、それら攻撃を容易に防御してしまう。


「まだぁ!」

空顎アギト!」


 攻撃を受け止められようとも、セラ達の攻撃はそれで終わらなかった。杖に接した拳から命令を伝わせ、セラは『血染』を発動。ジェラールも剣と杖の拮抗状態から、刃より飛ぶ斬撃を叩き込む。


「―――損罪廷吏フェアトライブ

「「ッ……!」」


 二人の追撃が発現しようとした寸前のところで、イザベルの体が青い輝きで包まれ始める。それをセラ達が認識した直後、なぜか攻撃を放った筈の二人の方が、猛烈な勢いで弾き飛ばされてしまった。その勢いのまま、セラとジェラールはそれぞれ壁に衝突、風塵に塗れてしまう。


「無駄ですよ。私の『損罪廷吏フェアトライブ』は、私の存在自身を境界と捉えて発動する、絶対的なことわりの一つなのです。斬撃、打撃、刺突、魔法、特殊能力――― それがどのような類の攻撃であったとしても、私を害するものであると認識されれば尽くを無力化し、その力分の衝撃として相手にお返しします。面白いでしょう? ですが今の吹き飛び具合も、大変に素晴らしいものでしたよ? それだけの力を籠めてくださった事が、感動的なまでに肌で感じる事ができました。なので、これはお礼として差し上げます。 ―――聖死架苦刑ドライエック


 巻き上がった風塵の一つ一つが細かな線描き、格子柄が宙に浮かぶ。そして次の瞬間に解き放たれたのは、再度となる境界の刃であった。


 ―――ズズズズズッ……!


 床のタイルを利用した一度目の攻撃の数とは比較にならない、境界の嵐が二人に降り注ぐ。こんな斬撃を食らってしまっては、肉片もまともに残りそうにない。そこまでに苛烈な攻撃であった。


「……ったく、長々と有難いご高説を垂れ流してくれるものね! 言っとくけど、アンタの攻撃だって無駄なんだからね!」

「無駄じゃけど、いきなり攻撃が出て来るから驚きはするんじゃよなぁ。心臓に悪いわい!」


 しかし、風塵の中から聞こえてきたのは、セラとジェラールの威勢の良い叫びであった。次いで二人はそれぞれの得物を振るい、一気に風塵を晴らして姿を現す。二人の言葉の通り、あれだけの斬撃を受けて尚、セラは軽傷も軽傷、ジェラールに至っては無傷のままの状態だ。


『展開は馬鹿みたいに早いし密度も濃いけど、やっぱり斬撃自体は軽いわね』

『いくら数を増やそうとも、ワシに斬撃は効かんしな。王のとっておきにも耐えた自慢の肉体じゃ、この程度で斬られる訳にはいかんて』


 念話にて双方の無事を確認したセラとジェラールは、やはりどちらも元気であるようだ。二人はどのようにして、あの刃の嵐を切り抜けたのだろうか? ……と言っても、双方その理由は実は単純である。


 セラの場合、彼女の血に触れた瞬間に消えろって命令してやれば、その瞬間に結界の刃は綺麗に消え去り、ダメージは肌を薄く斬る程度のもので済む。その時に負ってしまった切り傷も、『自然治癒』のスキルにより秒で完治してしまうのだ。よって、今はもう軽傷すらも綺麗になくなっていた。


 ジェラールについては『斬撃無効』のスキルを持っているから、の一言に尽きてしまう。かつてはケルヴィンの合体魔法【神鎌垓光雨ボレアラガン】にも耐えたのだ。この程度の斬撃では、毛ほどのダメージもないのは当然の事であった。


「……ますます素晴らしい。初手で私の聖死架苦刑ドライエックを防いだのは、決してまぐれではなかったのですね。お二方の努力の跡が伺えます。それこそ感動的な物語を読み進めるが如く、しみじみと」

「はいはい、感動するのはもう勝手にしといてよ。と言うか、空気中に舞った塵やら砂粒なんかが、何で境界線判定になるのよ! 全然関係ないじゃないの、嘘つき!」

「嘘だなんて、とんでもありません。私の目には宙を漂うそれらが、そういった配列になっているように見えました。よって、勝手ながらに利用させて頂いたまでです」

「それっぽく目に映れば、それで良いのか。もう何でもアリじゃのう……」

「フンッ、まあ良いわ! で、どうする? さっきも言ったけど、私達にあの程度の攻撃なんて意味ないのよ。そっち的には手詰まりなんじゃない?」

「はて、それはそちらも同じなのでは? 貴方達に私を害する手段はないように思えますが?」

「そうとも限らんぞい。攻撃を反射する、それは確かに厄介な力じゃ。じゃが、そのような手合いと刃を交えるのは、何もこれが初めての事ではない。カウンターが得意な敵が相手ならば、それ相応の戦い方もあるもんじゃて」

「そうよそうよ! ジェラール、もっと言ってやりなさい!」

「……フフッ、なるほどなるほど。貴方達はやはり素晴らしい。ならば、私も子供の遊びからもう一歩踏み込んだ、そんな誠意を示すと致しましょ―――」


 ―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!


 ふと、とんでもなく大きな轟音が、唐突にイザベルの言葉を遮った。地面深くにあるこの場所にまで響き渡るその音は、まるで大地を揺らしているかのよう、いや、実際に揺れてもいるのだろう。音の大きさからすれば、それはレムが作り出した不適の王キングの声よりも大きいものであった。


「……? 何です、この音は? 他の場所での戦闘によるもの、ではないようですが」

「むっ、この地響きは……」

「ええ、あの音よね」


 首を傾げるイザベル。しかし一方で、ジェラールとセラはこの音の正体を見破っている様子だ。


「これは間違いなく…… 姫様の腹の音じゃて!」

「……は?」


 イザベル、真顔で固まる。同時に好敵手の正気を疑う。


「奇遇ね、私も同じ事を考えていたところよ。メルのお腹が限界に達したんだわ!」

「ちょっと待ちなさい。貴方達、ひょっとして私を馬鹿にしているのですか?」


 イザベル、半信半疑どころか全否定である。仕方のない事であるが、欠片も二人の言葉を信じていないようだ。


「は? 真面目に戦っているこんな時に、そんな事をする筈ないでしょ? 貴女こそふざけてるの?」

「うむ、その通りじゃ。真剣勝負の最中に水を差すような真似はせん。ワシらじゃって空気は読むわい!」

「ほ、本気で言っているのですか? 本気で今のが腹の音だと……!?」


 このようなタイミングで、戦闘開始から初となる動揺の色を見せてしまうイザベル。空気を壊したのはセラ達の方だと、そう言いたかったに違いない。人だろうと神だろうと、今のが腹の音であるだなんて、信じられない方が普通なのだ。この件に限っては、イザベルは何も悪くなかった。


「まったく、常識を弁えてよね!」

「そうじゃそうじゃ!」

「………」


 悪くはないが、このようにボロクソの言われ様である。それまでも据わっていた彼女の目が、より重々しいものになっていく。こんな理由でなっていってしまう。


「それに、フフン! つまらない冗談を言っている場合じゃないわよ、貴女」

「……どういう意味です?」

「メルの腹が盛大に鳴る。それは言い換えれば、その戦場で勝利をあげた事と同義よ! どこのどいつと戦っていたのかまでは、私も知らないけどね!」


 随分な同義であった。

アニメPV第二弾が公開中です。そちらも是非是非。

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― 新着の感想 ―
[一言] >メルの腹が盛大に鳴る。 明日は食糧危機かな。
[一言] メルの腹の音は雷禅クラスか。 向こうは七百年だけど此方は数時間・・・飢えているな
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