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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー2 白翼の地編
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第193話 慶事

 残念な結果となったあの鍛錬の後、俺達は気絶させたグロリアを聖杭ステークに移動させた。グロリアの権能が回復したら、再び『死神の食卓』の牢に入れ、鍛錬しようよ! と、爽やかに誘うなどして何とか引き込もうと努力した。結果――― 普通に断られた。まあそれでも脱出する事、俺を殺して制約を解く事は諦めていないようで、なんやかんやで鍛錬らしい事はできている。一時はどうなる事かと思ったが、終わり良ければ総て良し、だ! で、そんなこんなで決戦の日が近付く。


「え、出産予定日が決戦日と重なりそう!?」


 そんなある日の事、パブの宿に戻った俺はアンジェに衝撃的な事実を告げられた。今まで聞いていた話では、エフィルの出産予定日は決戦日の後になる筈だったんだ。


「まあ、確実にそうとは言えないんだけどね。この前、ベガルゼルドさんに診てもらったんだけど、どうにも予定日が早まるかもしれないって、そう言われちゃってさ」


 ベガルゼルドはグレルバレルカ帝国に所属する、悪魔四天王兼医者の巨人だ。俺達の知る限り、というかシュトラやセラが言う事には、ベガルゼルドの医療技術はこの世界で最先端を行っているらしい。そんなお医者さんに診断された結果なのだから、今の話が間違いという事はないだろう。


「申し訳ありません、ご主人様……」


 布団で横になっているエフィルが、本当に申し訳なさそうに謝ってきた。エフィルのお腹は随分と大きくなって、今では布団をかけても、その大きさがよく分かるほどだ。


「何でエフィルが謝るんだ。むしろ、謝らなければならないのは俺の方だよ。こんな大事な時に、あまり傍に居られなくて、本当にすまない。ずっと近くに居られれば良かったのに……」

「いいえ、そんな事はありません。ご主人様はこの世界の為に、ずっと戦っておられるのです。それは私の誇りと喜びであれ、悲しみに繋がるような事ではないですから。その、こうして毎日会いに来てくださいますし……」


 ほんのりと赤く染まった顔を、布団で隠そうとするエフィル。エフィル、止めてくれ。俺まで心臓が爆上がりして真っ赤になってしまう。


「うーん、ラブラブな様を見せつけられるアンジェお姉さん、とても居辛い。私、席外そうか?」

「あっ、いえ、そんなつもりでは……!」

「アンジェ、是非ともここに居てくれ! 頼む!」

「ふーんだ、取って付けたような対応をされても、アンジェさんは簡単に靡いたりしないもーん。アンジェさんにも構ってくれないと、また首を狙っちゃうかもしれないもーん」


 う、うん、何と言うか、拗ねたついでにちゃっかりと要望も出して来るのが、実にアンジェらしい。最近は稀だけど、俺の首を物理的に狙って来るのは――― あ、いや、そこは別に嫌じゃなかったわ。逆に率先して狙ってほしいわ。


「けど、そう言っちゃうと更に拗れるよな……」

「ん? ケルヴィン君、何か言ったかな?」

「い、いや、こっちの話だ。アンジェにも感謝しているし、エフィルと同じくらい愛してるよ。その気持ちに嘘はない」

「……本当に?」

「本当に!」

「……嘘じゃない?」

「嘘じゃない!」

「……この戦いが終わったら、私達と結婚してくれる?」

「結婚する! ……ん?」


 今、勢いで凄い事を言ってしまった気が。


「やったね、エフィルちゃん! この戦いが終わったら、遂にケルヴィンと結婚できるって、私達!」

「フフッ、やりましたね、アンジェさん。私の場合、ちょっと順番が逆になってしまいましたが、この幸せに比べれば、ほんの些細な事です」

「ま、待て、勢いで肯定しちゃったけど、ちょっと待ってくれ。結婚はもちろんするつもり、いや、絶対にするけど、流石に決戦後は気が早いって。ほら、全員一緒にするって約束だったし、リオンなんて今は在学中なんだぞ? せめて、リオンがルミエストを卒業してからでも―――」

「―――もう、ケルヴィン君はノリが悪いなぁ。なら、せめて雰囲気だけでも体験してみたいかな? メルさんとブライダルの予行練習をした事、このアンジェさんが知らないとでも思ってる?」

「うっ……!」


 それってひょっとしなくても、デラミス大聖堂でコレットに神父役をしてもらった、あの時の事だろうか? あの後に罠に嵌められた俺は、その後の人生を左右する大惨事に巻き込まれた訳だが…… もしかして、そっちも知られてる? あの、アンジェさん、笑顔が怖いッスよ。分かった、分かったから、その笑顔を止めて!


「……じゃあ、式の予行練習をやるという事で」

「やったー! 先んじての式をゲット! エフィルちゃん、楽しみだね!」

「式、ご主人様との、式……」

「あ、あれ? エフィルちゃん? おーい?」


 何を想像しているのか、エフィルは完全に上の空になってしまった。まあ、敢えて言うまでもないだろう。野暮ってもんだ。


「ありゃりゃ、これは現実に戻って来るまで、少し時間が掛かりそうだね。ああ、そうそう。ベガルゼルドさんから聞いたよ。エフィルちゃんのお腹の子、女の子なんだって? ケルヴィン君、そろそろ名前を決めておかないとね」

「ハハッ、急に話を方向転換して来たな。まあ、エフィルと一緒に話し合って、幾つか候補を絞ってはいるよ。エルフの里のネルラス長老に会って、伝統的な名前をアドバイスしてもらったりもしたな。けど、ネルラス長老も妙にやる気になっててさ、一押しの名前を百個近く挙げられたよ……」

「そ、それは逆に困るパターンだね。何だかジェラールさんに似てるかも?」

「そう、ジェラールもやばいんだ。あいつ、仮ひ孫の誕生じゃ! とか言って、名前候補をやたらと増やそうとするんだよ。天啓を得たとか何とかで、毎日十個は思い付きやがる」

「わあ、やる気に満ち溢れていて、ケルヴィン君がナーバスになっちゃうね~。 ……ちなみになんだけど、ジェラールさん、皆に子供ができるたびにそうなったりする?」

「逆に聞くけど、そうならない未来を思い描けるか? 最悪の場合、ジェラールどころかグスタフ義父さんも参戦するぞ……」


 子を授かる事は、本来は慶事けいじである筈だ。なのに、ここだけが凄まじいナーバス要素となっている。正直親と翁に関しては、俺の発言ではどうしようもできない、と言うか効果が滅茶苦茶に薄いので、嫁の威を借りて何とかしようと思っている。それが一番スマートに事が進みそうなのだ。


「……ハッ! 私は何を!?」

「おっと、エフィルちゃんが帰還したみたいだね」

「わ、私、変な事を言ったりしていませんでしたか!?」

「大丈夫大丈夫、最低限の言葉しか発していなかったから。ね、ケルヴィン君?」

「ん? ああ、まあ、そうだな」

「そ、そうですか、良かったです……」


 まあ、見れば何となく分かっちゃう感じだったし、俺との式って小さく喋ってはいたけどね。はい、とっても可愛かったです。


「そうだ、今のうちに伝えておくね。エフィルちゃんの臨月が近いから、今回の決戦、私はここでお留守番してるよ。総長やら学院長やら、むしろ戦力的には多いくらいだから、まあ大丈夫そうでしょ? アンジェお姉さん、護衛隊長の任務を継続しま~す」

「え? アンジェさん、無理に私に付き合う必要は―――」

「―――はいはい、そんな事は言いっこなし。別に無理なんてしていないし、今回は戦いよりもエフィルちゃんの身の安全の方が、ずっと大事だからね! という訳で、ケルヴィン君よろしく!」

「お、おう」


 よろしくされてしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言] もしかしてこれから産まれてるく子供は全員女ってことは無いよね?さすがに男もちゃんと入れて欲しい
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