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第78話 やり過ぎた

「おお、誰かと思えばケルヴィンじゃねーか! ……森の入り口のど真ん中にシート敷いて何してんだ?」


 エフィルの報告通り、冒険者の正体はウルドさんのパーティであった。むむ、ここなら誰も来ないと思ったんだけどな。ちなみにエフィルは木から下り、今は俺の横に並んでいる。


「はは、ちょっとしたピクニックですよ。天気もいいですし」

「こんな危険な場所でか……」


 ウルドさんが呆れた顔をする。しかし、事実だから仕方ない。


「ウルドさんこそ、暗紫の森に来るなんて珍しいですね」

「ああ、俺達のパーティも漸くB級昇格試験の資格を得たんでな。今は試験の真っ最中だ」


 試験の内容は暗紫の森に生息するブラッドマッシュ、エルダートレント、ドクロ蜜蜂を各10体討伐するというものらしい。討伐したモンスターの指定された部位を持ち帰り、晴れてB級へ昇格となる訳だ。現在はボスモンスターがいない為、ダンジョン内のモンスターは比較的大人しい。ウルドさんのパーティの実力であれば、何とかクリアすることができるだろう。


 ただ、注意すべきはパーティ全員が同じ試験を受けていると言うことだ。先ほどの討伐モンスターは一人・・あたりのノルマ、つまりは全員がこの数を倒さなければならない。ウルドさん達の人数分を合計するとかなりの討伐数となる。


 このあたりが通常の依頼と昇格試験の異なるところだな。依頼でパーティ全員の力が試され、試験では個の実力が試される。まあ、今回のウルドさんの試験であればある程度手助けはできそうだけど。


 ちなみに討伐者を偽って報告をするのは不可能だ。パーティの仲間内であろうとも、止めを刺さなければこの数にはカウントされないからである。高位の鑑定眼であればアイテムを見たときに討伐者の名前も見ることができ、その止めを刺した者がここに記載される。冒険者ギルドはこの記載もしっかり見ている。嘘を付いてバレでもしたらそれこそ問題だ。


 話は変わるが、エフィルも先日B級への昇格試験を受けている。内容は似たような討伐で特に問題なくクリア。開始地点から一歩も動くことなく終わらせてしまった。


「にしても、見ない顔が――― って何で美人美女美少女ばかりなんだよ!? エフィルはいいとして、これ全員お前の新しい仲間か!?」

「え、ええ、まあ。エリィとリュカは私の屋敷で働かせているメイドで、冒険の仲間って訳ではないですが」


 エリィが軽く会釈する。リュカもそれを見て、同じように真似る。


「クソ、何て羨ましいんだ!」

「うちは男ばかりだってのに……」

「エフィルちゃんとセラ嬢だけでは足りんと言うのか……!」


 ウルドさんの背後にいる仲間の冒険者達が、羨望と妬みの眼差しを俺に向けてくる。エフィルやセラ程ではないにしても、エリィもかなりの美人さんにカテゴライズされるからな。その娘であるリュカも然り。


 パーティの人達のことはよく知らないが、鑑定眼で見る限りウルドさんを含めた4人全員が30歳を超え、重戦士、剣士、弓使い、魔法使いと構成のバランスが良い。のだが、なぜか全員マッチョな肉体をしている為、非常に男臭い――― いや、いぶし銀の光る渋いパーティだ。


「お、落ち着けお前ら! このくらいで狼狽えるんじゃねぇ!」

「す、すまないリーダー。少し取り乱したようだ……」


 若干狼狽えているウルドさんが仲間達に檄を飛ばす。しかし、それでも仲間達は落ち着きを取り戻してきているようだ。流石だな。今のうちにささっと挨拶を済ませてしまおう。


「ああ、二人の紹介もまだでしたね」

「皆さん、はじめまして。私、メルと申します。以後、よしなに……」

「ぼ、僕はリオンっていいます。えっと、ケルにいの妹です。よろしくお願いします」


 何か神々しい光をバックに携えたメルフィーナと、大人と話すのに慣れていない為か、少し緊張しているリオンが挨拶する。


「リーダー! やっぱり人生不公平だよ!」

「だって今度は可愛らしい妹だぜ!?」

「聖女のような美少女だっているんだぜ!?」

「待て、お前ら! 気持ちは分かるが待て!」

「唯一妻子持ちのリーダーには、独り身の俺達の気持ちは分からねーよ!」

「「そうだそうだ!」」


 なぜか仲間の抗議の声が強くなってしまった。とてもではないが、これはウルドさん一人では止められそうにないぞ。どうしてこなった?


 余談だが、メルフィーナの天使の輪と白翼は今は見えていない。と言うのも、それらは魔力の集合体なので、その気になれば自由に具現化できるそうなのだ。もちろん、メルフィーナが本気で力を出すとなると、視認できる程になってしまう。最も、そのような場面ならば四の五の言ってられないだろうが。


『ご主人様、そろそろウルドさんが突破されます』


 む、そうだな。そろそろ俺も加勢―――


「今戻ったわよー! って、何してんのよ?」

「またカオスな状況じゃな」


 どうやらスタートから1時間が経っていたようで、セラとジェラールが狩りから戻ってきた。クロトの分身体達もピョンピョンとその後ろを付いて来ている。


「む、そこにいるのはウルド殿ではないか」

「その声はジェラール殿! ちょうどよかった、この馬鹿共を止めるのを手伝ってくれ!」


 そういえば、ジェラールとウルドさんは悪魔討伐の宴で仲が良くなっていたんだったか。ジェラールが加われば、鎮圧は容易だろう。


「んー…… この人、誰だったかしら? ジェラールの知り合い?」

「憶えてないのか? まあ、セラはあの時相当酔っていたからな」

「記憶にないわね!」

「酒は一口しか飲んでいなかった筈なんだけどね……」


 その後の面倒を見るのが肉体的にも精神的にも大変だったんだぞ。まあ今では良い思い出、なのかもしれないが。


 そうこうしているうちにジェラールによる暴徒の鎮圧が完了する。


「む、無念……」

「事情は知らぬが、まあ落ち着け。ウルド殿も困っているではないか」

「ジェラール殿、手を煩わせてしまったな。俺の管理不足だ。すまねぇ」

「何、お互い様じゃよ。王の命を救って頂いた恩もあるしのう」

「大袈裟だな、あんなのおふざけみたいなもんだろう?」


 恩とはセラの首絞めから俺の命を救ってくれたことだ。いやいや、おふざけなんてとんでもない。あの首絞めは俺唯一の命の危機だったといっても過言ではないのだ。ウルドさんの一声がなかったら、今俺はここにいなかったかもしれない。


「お前ら、これからB級ダンジョンである『暗紫の森』で試験なんだぞ!? そんな半端な気構えで合格できると思ってんのか!」


 おっと、ウルドさんの叱咤が始まったな。


「試験? 暗紫の森で何かやるの?」

「ああ、これからギルドの昇格試験を暗紫の森でやるらしい。内容はモンスターの討伐依頼だそうだ」

「「……えっ」」


 な、何だよ? セラもジェラールも微妙な顔をしてハモるなよ……


「やばいのう……」

「やばいわね……」

「お前ら、一体何をした?」


 おいおい、嫌な予感しかしないぞ。


「ご主人様、モンスターの姿が森の中に見当たりません。もしやと思いますが……」


 俺の気配察知にもモンスターの反応はない。エフィルの千里眼でも発見できないとなると、残る可能性は―――


「あはは、狩り尽くしちゃった……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ウルドさん、本当に申し訳ない! うちの奴等が気合入れ過ぎたばかりに!」

「頭を上げてくれよ、ケルヴィン。それが本当ならパーズにとっちゃ良いことなんだからよ。クレアの奴も安心して暮らせるってもんだぜ!」


 話をまとめると、ジェラール達が入り口ここに戻って来たのは制限時間がきたからと言う訳ではなく、暗紫の森に生息するモンスターを全滅させたからであった。セラの察知スキルで内部から確認したそうなので、恐らく全滅は間違いない。話し合いで狩りの勝負自体はノーカウントとなり、することがなくなったので全員で戻ってきたそうだ。


 故意ではないが、結果的にウルドさんの昇格試験に水を差してしまった。俺は今、絶賛土下座中である。


「事情を話せば、リオの奴も理解してくれるだろ。試験が雨天延期になったようなもんだ! それに仲間の気合を入れ直す良い機会になったんだ、逆に礼を言いたいくらいだぜ!」

「う、ウルドさん……」


 なんてできた人なんだ。夫婦揃って良い人過ぎる。


「それにしても、本当に規格外の力を持つようになったんだな…… いや、前からそうだったんだが、今になって実感するよ」


 自らの髭をいじりながら、ウルドさんが言う。


「S級への昇格試験を受けるだけはあるぜ」

「……はい?」

「だからよ、今度S級の昇格試験を受けるんだろ? リオが言ってたぜ?」


 当事者の俺は何も聞いていないのですが……


「ははーん、また内密に進めているか。大方、急に呼び出して試験を始める気だな」

「それは普通に困りますよ」


 しかし、リオの性格上やりかねない。


「試験の内容まで俺は聞いちゃいねぇが、S級の試験だ。ろくなもんじゃねえだろうな」

「ははは、同意見です……」

「ま、直ぐにやる雰囲気じゃなかったからな。準備だけは整えとけ」


 ウルドさんの言う通り、今はできることをするしかないか…… あ、そうだ。折角ウルドさんに会えたんだ、屋敷のことを話しておかないと。


 その後、雑談を終えた俺達は暗紫の森を後にする。試験が続行不可能となった為、ウルドさんのパーティも一緒にパーズに帰ることとなった。ウルドさん達の再試験を行うよう、俺からもリオに言っておかないとな。

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