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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー2 白翼の地編
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第185話 一枚噛む

 ここはシン総長の汚部屋――― もとい、ギルド本部の総長室。部屋の散らかりっぷりは今日も健在で、何とか足場を見つけてソファ前へと到着。シン総長が出してくれたゴブ茶(?)とかいう珍しい茶をしばきながら、俺はついさっき起こった出来事を総長に説明するのであった。にしても、うーん、この茶は不思議な味だな。あ、ちなみにジェラールも一緒だ。物のついでという事で、ゴルディアの聖地から俺と一緒に来てもらった。


「ふんふん? それで緊急避難先として、ここへ来た訳だ。いや、逃げて来た、と言うべきかな? いやはや、『死神』として悪名高いケルヴィン君らしくない行動じゃないか」

「別に悪名は高くないだろ。それに今回は、可愛い竜ズに相手役を譲っただけでだな―――」

「その言い訳は苦しくない?」

「そうじゃそうじゃ、何の連絡もなしにワシを召喚しおって! バッケ殿とブルジョワーナ殿が凄い形相で近付いて来て、危うく腰を抜かすところであったぞ!」

「むう……」


 シン総長とジェラールに詰められ、肩身が狭い俺。口にされるのがどれも正論である為、反論する事ができず。だって、だって顔の圧が凄かったんだもの。ジェラールが腰抜かすレベルの圧だったんだもの。戦闘時であれば全く問題ないが、ただの会話中にあの圧はないと思う。ぶっちゃけ、俺も怖かったんだよ。非戦闘時にあの圧は反則だよ。


「さて、一通り楽しんだ事だし、そろそろ本題に移ろうか。ケルヴィン君、手に入れた情報を教えてくれたまえ」


 そんな事を言いながら、向かいのソファにどっかりと座るシン総長。アンタ、そんな上司みたいに――― あ、一応は上司みたいなもんだったわ。まあ、冒険者だから厳密には違うけど。


 シン総長とは配下ネットワークが繋がっておらず、分身体クロトを渡している訳でもない為、ここは素直に状況説明を行う。ルキルとケルヴィムと手を組み、十権能とあーだこーだ。


「―――ふんふんふん、なるほどねぇ。くふふ、私の知らないところで面白い事になっているじゃないか」

「十権能の言葉をそのまま信じるとすれば、一ヵ月の間は何も仕掛けて来る事はないと思う。まあ、もう奴らの居場所は割れているから、監視の目は常時光らせておくけどな」

「備えは万端という訳だね。念の為、冒険者ギルドとしても対策は打っておこう」

「流石、話が早いな。助かるよ」

「助かるも何も、ギルドを統括する総長として動かない方が問題だ。ケルヴィン君が礼を言うほどの事じゃないよ。 ……とはいえ、十権能がこれ以上現れないとなれば、大陸間でできる事は限られるけどね。神の方舟が天使型のモンスターを世界中にばら撒いた時と違って、今回は明確な脅威が他に出現していない。精々がホラスみたいな地上の堕天使を捜す事くらいかな?」

「ふうむ、堕天使の翼や輪を消した状態であれば、普通の人間と見た目は変わらんからのう。捜すにしても、なかなか苦労しそうじゃわい。王のような高位の『鑑定眼』があれば、話は別なんじゃが」

「俺だって、どこに居るのかも分からない奴らの捜索なんてしたくないっての。そっちの話に関してはは、世界中にギルドの伝手があるシン総長に任せるよ。冒険者の中には、捜索とかの特殊依頼を得意とする奴らも居る事だしな。それよりも、今詰めておくべき話は別にある」

「別って言うと?」


 俺達に断る事もなく葉巻に火をつけ、スパスパとマイペースに吸い始めるシン総長。この部屋は喫煙スペース? ああ、そうだったんですか……


「敵の本拠地である白翼の地イスラヘブンに、誰が攻め込むのかをハッキリさせておきたい」


 俺の家族は当然としても、他の冒険者や国がどう動くのか、正直俺には予想し切れない。さっきシン総長もチラッと言っていたが、今回の騒動で実害を被っているのは、学園都市ルミエストや氷国レイガンドくらいのもの。クロメルの方舟みたいに大々的に姿を現している訳でもないから、世界の大多数の者が十権能の存在自体をそもそも知らないのだ。そんな状況で俺が「この日に十権能を倒しに行くから、世界各地の実力者は協力してくれよな!」なんて言ったところで、怪訝な顔をされるだけだろう。


 まあ、俺と関係の深い東大陸の各国、北大陸のグレルバレルカ帝国は聞き入れてくれるかもしれないが、応援部隊が来たら来たで俺達のバトルの取り分が少なくなって、結果的に損をするのであんまり誘いたくは――― ゲフンゲフン! ……大きな騒動の後って事もあるし、あんまり迷惑を掛けたくはないよな、うん!


 そんな訳でシン総長には、今回の騒動を既に察知している各国各人の顔を立てつつ、冒険者ギルド内の面子で解決できるように調整役をお願いしたいと思っている。我が家だとシュトラが正に適任者なのだが、流石に一人で全てをカバーするのは難しいだろうし、可能だとしても、このひと月を丸々調整役として費やす事になってしまうだろう。だからこそ、総長には頑張ってもらいたい。今こそ、その地位を活かす時ですよ! なんて、駄目元でおだてながら言ってみる。


「ったく、気軽く言ってくれるもんだ。私は現場主義だから、そういった裏方仕事は好きじゃないんだ。 ……けどまあ、引き受けてあげても良いよ?」

「え、本当に?」


 おお、これは僥倖。言うだけならタダかな、程度にしか思っていなかったが、まさか本当に引き受けてくれるとは。それなら、これから回る予定だった場所が大分少なくなるぞ。


「その代わりと言っちゃ何だが…… その十権能討伐作戦に、私も連れて行ってくれよ」

「………」

「なるほど、それは大歓迎という顔だね? うんうん、分かる分かる。私という大きな戦力の参戦は、ケルヴィン君にとって喜ばしい事だろうからね!」


 いやいやいや、思いっ切り嫌な顔をしているんですけど? それだとバトルの取り分が少なくなるんですけど? 後方で忙しくさせて、遠回しに参戦させないようにするって思惑もあったんですけど?


「王よ、まずは冷静になった方が良いぞい」

「あ、ああ、分かってる。ちょっとだけ眩暈がしただけで、特に問題はないさ。うん、全然ない、大丈夫大丈夫……」

「大丈夫なようには見えんのだが……」


 ジェラールの言う通り冷静になって考えてみれば、戦力の強化は喜ばしい事だ。今回の戦い、妊娠中のエフィルは絶対に参加させられないし、パブに何人か警護役を残すとしたら、どうしても欠員が出てしまう。その穴を埋める為の人選と思えば、まだ許容できる範疇だろう。よし、オーケー! 俺は納得する事にした!


「くふふっ、まあそう焦んなさんな。私は別にケルヴィン君と違って、十権能と戦いたい訳ではないんだ」

「うん? じゃあ、どうして?」

「ギルドを取り仕切る総長としての責務が、私をそうさせる――― なんて責任感は微塵もなくて、純粋にその場所に興味があるんだ。この部屋の有り様を見てもらえば分かると思うけど、私には結構な収集癖があってね。不思議な力を持つマジックアイテムや、レアな武具が大好きなんだよ。で、そこに行けば、大昔の神様が創造したアイテムもあるんだろう? 私が欲しているのはそっち、つまりは探索がメインなのさ! あ、私が発見したものは私のものって事で良いかな? 何事も早い者勝ちって事で!」


 総長、目がキラッキラしとる…… だが、なるほど。総長の目的は十権能の持ち込み品という訳か。確かに、聖杭ステークなどの創造物を見ると、それらが魅力的に映るのは納得の理由と言える。なら、俺の活動に支障をきたす事はないか? んん~~~。


「……分かったよ。タダよりも高いものはないって言うしな。但し、調整役の件はマジで頼むぞ?」

「おおっ、流石は『死神』! 話が分かるね~。よっ、戦慄ポエマー!」

「フッ、喧嘩なら喜んで買うけど?」

「あーもー、ワシは知らんからねー。ズズッ」


 笑顔のまま得物を取り出し、構えを取る俺達。ジェラールは何やら諦めた様子で、器用に兜の上からゴブ茶をすすっていた。誰も彼もがマイペースである。


「セルシウス卿、その話、私にも一枚噛ませてもらえないかな?」


 喧嘩を始める寸前のところで、部屋の片隅にて乱雑に積み上げられたアイテムの山の中から、聞き覚えのある声が耳に届いた。

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