第77話 パワーレベリング
―――暗紫の森
リオンを転生召喚した翌日、俺達はパーズ周辺で比較的高レベルモンスターが住み着くダンジョン、暗紫の森を訪れていた。目的はリオンのレベルアップ、要は俺の経験値共有化を用いたパワーレベリングだ。本来であればモンスターを倒した者が得るはずの大半の経験値を、パーティ全員に等しく配分するスキル。これを使うことで、例えレベル1の者であろうとパーティ内にいさえすれば、高レベルモンスターを倒したのと同義になるのだ。
「いかにもダンジョン、って感じだね!」
「あ、あの、ご主人様…… なぜ、私達もお供しているのです?」
「お母さん、真っ暗な森だね。昼なのに全然明るくないよ?」
また、そのついでにエリィとリュカも連れてきている。二人は戦闘員でないにしろ、現実何が起こるか分からないのがこの世界だ。最低限の自衛はできるようにしてもらう。
現在のステータスは以下の通り。
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エリィ 28歳 女 人間 メイド
レベル:5
称号 :なし
HP :13/13
MP :18/18
筋力 :5
耐久 :5
敏捷 :11
魔力 :4
幸運 :12
スキル:奉仕術(F級)
調理(D級)
清掃(E級)
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リュカ 10歳 女 人間 見習いメイド
レベル:1
称号 :なし
HP :7/7
MP :5/5
筋力 :2
耐久 :1
敏捷 :2
魔力 :1
幸運 :2
スキル:奉仕術(F級)
裁縫(F級)
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屋敷にはセキュリティーとして、俺が生成したゴーレムを置き、警備にあたらせている。勇者との戦いでも使用した、あのゴーレムだ。刹那に斬られはしたが、あれは例外。本来はA級モンスターと同等の力を擁する。その改良型・試作型を正門に2体、庭園に4体、屋敷内に6体配置させている。生成さえしてしまえば、後は定期的なメンテナンス(と言う名の改造)と、魔力の補充だけで済むのだ。何ともお手軽である。最近、このゴーレム作りが俺の趣味の一部となってきたのは内緒の話だ。
しかし、そのゴーレムによる警護があると言えど、このステータスではもしもが起こった時に心配なのだ。
「二人もある程度レベルを上げてもらう」
「でも、ご主人様。私、モンスターと戦ったことなんてないよ?」
「私も幼少の頃に狩りの手伝いをしたくらいです」
「まあ、安心しろって。今日はここで座ってるだけだよ。まずは基礎となるステータスとスキルポイントから固める」
当たり前だが、こんなところでリオン達を戦わせる気は全くない。ジェラール、セラ、クロトがダンジョンに潜り、リオン達は入り口で待機しながら経験値だけ得てもらう。B級ダンジョンである暗紫の森であれば、パーズの他の冒険者もおらず、他のパーティの邪魔になることもないだろう。俺とエフィル、メルフィーナは3人の護衛に徹する。
「ケルにい、僕も待機?」
「悪いが、今日は待機してもらう」
「そっかー…… まあ、焦っても仕方ないからね。その代わり、ケルにいには色々と話をしてもらうからね!」
「リュカも聞くー!」
「元からそのつもりだよ」
ただ待っているのも時間の浪費だからな。その間に知識を教え込む算段だ。
「では、ちょいと行ってくる」
「ふふん。ジェラール、1時間の間に何体狩れるか勝負よ!」
「ほほう、面白い。昨日の雪辱戦という訳か」
「なら決まりね。はい、スタート!」
「ちょ! 行き成りは狡っ辛いぞい!」
「負けた方は帰りの荷物持ちねー!」
セラが飛びながらそう言い去っていった。ジェラールも遅れながら追いかける。
セラの奴、機動性に長けた方が有利な勝負を仕掛けたな。しかし、クロトのことを忘れてないか? B級程度のモンスターなら、力を割いた分身体でも倒せるんだぞ。詰まる所、クロトだけチームで挑んでいるようなものだ。
コアを持つ本体、エフィルの肩に乗ったクロトはのほほんとしているが、複数の分身体は既に森へと入り、狩りを始めている。はてさて、荷物持ちは誰になるのやら。
「よし、俺達も始めようか」
教本となる小冊子を取り出すと、リュカがちょっと嫌そうな顔をした。ふふ、誰が世間話と行ったかな? 話と言っても勉強の話なのだよ。
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セラ達が出発して30分が過ぎようとしていた。エフィルは森の木に登り周囲の警戒。メルフィーナはシートに座りながらニコニコと俺の話を聞いている。
「魔法を扱うスキルには5つの種類がある。炎雷を操り、最も攻撃的で破壊力のある赤魔法。水と氷で補助に長け、敵には阻害を与える青魔法。風や土で状況の変化に対応しやすく、バランスの良い緑魔法。そしてアンデッドに滅法強く、回復を得意とする白魔法。最後に死体を操るなどトリッキーな魔法の多い黒魔法だ。もちろん、白魔法にだって攻撃魔法はあるし、赤魔法にだって補助魔法はある。大体のイメージとして捉えた方がいいかもしれないな」
「ケルにい、さっきからファンファーレの音がうるさくて集中できないんだけど……」
「順調にレベルアップしているってことだ。ステータスを見てみろ」
「えっと…… わっ! もうこんなにレベルが上がってる!」
「す、凄いですね……」
「私もだ! ご主人様、見て見て!」
先ほどまで慣れない勉強をした為か、白い煙を出していたリュカだったが、嬉しそうにステータス画面を見せてくる。うんうん、セラ達も順調のようだ。リュカの頭を撫でようとしたちょうどその時、エフィルからの念話が入る。
『ご主人様、森の奥からモンスターが一匹、こちらに向かってきます。種族は影の狼。はぐれたのか、群れではありません』
『うん? はぐれモンスターか……』
ちょうど良いな。これは召喚術を見せる良い機会かもしれない。屋敷の番犬も欲しかったし。
『狙撃せず、そのまま通せ』
パタン、と教本を閉じる。
「ケルにい?」
「森からモンスターが一匹向かって来ているようだ。リオン、犬は好きか?」
「え? うん、まあ好きかな。直接触れる機会は生前なかったけど……」
「なら、ちょっと待っててくれ」
「「「―――?」」」
暫くすると、森から影の狼がこちらに向かってくるのが見えた。日本で見られる狼よりも一回り大きな黒い毛並みの体を持ち、眼が紅いのが特徴的だ。懐かしいな、エフィルを仲間にした頃によく相手をしたものだ。
「ご、ご主人様! 危険です!」
エリィが堪え切れずに叫ぶ。B級モンスターを初めて目にしたのだ。俺の実力を知っているとは言え、心配してくれているのだろう。
「問題ない。メル、一応皆の前に控えてて」
「心得ました」
影の狼の目が俺を捉える。このまま真っ直ぐ俺に向かって来てくれれば楽なんだけどな。まあ、どっちに行こうが結果は同じなんだが。
「ワォーン!」
鳴き声を漏らしながら俺に飛び掛る影の狼。
「重風圧」
拘束に便利ないつもの重風圧を発動。残りHPを鑑定眼で確認しながら、重圧の微調整を行っていく。HPが半分になったところで重風圧を解除。そして契約を発動だ。俺のMPの半分が消費され、ちょっとだるい感じに。
「光りだしたな。契約成立だ」
「ケルにい、これは?」
「召喚術の契約だよ。これでさっきの狼が俺の配下になったんだ」
「こ、これが召喚術ですか…… 初めて見ました」
「ご主人様、つよーい!」
む、そういえばこいつは名前なしだったな。屋敷に戻ったらリオンに名付けてもらうか。そんなことを考えていると、再びエフィルからの念話が届けられた。
『ご主人様、後方から冒険者のパーティがやってきます』
『今度は冒険者か? 今日は珍しく大盛況だな、この森』
俺ら以外の冒険者が暗紫の森に出入りするところなんて、これまで見たことないんだけどな。
『あれは――― ウルドさんのパーティです』