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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー2 白翼の地編
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第156話 内部抗争

 白翼の地イスラヘブン、叡智の間。十権能に支配されるこの場所、その中心にて、ある人物が拘束されていた。その者の名はゴルディアーナ・プリティアーナ。次期転生神を確約された彼女は、幾つもの光の輪で全身を拘束され、十字架の前で宙吊りにされた状態にあった。意識がないのか、少し厚めの両瞼りょうまぶたが開く様子はない。が、なぜか自らを両腕で抱き締めるような、プリティーなポージングで静止していた。


「……おい、ハオ。これはどういう事だ?」


 宙吊りにされたゴルディアーナをひと目見て、ケルヴィムが眉間にしわを寄せながら問い質す。


「質問の意図が分からんな。見ての通り俺が捕らえて来た偽神、ゴルディアーナだ」

「それは分かる。だが、なぜこの格好で封印した? 不愉快以外の何ものでもないぞ?」

「それこそ、俺に対する問いではないな。俺はゴルディアーナを捕らえ、この場に連れて来ただけ。封印を施したのは別の者だ」

「………」


 ジロリと辺りを見回すケルヴィム。前髪が長い為に片目しか見えない彼であるが、だからと言って彼から放たれる威圧感が半減される訳ではない。


「あ、あの、私がやったのですか……」


 そんなケルヴィムの圧に耐えかねたのか、おずおずと手を挙げる堕天使が一人。グロリアと同じ金の長髪に司教冠を被せ、白地に金の刺繍が施された神官服を纏う少女は、声色からも分かる通り酷く緊張した様子だ。これまでずっと口を閉じ、自ら発言する事もなかったのだが、流石にここは前に出ないと不味いと思ったのだろうか。


「イザベルか。確かに、お前の結界能力は我々の中でも群を抜いている。この偽神が逃げ出せるほど軟弱なものでもないのだろう。だが、どうしてこのような状態で封印した? 表情も微妙に作っていて、実に腹立たしいぞ」

「ど、どうしてと言われましても…… その、ハオさんが運んで来た時には普通だったのですが、封印を施したら、いつの間にかこのようなポーズを……」


 イザベルというらしいこの十権能も、なぜゴルディアーナがこのような格好で封印されたのか、正直なところよく分かっていなかった。気が付いたらポージングを取っていた。と、そう述べるしかないのだ。


「ケルヴィム、その辺にしておけ。イザベルの性格からして、嘘をついてまでそのような事をするとは思えない。そのくらいの事は君も分かっている筈だ」

「フン、当然だ。だがしかし、その上でも腹立たしいのだ。我々の宿敵が、このようなふざけた格好をしている事が……!」

「カカッ! 我らが副官どのは随分とお怒りのようじゃの。じゃがワシはそれよりも、そのふざけた格好をした偽神が、ハオの片腕を奪った事実に驚きを隠せんよ。ハオよ、それほどまでに此奴は強かったのか?」


 ハザマが頭(?)らしき部位をハオへと向ける。ハオの左腕は治療されておらず、欠けたままだった。だからこそ、十権能の注目もそこに集まっていた。


「……殆ど互角、どちらが倒れても不思議でない戦いだった。権能を顕現させた俺と、それも接近戦でそこまで殺り合ったのだ。これを強敵と言わずして、何を敵としようか」

「あ、あの、腕の再生は如何します? それくらいなら、私にもできますが……」

「不要、なくした腕はその偽神にくれてやった」

「ほう、お主がそこまで言うか?」

「地上で『桃鬼』と呼ばれているだけの事はある。あの戦い振り、正に鬼神の如し」


 ―――ピクリ。


「ん、んん?」

「どうした、イザベル?」

「い、いえ、偽神が少し動いたような、そんな気がして…… すみません、多分気のせいです」


 イザベルが改めてゴルディアーナに視線を移す。だが、先ほどの意味深なポージングのままで、動いている様子はなかった。


「……ふむ」

「カカカカッ! しかし、この世界の者達も楽しませてくれるのう。我らが義体の身とはいえ、その性能は下界における強さの限界を疾うに超えておる。だというのにハオは苦戦し、バルドッグは破れ、あろう事かリドワンは敵の配下へと降った! これほど愉快な事が他にあるじゃろうか? 否否否、あるまいて! カカカカカカッ!」

「ハザマ、楽観的……」

「ああ、笑っている場合ではない。現実の問題として下界に降りた十権能のうち、その半分以上が任務を失敗している。我らが神、アダムスの名において、これ以上の敗北は許されない。そもそも、我らが下等生物に劣ってはならないのだ」

「だが、どうする? この義体、想像以上に厄介だぞ。全盛期並みの力を行使できるのは極僅かな時間のみ。この白翼の地イスラヘブンを出るには人数制限が掛けられ、更には下界での活動時間でさえも制限が掛けられている。何もかもが雁字搦めだ」

白翼の地イスラヘブンを出られるのは、一度に三人まで、だっけ……? 能力の全力行使、地上での活動時間…… 個人差はあるけど、どれも十分とは言えない……」

「あのルキルという女、裏切る前提でこのような制限を義体に課していたのだろうな」

「義体の制限を地上の者達に教える可能性もある訳か。面倒な……」

聖杭ステークを一隻奪われたのも痛い。アレは我らが神を蘇らせる為に必須、創造したバルドッグも殺されてしまったから、また新たに用意する事も叶わん」


 かつて絶対的な力を有し、神界を二分するまでに至った邪神アダムスの配下、十権能であったが、どうやら義体での活動には様々な制限が課せられているようだ。先ほどから笑いが止まりそうにないハザマは別として、どの十権能も忌々しそうに業を煮やしている。


「エルド、口を閉じていないで、何か言ったらどうだ? 元はと言えば、お前が示した策が失敗したのが原因でもある。ルキルを使い潰す? ハッ、逆にリドワンと聖杭ステークが奪われる結果となってしまったではないか。一体どう責任を取るつもりだ?」

「……ケルヴィム、地位を高める事に執着するのは良いが、今はその時ではないだろう。責任のあり方を論している場合ではない」

「何?」

「優れた者が生き残り、劣った者は淘汰されるのが世の在り方。それが今回、後者に当て嵌まったリドワンとバルドッグに適用されただけの事だ。アダムスの教えを遵守する者ならば、特に疑問に思う必要もあるまい?」

「ッ!? 貴様……!」


 機械いすから立ち上がり、エルドと対峙するケルヴィム。彼からは明らかな殺意が放たれており、泣き虫なレムと繊細なイザベルは酷く動揺するには十分なものだった。


「カカカッ、このタイミングで十権能のトップの座を争うか。重畳ちょうじょう重畳、愉快な事は続くものじゃて」

「ハハハ、ハザマ、楽観が過ぎる……!」

「どどど、どうします!? ととと、取り敢えず、私の権能で二人纏めて閉じ込めてすり潰しますか!?」

「イザベルね――― イザベル、これ以上場を混乱させるような発言はしないでくれ…… エルド、貴様も言葉足らずが過ぎるぞ」


 混沌化する叡智の間に、グロリアの凛とした声が響き渡る。「ッチ」、「フッ」と舌打ちと小さな笑いで返したのは、果たしてどちらの反応だっただろうか。兎も角、この場に満たされていた殺意の渦は終息していた。


「そうだな、一つ言い忘れていた。アダムスを復活させる為の六つ贄・・・、そのうちの二つをリドワンとバルドッグの魂は満たしてくれた。だからこそ、彼らの犠牲は無意味なものではなかったのだ。特にリドワンの魂は、ルキルに奪われた聖杭ステークを満たしている。我らの手を放れようと、その時が来れば本懐を果たすだろう。 ……ケルヴィム、同志が道半ばで倒れた事を悲観するのは良いが、敵はあくまで偽神の信奉者達だ。私と雌雄を決するのは、全てが終わってからでも遅くはあるまい? 偽神ゴルディアーナを捕獲した今、残るは三つの贄…… 内部抗争などせず、我々はその確保に注力すべきだ」

「……良いだろう。だがその言葉、ゆめゆめ忘れるなよ?」


 ケルヴィムの瞳に宿った殺意は、依然としてエルドを捉えていた。

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