第113話 世界情勢と各々の道
楽しかった対抗戦が終わり、それから数日が経過した。現在俺はというと、一面銀世界な氷国レイガンドへ早速来ている訳だけど、その前にこの数日で起こった出来事、他の皆がどこで何をしているのか、それを説明したいと思う。
まず、世界で起こったホットなニュースについて。あの日ルミエストでは、対抗戦の真っ只中に堕天使達の介入が起こった訳だが、それは何もルミエストに限った話ではなかったみたいだ。東大陸で言えば、トラージに客将として滞在していたシルヴィアとエマ、ガウンの獣王レオンハルト、デラミスでは孤児院でだべっているセルジュ、真面目に働いていたエストリアに、トライセンではダン将軍の下に、それぞれ堕天使の刺客がやって来たそうなんだ。もちろん、今回の対抗戦メンバーに匹敵する力を持つ彼らは、周辺施設などに多少の損傷を受けはしたものの、これを無事に撃退。逆に堕天使を捕縛して、現在絶賛尋問中である。
まあ精々がA級冒険者程度の実力の相手に、これら面子が負ける筈がないんだけどな。先日俺が戦った神柱のドロシーは、正直レアケースな存在であったらしい。実にラッキーである。それもこれも、俺の普段の行いが良かったからだろう。ハッハッハ。
……で、そんな感じの襲撃事件が西大陸、挙句の果てには元奈落の地である北大陸、エフィル達が滞在していた迷宮国パブでも起こったようで、そちらはメル&竜王ズ、悪魔四天王やらまだ見ぬ強者達が対処したんだそうだ。今回の件、堕天使達の標的にされたのは、S級冒険者に準じた力を持つ者、要は圧倒的強者達だ。この辺はゴルディアーナが言っていた十権能の話が合致していて、邪神復活の邪魔を阻止する為の行動と思える。ただまあ、それだけの実力者を倒すのなら、それ相応の奴を送るべきだとか、いまいち組織としての行動がお粗末というか、微妙な印象を受けるんだよな。やる気あんのか? って感じだ。
次に他の面々がどうするかについてだが、ルミエスト学生組&教員組は学園を護る為にも、ルミエストに残って警戒を続ける事になった。リオンやクロメルにベル、アートがここに当たるな。将来的にかなり期待しているドロシーも、取り敢えずの処置は施したので、共に学生生活を送ってもらう事になった。彼女には何やら呪いの類(?)が施されていたらしいが、リオンと出会った事で、現在は綺麗さっぱり解呪されている。まっ、ドロシーも堕天使に利用された被害者って訳だ。しかし、神柱の中にいた彼女に呪いをかけてまで俺を殺そうとするなんて、世の中には酷い事をする奴がいたもんだよ。澄み切った心を持つリオンやクロメルを見習えって話だ、まったく!
そんな鬱憤はさて置き、他のS級冒険者達はというと、各々自由に行動しているところだ。
ゴルディアーナとブルジョワ―ナは『ゴルディアの聖地』に行くとかで、オッドラッドの奴も二人に付いて行った。聖地が何なのか気になるところだが、詳しい事は後でオッドラッドに聞く事とする。正直、どんな場所なのか聞くのも恐ろしい気がするが…… 未来の俺に頑張ってもらおう、うん。
バッケは対抗戦での昂りを晴らしたいとか何とかって理由で、一度母国であるファーニスに帰るという。こっちの詳しい話は聞く必要もなかったが、相当に飢えていたようなので、まあファーニス王には頑張って頂きたい。ガンバ。
そして我らがシン総長はというと、全国のギルド支部の情報を取り纏め、対策を打つ為にパブの本部へと、一足先に帰還して行った。意外にも真面目に行動する気だったようで、正直ビックリしている。いや、まあ当然っちゃあ当然の行動なんだけど、あれだけ自由な総長の姿を目にして来た今だと、いまいち信じられないというか…… まあ、総長は総長の方で尽力してもらいたい。ところでさ、対抗戦の時にギルドの露店で売っていた『死神ケルヴィン悶絶ポエム集』、アレは一体どういう事なんだい? 編集者の名前にシン・レニィハートって名前があったけど、何の冗談のつもりかな、ええ?
で、残る俺の弟子、スズとパウル君、シンジールについてだが、こちらの面々も全員異なる道へ進む事となった。スズはあんな調子でつい年下の女の子として接してしまうが、忘れてはいけない。彼女は歴としたトラージのギルド長なのである。対抗戦という出張の名目を終えた今、彼女はトラージへ帰らなければならなくなった。トラージで起こった堕天使絡みの調査も正にスズの役目なので、このタイミングで東大陸に帰還の運びに。別れ際にボロ泣きしていたが、果たして帰ってから大丈夫なのか、少し心配である。いや、以前とは比べ物にならないくらいに強くはしたんだけど、こう、精神的な意味でね?
シンジールはパブに残してきたパーティと合流する為、そこまでは俺達と一緒に行動していた。その後はレディ・リスペクト、レディ・アイスの故郷が無事か確認すると言って別行動に。行先は一応確認しておいたが、まあ大抵の事はシンジール単独でも問題ないと思っている。アレでもやわな鍛え方はしていないからな。大丈夫、勝てる勝てる。
そして最後、パウル君。てっきりシンジールと同じく、パブのパーティと合流して別行動するものだと思っていたんだが――― いや、パウル君の事を説明する前に、まずはルミエストのとある三名の生徒について語らなければならないだろう。
その生徒達の名はエドガー・ラウザー、アクス・エクス、ペロナ・マドナ。三人ともリオンと同じ学年の生徒であり、俺が今いる氷国レイガンドの関係者でもある。特にエドガーはレイガンドの王子様で、将来国を率いる立場にあるらしい。で、この三人がどうしたかというと、対抗戦が終わってから、学園から行方不明になっていたんだ。対抗戦を見に来ていたレイガンドの国王の要請で発覚したこの事件は、事が事である為に必要最小限の者達にしか知られておらず、現在捜索が続けられている。
ここで一番に怪しまれたのは、『英雄想起』の力で『王の命』を使えるようになっていた神柱、ドロシーだ。当然、ドロシーは事情聴取を受ける事になった訳だが、彼女は意外と素直にエドガーに力を行使していた事を認めてくれた。ただ、その力の使い方は対抗戦の予行練習程度のもので、自分の好意を寄せるなど、学園生活内で怪しまれないレベルに抑えていたという(中には力を行使していないのに術中に嵌る生徒もいたようだが)。対抗戦当日は試合の最中、また一部の生徒を堕天使の人質役として確保したくらいで、エドガーには全く関与していないとか。
これら彼女の供述は嘘ではないか、という指摘ももちろんあったが、呪いを浄化された今、ドロシーが堕天使の肩を持つ理由はない筈だ。つまり、三人は自らの意思で行方不明になった、もしくは何らかのトラブルに巻き込まれたって事になる訳だが――― まあ、堕天使が何かしらの悪さをした可能性が濃厚だろうな。それらしい三人組をレイガンドに向かう道で目撃した、という冒険者ギルドの情報もあり、ひょっとしたら俺達が発見する事になるかもしれない。一応、リオンの顔見知りでもあるらしいから、頭の隅っこにでも入れておこうかなと、普段の俺ならそう思って終わっていただろう。
……ただ、この話はここで終わらなかった。先ほどのパウル君の件に戻るのだが、パブに到着して仲間と合流するや否や、彼はこう言ったのだ。
『聞いてくれ、マスター・ケルヴィン。実は俺、氷国レイガンドの第一王子だったんだ。今は勘当された身だが、一応、エドガーの兄って事になる』
何だか面倒な事になりそうだがなと、俺は顔をしかめた。




