第106話 閉会、そして集合
学園都市ルミエストと冒険者ギルドの代表者達が集う対抗戦は、非常に僅差な戦績で冒険者ギルド側が勝利を収める結果となった。例年と比較にならないほどにレベルが高く、そして接戦が繰り広げられた今年の対抗戦に、集まった関係者や外で観戦していた者達は大いに盛り上がり、学園が企画するイベントとしても大成功に終わったのだ。トリとなるラストバトルで完全なるダークホース、ドロシーと戦えた俺も大満足である。閉会式が終わっても歓声は鳴り止まず、少なくとも今日一日は彼らの興奮が収まる事はないだろう。
「おいおいおい! 今年の対抗戦って、ガウンの獣王祭にも劣らない内容だったんじゃないか!?」
「昨年、ガウンの地にて獣王と桃鬼の決勝を、この目で直に見たワシには分かる! 今日行われた五試合全てが、あの時の感動に匹敵するものであったと!」
「冒険者ギルド側のメンバーはS級冒険者が殆どだったから、まだ理解できる。だが、それよりも驚くべきはルミエストの生徒達だ! 結果として負けはしたが、S級冒険者を相手に実力伯仲だったのは間違いない! これは新たな時代の波が来るぞ! 本国に帰還次第、何としてもこの情報をお伝えしなくては……!」
「卒業次第、我が国の有力者と婚姻を結ぶ形がベストではあるが、今年のメンバーは全員がまだ一年生であると聞く。かつて在籍していた神皇国デラミス、軍国トライセンの姫君達の時を考えれば、飛び級も考えられる。むう、卒業タイミングの予測と関係を結ぶ機会の構築、どちらも見誤れんな」
「あまり軽率な事を言うべきではありませんわ。実力があるだけじゃありませんの。あの生徒達のバックに控えるは、どれもこれもが大国ばかり。下手に手を出すのは下策でしかありませんの」
「ああ、我々のような中小国が安易に関われる相手ではない。S級冒険者と同等とは、つまりその生徒一人で一国の軍隊とも対等以上に渡り合えるという事だ。僕にはとてもじゃないが、手綱を握る自信がないよ」
「エドガーは見つかったか? 発見でき次第、余の下へ呼び出すのだ。彼奴も最低限の理解はしていると思うが、尊大な態度で接する事のないよう、今一度徹底させる必要がある。でなければ、我が国もトライセンの二の舞になるぞ」
「承知致しました。しかし、流石にその危惧は不要かと。エドガー様は次代のレイガンドを次ぐ偉大なるお方、国内でのように誰彼構わず口説く事はありますまい」
とまあ、こんな感じだ。各国のお偉いさんが揃っているだけあって、驚きと共に如何にして関係を築くか、その点を考えているコメントが多い気がする。まあ、そんな大声で聞こえるように言うなって話でもあるが。何はともあれ、婚姻とか言い出した野郎の顔と、エドガーとかいう生徒の名前は記憶に刻んでおく。なぜって? いや、分かるだろ?
「閉会式、参加するよな?」
「……分かってます」
その後、ドロシーは特に暴れる事もなく、大人しく閉会式に参加してくれた。行方不明であるうちの総長以外の両出場メンバー、その全員が舞台へと集まり、諸々の訓示や学院長の挨拶を経て、対抗戦は終了する。ちなみに舞台を覆っていた特殊な結界は、ベルが能力を使って耐久性の色を薄め、見事な蹴りと共に破壊してくれました、まる。
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「今日の対抗戦は大成功だった。それもこれも、試合に全力を尽くしてくれた皆のお蔭だよ。改めて礼を言わせてくれ、本当にありがとう」
ルミエスト学院長のアートが、どう見ても女性にしか見えない綺麗な笑顔を浮かべながら、そんな台詞を言い出した。俺は周りの皆と顔を合わせる。いや、そうじゃないだろ、と。
今この場、アートによって案内された客室には、閉会式の面子をそのまま移動させて来たようなメンバーが集合している。リオン達はもちろんの事、冒険者ギルドから派遣されたS級冒険者も揃い踏みなのだ。クロメルも無事だったようで、今はサイズが合わないソファの上に、ちょこんと座っているところだ。うむ、今日も実にプリティー無事で何より襲撃した犯人は殺す……!
……ん? そういえば、相変わらずシン総長の姿が見えないな。
「アート学院長、何で俺達冒険者までここに招待してくれたんです? 対抗戦の反省会をするのなら、別に俺達ギルド側は不要なのでは?」
「まあまあ、そう結論を焦らないでくれ、ケルヴィン君。実を言うとね、礼を述べると同時に、君達冒険者ギルドに謝罪しなくてはならない事があるんだ。それは―――」
「―――最後の試合でケルヴィンと戦った、そこの小娘の事かい?」
「ご名答、その通りだ。流石は『女豹』、なかなか鋭いね」
「ハッ、急にメンバーが変更になったんだ。おかしく思わない方がどうかしてるよ」
ソファの背もたれに深々と寄りかかりながら、バッケが吐き捨てるようにそう言い放つ。まあ、そこは俺達の共通認識だよな。俺としては嬉しい誤算だったから、むしろこっちから礼を言いたいくらいだけど。
「む、むう……」
でもバッケ、話し合い相手はアートの筈なのに、視線は何で正面に座る男子生徒に向かっているんだ? 向こうも何だか気まずそうだから、そういう邪な視線を向けるのは止めとけって。
「ああ、表向きは私からのサプライズであると言ったが、実際はそうではない。最初からドロシー君が対抗戦に出る予定なんてものはなかったんだ。彼女が現れたと同時に展開された紫色の結界についても、学園は一切関与していない。これは言い訳ではなく、事実を共有してもらう為の情報提供だ。その辺は勘違いしないでほしいかな」
「んんー? つまりぃ、彼女が何者であるのかぁ。そしてぇ、何が目的だったのかを、協力関係にある冒険者ギルドと共に明らかにしたいとぉ、そう言いたい訳かしらん?」
「そう解釈してくれて構わないよ」
「ドロシー以外にも、学園内で怪しい行動をしていた奴がいたみたいですからね。確かに仲間は多い方が良い。というか、ドロシー以外の奴らもそんなに強かったんですか、学院長?」
「うん、何でそんなに嬉しそうな顔をしているのかな、ケルヴィン君? 教育によろしくない態度を取るのは、バッケ君だけでもう十分だよ?」
「!?」
バ、バッケと同列にされた、だと……!?
「一転してしかめっ面になったわね。うけるわ」
「前々から思ってたけど~、S級冒険者って変人ばっかじゃん?」
「ベル君、ラミ君、客人に対してその言い方はないだろう? それにその理屈だと、私まで変人になってしまうぞ?」
「「「「………」」」」
一同、怪訝な表情と共に一斉に沈黙。抜かすなぁ、この金ぴかな服装の変人。
「冗談はさて置き、だ。現時点での調査でも、想像以上に根深い問題がある事が分かっていてね、正直学園だけでは対処できそうにないんだ」
「なるほど、取り敢えず事情は把握しました。それで、捕まえた他の奴らはどこに? ドロシーはここにいますが……」
ちなみにであるが、ドロシーはリオンの隣で大人しく座っている。俺が施した鷲掴む風凪でもう悪さはできないし、それ以前にする気も感じられないので、縄で縛ったりなどは特にしていない。外見通り実に大人しいものだ。
「ついでにシン総長もいないわねん?」
「ああ、何を隠そう対抗戦の最中、彼女が主軸となって学園に潜むネズミ達を退治して回っていたものでね。そろそろ来ると思うのだが―――」
―――コンコン!
「失礼しまーす、教官のアーチェです! 冒険者ギルドのシンジール様にパウル様、そのお連れの方々がお見えになりました!」
っと、噂をすれば早速か。アートが部屋へ入るよう指示すると、勢いよく扉が開かれる。次いで眼鏡をかけた女性が、これまた勢いよく入室。どうやら彼女は見た目以上にアクティブな性格であるらしい。うーむ、体も相当に鍛えているな。危うくヨダレが垂れるところだった、危ない危ない。




