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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー1 学園都市編
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第74話 反逆の時

「それではステージ上の皆様! ベルさんとスズさん以外は控室へ移動をお願いします!」


 ランのアナウンスに従い出場メンバーはステージを降り、出入り口である西門東門へと戻って行く。


「ベルちゃん、頑張って!」

「頑張ってくださ~い」

「言われなくとも、期待されている程度には働くわよ」

「勝ち負けに拘らず、良い勝負をするでござるよ」

「勝ち負けには拘るわよ」

「スズ、ベルは強敵だ。最初から出し惜しみはなしで行け」

「承知です、マスター・ケルヴィン!」

「前々から思っていだんだけど、マスター呼びってどうなんだい?」

「……あまり触れないで頂けると嬉しい」

「ガハハ! スズよ、お前の内なる筋肉を見せてやれい! 実は凄いとなぁ!」

「オ、オッドラッドさん!?」


 ステージを去る際、仲間達は思い思いの激励を残していった。全てが真っ当な激励なのかは怪しいところだが、士気を高めようと努力しているという点では同じだ。恐らく、多分、もしかしたら同じなのである。


「第一試合がいよいよ開始――― されるのですが、その前に! ミルキー教官、一つ心配事があります!」

「はい、何でしょうか?」

「毎年名高い冒険者の方々を迎え、対抗戦に使用されてきた実績あるこの施設ですが…… 果たして、S級冒険者レベルの戦いにも耐えられるのでしょうか?」


 ランが尤も至極な疑問を呈する。そしてこの瞬間、会場にて「あ、そういえば大丈夫なの?」といった、疑問の声がざわめいた。


「当然の疑問ですね。ですが、ご安心ください。これまでの準備期間、我々ルミエストはありとあらゆる対策を講じて来ました。まずは戦いの場所となるあの円形舞台です。これまで対抗戦で使用してきた従来の舞台は、A級冒険者の戦いにも耐えられる強度を誇っていました。しかしながら、東大陸の獣王祭やS級昇格式での戦闘を鑑みると、それでは不十分だと言わざるを得ません。そこで、我々はある人物に協力を要請したのです」

「ある人物、ですか? それは一体……?」

「舞台職人界の風雲児として名高い、あのシーザー氏です」


 シーザー氏? あれ、雲行き怪しくない? どこかの死神一行は、揃ってそう思った。


「おおっ! 舞台職人界の神童、次に麒麟児と謳われ、今では業界の最先端を駆け続けているという、あのシーザー氏ッ!? な、なるほど、それは確かに強力な助っ人です! ……しかし、同氏が手掛けた作品は、先ほど例に出された獣王祭等々で予備の予備まで破壊されたと、そう記録されていた筈では?」

「よく勉強されていますね、ランルルさん。その通りです。シーザー氏の卓越した技術を以ってしても、S級の戦いに耐えられる舞台を作る事は困難を極める…… 我々運営もその点は承知しています。そしてその打開策として、ルミエストの魔導研究所とシーザー氏の舞台工房が、協同で舞台を手掛ける事にしたのです!」

「おおおっ!? それは何か凄そう! 技術と魔法の競演、コラボレーションですか!?」

「内容は機密ですので詳しくは話せませんが、獣王祭の舞台と比較しても、強度は三倍以上に増しているとお考えください」

「「「おおっ……!」」」


 あまりの強度の高さに、観客席からは驚きの声が漏れ出す。関係者席で弟子達と共に舞台を見守る同氏も、大変に満足気だ。


「更に舞台周りに施されている障壁についても、大幅な見直しがなされました」

「戦闘の余波から観客の皆様を護る為のものですね。これまでは魔法を得意とする在校生が障壁を作っていましたが、そこも変更されていると?」

「ええ。障壁を作るのはルミエストの教官、そして冒険者ギルドが派遣したA級以上の魔導師に、それも従来の倍の人数で当たる事となりました。これにより、障壁についても三倍以上の強度が確保されています。度を越した超火力で障壁自体を直接攻撃しない限りは、S級の戦いでも安全と言えるでしょう」

「なるほどなるほど、それなら安心ですね!」

「あまり過信はできませんけどね。という訳で、試合に臨む際は障壁を破壊するような行為はしないようお願いします。した瞬間に反則に処しますので、どうかご容赦を」

「出場者の皆さん、絶対に駄目ですよ! 後が怖いですよッ!」


 ランがそう熱弁する一方、舞台上ではスズとベルが試合前の挨拶をしていた。


「ベ、ベルさん、よろしくお願いしますですね……!」

「……貴女、まさか緊張しているの? クロメルみたいな口調になっているわよ?」

「そそそ、そんな事ないですよ!? ええ、一切合切ないです!」


 スズは緊張していないと言っているが、足の震えといい大量の滝汗といい、その様子は明らかに極度の緊張の中にあるものだった。さっきまでの満足そうな表情はどこに行ったのかと、思わず溜息が出てしまうベル。


(多少なりにできそうだと思ったのだけれど、気のせいだったかしらね……)


 獣王祭とは違い、この対抗戦に装備の制限はない。その上でベルは、自身にとって最も強力な武器である脚甲、黒銀の魔人クラレントを身につけていた。その理由は単純明快、ケルヴィンやS級冒険者と当たった際に、徹底的に蹴り倒す為である。しかし、組み合わせによってベルの相手となったのは、そのどちらでもなくスズという少女だった。ケルヴィンが一から鍛え直したとリオンからは聞いていたが、この緊張具合といい恐らくは格下と推測。このまま黒銀の魔人クラレントで戦って良いものだろうかと悩むも、だからといって今更代えの装備なんてものはない。


(手加減とか苦手なのよね…… ま、なるようにしかならないか。それよりも、今気になるのは―――)


 ベルは黒銀の魔人クラレントの爪先で舞台をトントン叩きながら、とある事を考えていた。


「……なら良いのだけれど。それよりも、貴女のその格好は何? その衣装、店で売っているようなものではない筈よね? まさか、セラお姉様とお揃いとでも言いたい訳?」

「へ?」


 とある事とはスズの服装、つまりはチャイナ服であった。先ほどの開会式でスズの姿を目にしてからというもの、ベルは彼女がなぜその姿をしているのかで、頭が一杯だったのだ。実の妹である自分を差し置いて、何勝手にペアルック決め込んでんだ、おめぇ? みたいな心境であるらしい。妹の心とは複雑なものである。


「こ、この格好ですか? これは私の大事な一張羅で―――」

「―――そう。そんなに大事な服を、今この場で着てまで私に見せつけたかった。そういう事ね?」

「ええっ!? どういう事ですかっ!?」

「フン、もうこれ以上言葉は不要ね。やっぱり、手加減なんてする必要もないみたい」


 ベルが爪先で舞台を叩く音と響きが、段々と大きなものへと移り変わっていく。


「ああああの、私もしかして何か変な事を言ってしまいましたか?」

「………」

「あ、あのー……?」


 不機嫌になった原因を探ろうにも、ベルは本当にこれ以上の会話をする気がないようだ。スズはただただ困惑である。


「おっと? 内容は聞こえませんが、舞台上では早くも舌戦が繰り広げられていたようですね。何やら凄まじい圧のようなものが感じられます! これは早く試合を開始しろと、私に訴えかけているかのよう! ミルキー教官、二人がああ言っている事ですし!」

「そうですね、前口上が長くなってしまいました。そろそろ始めましょうか」

「えっ!? こ、この状態のまま始めてしまうんですか!? 色々と誤解が―――」

「それでは、対抗戦第一試合! 試合――― 開始です!」


 スズの訴えが届く事はなく、無情にも試合開始の合図がなされてしまう。ランのアナウンスと共に、ドォーンと空砲が会場に鳴り響いた。そして、更に同時にベルが一気に距離を詰め、凶器を纏ったその美脚を、スズの脳天へと振るう。


 ―――ズゥン!


 神速の一撃。殆どの観客の目には、いつの間にか放たれていたベルの攻撃が、無防備なスズの頭部へと直撃し、頭をかち割ったかのように見えた。 ……しかし。


「……勘を信じて、思い直して正解だったわ。それに、やっぱり気に食わないわね。何猫被ってんのよ、貴女?」

「あれ? バレてました? いやあ、強いて言うなら、アンジェさんの下でもかなりしごかれたから、でしょうか? 猫っぽいところが移ったのかもしれません」


 しかし、それは残像だった。既に本物のスズはベルの背後へと回っており――― そして、死神の如く笑っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] え?会場手がけたのシーザーさん?あぁそう言うことですか(察し)(ニッコリ)
[一言] やっぱりアンジェタイプかよ!! あと、ベルさんはもう既に人のこと言えないくらいのシスコンレベルに達していると思うの…
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