第70話 続・出場者達
リオンらがルミエストの対抗戦出場者に選ばれた日より、少し時は遡る。迷宮国パブにある冒険者ギルド本部、その最上階。相変わらず乱雑に物が散らかった状態にある総長室では、とある重要な話し合いが行われていた。この場に集うは、いずれも名実ともに最強の冒険者とされる者達である。その内訳はアートの話にあったS級冒険者の四名と、『死神』ケルヴィンの下で何度も死にそうになりながら鍛錬し、以前とは見違えるほどに急成長したA級冒険者のスズ、パウル、シンジール、オッドラッドの四名となっている。広くはあるが足場のないこの部屋にて、ある者はそのまま仁王立ちで、ある者は素直にソファに座り、またある物は用途不明なマジックアイテムに腰掛けるなど、それぞれが思い思いの体勢で話に聞き入っていた。
「―――という訳で、今日集まったこの面子から対抗戦メンバーを選出しようと思う。前々から連絡していたし、S級の皆は承知してくれるよね? してくれないと私、総長権限で降格させちゃうかも……」
「おい、てめぇ『不羈』の。何勝手な事を言ってくれてんだい? そんな回りくどい事をしなくたって、アタシはアンタが嫌と言おうが参加させてもらうよ! 今の今までA級にしか回って来なかった、美味しい美味しい仕事だ。ああ、生娘の如くときめいちまうよ」
「あらん? バッケちゃん、青田刈りはよくないわん。彼らは今、青春という名の黄金時間を満喫しているのぉ。私達のような部外者が、変にしゃしゃり出て良い訳ないのぉ。手を出して良いのはぁ、責任ある大人になった時・だ・け(はぁと)。それ以前に当たり前だけどぉ、無理矢理はよくないわん」
「俺も予定通り参加させてもらうよ。もちろん、こいつらみたいに不純な理由で参加する訳じゃないぞ? そこに強い奴との戦いがあるから、それだけだ」
「あ? おい戦闘狂、何格好つけて言ってんだい? むしろアタシ達の中で、アンタが一番不純だろうが。少なくとも、アタシの夫は一人しかいないぞ」
「え? いや、それは……」
「そうねぇ、流石にあれだけの異性と関係を持つのは、私もどうかと思うわぁ。というか、よく体が持つわねぇ、ケルヴィンちゃん? 戦いだけじゃなく、あっちの方も凄いのぉ? あら、やだん! 私、乙女らしからぬ台詞をぉぉぉ!」
「ハッハッハ、流石は私が選んだ精鋭達だ。もうこんなに仲が良くなってるなんてね!」
「どこが!?」
ケルヴィン、渾身の叫び。ケルヴィンも全然人の事は言えないが、S級冒険者はどこもかしこもフリーダムなのである。
「で? アタシらが出るのは当然として、残る二枠はこの子らの中から選ぶのかい? 死神が一から鍛え直したとか聞いたが…… アタシらに付いて来られるのか、ちょいと不安だねぇ。本当に大丈夫なのかい?」
「ああ、その点は安心してくれ。この数ヵ月間、四人の持ち味を最大限に活かせるように、俺と仲間達が徹底的に鍛え上げたんだ。及第点に届く程度には強くなったと、俺が保証しよう。そこにいるグロスティーナも、途中から手伝ってくれたしな」
「うふっ! ケルヴィンちゃんとセラちゃんの頼みともなれば、断る訳にはいかなかったものぉ。そ・れ・にぃ! 彼、ゴルディアーナお姉様に憧れてるって言うじゃなぁ~い!? 妹弟子から姉弟子にクラスチェンジする興奮、同志が増える喜びに震えながら、もう一杯一杯教えちゃったの! 私、太鼓判を押しちゃうわ! 彼、なかなかのセンスよぉ!」
「そ、そうかい。そうなのかい……?」
「お、おう。セラと違って教え方が丁寧だったから、ブルジョワーナが付いてから急成長したのは確かだ」
そんなS級でも引く時はある。興奮さめやらぬのか、その屈強なる肉体をクネクネさせるブルジョワーナに対し、バッケとケルヴィンは一歩距離を置いた。
「うんむ! 俺の名はオッドラッド! ご紹介に与った通り、ブルジョワーナ殿の教えによって凄まじい力を手に入れたぁ! 俺に任せておけば万事問題なし! という訳で、俺を選ばない手はないぞぉ!?」
「あ、オッドラッドてめぇ! 何勝手に自分を売り込んでいやがんだ!? おい、マスターをはじめとしたS級共! こんな奴を選ぶくらいなら、このパウル様を選びやがれ! 大体こんな筋肉の塊、似たようなのがもうメンバーにいんだから、キャラ被りだろ!」
「おっと、キャラ被り云々を言うのであれば、私の存在は唯一無二だと思うけどね? 我らが対抗戦メンバーの女性陣が見目麗しいのは、まあ言うまでもない事だ。であるからして、男性陣に私を加える事でバランスを整えては如何かな? ほら、ルミエストからは『縁無』のアート氏が出るかもだし、やはりあの容姿に対抗できるのは、このシンジールくらいかと―――」
「―――性別や容姿など、全く関係ありません! この選抜に真に必須である事は、マスター・ケルヴィンを納得させるほどの戦闘力です! 僭越ながらこのスズ、この四名の中で最もそのポイントを押さえていると自負しております! 是非、是非ともこのスズに素晴らしき機会をッ!」
四人は我こそはと、各々のセールスポイントを述べていく。その勢いは凄まじく、先ほどまで好き放題言っていたS級冒険者達にも負けないほどだった。
「あー…… まあ、確かに癖の強さは間違いないようだねぇ」
「でもぉ、一体全体どうやって選ぶ気ぃ? こんなところでこの子達を、競い合わせる訳にもいかないでしょん?」
「そこなんだよなぁ。何だかんだでこいつら、かなり実力が拮抗するようになっちゃったし…… シン総長、どうする?」
「そうだね…… ジャンケンでもして決めよっか? 運も実力のうちって言うしね!」
そんなシンの一言が発端となり、「よっしゃー!」という威勢の良い声と共に始まり出す大ジャンケン大会。しかし、どういう訳か相子が何度も続き、一向に決着がつく様子はない。
「「「「っしょ! っしょ! 相子でっしょ! っしょっしょっしょ!」」」」
「……終わらないねぇ」
「あまりに終わる気配がないから、その間に俺達分のオーダーを先に決めちまったな」
「尋常でない動体視力と反応速度ぉ、そして四人でという読み合い先読みのこの状況がぁ、場の硬直化を招いているわねぇ。これ、多分ずっと終わらないわよん? つぼみ達の汗ほとばしるこの戦いを延々と観戦するの、私は全然飽きないけどねぇ!」
「それもなかなか愉快だけど、時間は有限だからね。仕方ない、ここは昔ながらの方法で決めようとしようか。恨みっこなしの、このくじ引きで!」
シンが四人にグーの形で右手を差し出す。そこには四本の紐が握られていた。
「この中に二本だけ、先端が赤色の紐が入ってる。その紐を引いた者が見事代表入りって事で」
「マジで古典的な選び方だな」
「まあ、これなら絶対に決まるから良いんじゃないかしらん? 完全に運だしねん」
「『不羈』がイカサマをしていなければの話だけどねぇ」
「そんな事しないって。何なら、バッケ達が先にこの中身を確認するかい? 本当に何の種も仕掛けもないって。くふふ!」
そう言う割には不敵な笑みを浮かべるシンである。念の為ケルヴィン達がこのクジを確認するも、特に不審な点は見つからなかった。が、それでも何か怪しいという事で、クジはグロスティーナが持ち、それを四人が引くという形式に落ち着いたようだ。
「恨みっこなしだぞ? 準備は良いか?」
「俺の筋肉が言っている。当たりはこれだとぉ……!」
「フッ、何を言っているんだか」
「私はいつでもオーケーです。ド、ドキドキなんてしてないです!」
「「「「せーのっ……!」」」」
こうして、冒険者ギルド側のメンバーも決定するのであった。




