第56話 全員集合&開示
ちょうどお昼時になった為なのか、食堂という名の高級レストランに少しずつ生徒達の姿が見られるようになってきた。しかし、リオン達にとっては眼前にあるドロシーの成績の方が気になるようで、そこから目を離す事ができない様子だ。
「こ、こんな偶然ってあるんだね。これ、宝くじが当たるよりも確率低いんじゃないかな?」
「難しい事はよく分からないけど、すっごく難しいってのは私にも分かるじゃん。シーちゃん、目立たないように裏工作とかしてない?」
「そ、そんな大層な事、私にはできませんよ……」
「うーん、意図的に操作するにしても、こんなあからさまな成績にしたら逆に目立っちゃうよね。特にメリットがないし、シーちゃんが何かした訳ではないんじゃないかな?」
「あー、言われてみれば。シーちゃん、GM! 私とした事が、変に疑っちゃった!」
「わ、私こそ、こんな変な成績を取ってしまって申し訳ないと言いますか―――」
「―――成績がぁぜぇあぜぇ……! な、何だってぇぜぇ……! ……ハニー達~?」
「あ、シャル君」
不意に話に割って入って来たのは、なぜか息切れ気味なシャルルであった。ついさっきまで全力疾走を続けていたのか、肩で息をしてしまっている。
「確か同じ寮の男子だっけ? 私ラミ、よろー」
「ドロシーです。その、よ、よろしくお願いします」
「よろじぐぜぇ……!」
「えと、シャル君は何でそんなに疲れているの?」
「ぢょ、ぢょっど、隣の寮にまで挨拶を…… でも迷子になっで、あっぢやごっぢに、ふぅ、ふぅ…… ふぅ、よし、落ち着いてきた。それで、ええと…… 成績の見せ合いっこをしているんだって? 子猫達~、是非とも僕もその輪に入れておくれよ~」
「おっ、やけに自信満々じゃん。どれどれ、学生証を出したまえ~」
「もちろんさ~」
ラミの指示の下、シャルルが学生証に魔力を注入する。浮かび上がる成績に、皆の視線が集まるのだが―――
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氏名:シャルル・バッカニア
入学試験成績(合格者100名中)
・筆記試験 44位
・運動適性 72位
・表現能力 76位
・面接試験 100位
・総合点数 88位
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―――何ともコメントし辛い順位であった。だが、シャルルはどこか誇らし気だ。
「どうだい、僕の成績は? 学力的なところはそこそこ良い線いっているだろう?」
「そ、そうですね、私よりも上です」
「フッ、だろう?」
「いやいや、それよりもこれ、面接試験の順位どうしたん? 筆記試験で名前だけ書いて寝た、私みたいな順位になってんじゃん!」
「雷ちゃん!?」
それはそれで問題発言をするラミ。
「それが僕にもよく分からないんだよね。僕なりにアピールはしたつもりだし、ちゃんと試験官の女性を口説いたつもりなんだけど」
「「「………」」」
聞いて納得の順位であった。しかし、ある意味で本当に大物なのかもしれない。
「あれ? そこにいらっしゃるのはリオンさんではありませんか?」
一周回ってシャルルに対し感心していると、不意に聞き覚えのある可愛らしい声が耳に入った。
「あ、クロメル! 引っ越しが終わったんだねっと?」
リオンが声の方へと振り返ると、そこには確かに制服姿のクロメルが居た。居たのだが、それだけでなく彼女の隣には、やたらとインパクトのある大男の姿も。
「やあやあ、お初にお目にかかります。拙者は―――」
まあ彼の正体はクロメルと同じ寮生であるグラハムな訳だが、内容が同じである為ここでの挨拶は省略する。話を聞くに、グラハムはセルバ寮のマスコットと化したクロメルを、苛烈極まる女子生徒達の取り合いから救出してくれたんだそうだ。寮長のミルキーが現れる数秒前のタイミングであった為、かなりギリギリであったようである。その後ちょうど昼食時になったので、この食堂まで案内する事になった、という流れらしい。
「ほう、この子が噂の…… ふ~ん、ま、邪悪な感じはもうしないし、良いんじゃね?」
「へ?」
「ううん、こっちの話~。それよりも、ここに来たからには学生証を提示するしかないっしょ!」
「へ?」
「ふむぅ?」
「あはは、だから雷ちゃん急だってば~」
再度の疑問符からの恒例の儀式、成績見せ合いっこの儀を執り行う事となった二人。そして言われるがままに魔力を注入。
「フッ、どれどれ? どの程度の成績なのか、僕が見定めてあげようじゃないか。筆記試験44位の、この僕がねっ!」
ちなみにシャルル、この時にリオンらの成績はまだ確認していない。
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氏名:クロメル・セルシウス
入学試験成績(合格者100名中)
・筆記試験 43位
・運動適性 5位
・表現能力 28位
・面接試験 4位
・総合点数 8位
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「……へあ?」
よって、こんな変な声が出てしまうのも、まあ仕方のない事であった。
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氏名:グラハム・ナカトミウジ
入学試験成績(合格者100名中)
・筆記試験 2位
・運動適性 4位
・表現能力 5位
・面接試験 7位
・総合点数 2位
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「………」
次いでの沈黙、いや、撃沈と言うべきだろうか。遂にシャルルの口と思考が止まってしまった。
「わあ、クロメル10位以内に入れたね!」
「わっ、リオンさんもですか? 良かった、これでお揃いさんで目標達成です!」
そんなシャルルはさて置き、どうやらリオンとクロメルは総合成績の10位以内を狙っていたらしい。手を握ったまま二人揃って飛び跳ねている。
「おおっ!? グっち凄くね!? 全体的にこう…… 凄くね!?」
「グッちとは奇想天外なあだ名ですな。しかし、そこまで持ち上げられると拙者、顔から火が出そうでござる」
「す、凄いってものじゃないですよ、この成績……! え、でも、こんなに凄いグラハムさんで2位? あ、そっか、首席挨拶で見た、あの綺麗な方が…… でもだとしたら、首席さんって一体どんな成績なんでしょうか?」
「呼んだかしら?」
「へあっ!?」
本日はやたらと驚き声の多い日である。ドロシーが声の方へと振り向くと――― やはりと言うべきか、そこにはベルが立っていた。そして彼女を追って来たのか、遅れて食堂にシエロ寮の生徒と思われる者達が複数人入って来る。
「べ、ベル様、急に消えないでください! 私達が見失ってしまいます!」
少し前のシャルルがそうであったように、彼らは汗がダラダラ息も絶え絶えだ。
「消えてないわよ、ちょっと小走りで移動しただけじゃないの。というか、勧誘は他でやってくれない? 私、倶楽部に入るつもりなんて一切ないから」
「で、ですがっ!」
「えと、ベルちゃん?」
「ああ、リオンにクロメル。こんなところで会うなんて奇遇ね、今から昼食? ご一緒しても良いかしら?」
「いや、さっきの様付けってどうしてそんな―――」
「―――ベルさん、小走りでも廊下を走っちゃめっ! です! セラさんも廊下は走りません! 良心が痛むらしいので!」
「ッ!? セ、セラお姉様が……!? ッチ、分かったわよ。できるだけ気を付けるわ」
「う、うん、それも大事な事なんだけどさ、それよりも後ろの人達は一体―――」
「―――さあさあ、学生証を出したまえ! 新たなる挑戦者、ベルっちよ!」
「は?」
「……うん、リオンちゃんも成績を教えてくれると嬉しいなって」
リオン、流れに逆らえず、疑問の解明は後回しに。
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氏名:ベル・バアル
入学試験成績(合格者100名中)
・筆記試験 1位
・運動適性 2位
・表現能力 2位
・面接試験 2位
・総合点数 1位
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「がくっ……」
「シャル君!?」
シャルルは天に召された。
『黒の召喚士』11巻、本日発売です。
よろしくお願い致しますー!