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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー1 学園都市編
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第44話 我流

 俺の掛け声と共に動き出す二人。開始線からの距離はやや遠く、肉弾戦に持ち込む為には距離を詰めなければならない。が、手合わせの結果は思いの外早くに出た。


「―――勝負あり。ここまで力の差があったとはな」

「ありがとうございました。 ……ハァ~~~! か、勝てた……! ケルヴィン様の前で、良いところを見せられた……!」

「……マジか」

「オ、オッドラッドが一撃とは、とんだレディの登場だね」


 手合わせの勝者はスズ、開始数秒での勝利であった。但し、オッドラッドも何もできなかった訳ではない。内容を思い返すとこんな感じ。


蜂刺針ほうししん!』


 模擬戦が開始されるや否や、オッドラッドはその場で右腕の人差し指を力一杯に突き刺し、スズへとそれを向けた。開始位置からではまず届かないであろう突き刺し、しかしオッドラッドの狙いは直接攻撃などではなく、意外な事に遠距離からの攻撃だった。異様に発達した筋力によって生じるは、不可視である空気の塊。オッドラッドはそれを、正面へと駆け出したスズへと放つ。


 やたらと筋肉を強調していたというのに、初手に使った技はなかなかにテクニカル。これには良い意味で俺も驚かされた。しかしこの技、どこかで見覚えが。そんな思考をしているうちにも、空気弾はスズと衝突しそうだ。


やなぎ


 衝突する間際、スズの姿が一瞬ぶれた・・・。オッドラッドの空気弾はそんなスズを通り抜け、彼女に何の衝撃を与える事もなく、そのまま過ぎ去ってしまう。


『ぬうっ!?』


 躱す、或いは弾き飛ばされる。予想していたとしても、オッドラッドの考えはそんなところだったのだろう。何事もなかったかのように迫り来るスズに対し、オッドラッドは驚きの表情を作っていた。ちなみに空気弾は背後の壁とぶつかり、それなりの衝突音をしっかりと鳴らしている。威力が伴っていない訳ではないようだ。


 またその一方で、スズの前進速度はかなり速い。オッドラッドの初手が不発となった時点で、二人は互いの拳が届く間合いに入っていた。


『ならばこれだぁ! 怒鬼烈滅拳どきれつめっけん!』

『お、おい、それはやり過ぎだよ、オッドラッド!』


 観戦席から立ち上がり、そう声を上げるシンジール。となると、この技はオッドラッドの必殺技って事だ。だが、オッドラッドは止まらない。これまたどこかで聞いた事があったような気がする技名の、オッドラッドの拳によるラッシュ攻撃が開始された。単発だけでも十分に強力な打撃を、怒涛の勢いで繰り出し続けている。先の攻撃がスズに通じなかったのを見て、彼女であれば遠慮はいらないと判断したらしい。そして、その判断は正しかった。


まどか


 降り注ごうとされていた猛撃を、スズは手で円を描くように超高速で動かし、その全てを外へと弾いたのだ。見るからに武の技であるそれを間近で目撃し、オッドラッドの顔が引きつる。スズは今や、オッドラッドの眼前だ。


あずま


 天から地に落とされるようにして、スズの踵落としがオッドラッドの頭部へと見事に決まる。動作の大きい筈の攻撃だというのに、その攻撃速度はオッドラッドの連続技よりも数段素早い。俺が勝負ありの掛け声を言い放つ頃には、オッドラッドの顔面は深々と床に埋まる事態に――― というのが、この腕試しの一連の流れだ。


 終わってみれば当初の予想通り、スズの圧勝。しかし、この腕試しで得た収穫は非常に大きい。ここまで圧倒されては、オッドラッドも今後文句は言えなくなるだろうし、彼の戦闘スタイルの目指す先も見えた。敗北したとはいえ、オッドラッドはオッドラッドで将来性のある力を持っている。


 そして見事勝利してみせてくれたスズは、完全に今回のダークホース的存在になった。スズのステータスは『隠蔽』スキルで隠しているのか、その能力値を俺の『鑑定眼』で見る事はできない。この時点で若干ワクワクしていた訳であるが、蓋を開けてみても満足するものだったのだ。現状、候補者達の中で頭一つ、いや、それ以上の実力を有していると断言できる。扱う技も興味深いものばかりだ。


「オッドラッド、大丈夫か?」


 顔面が埋まっているオッドラッドを起き上がらせ、魔法による回復を施す。どうやら意識はあるようだ。


「……パワーで負けたとは思わねぇ。いや、パワーだけなら、俺が圧倒的だった筈だ。だが同時に、俺の筋肉を凌駕する何かを感じた。へ、へへっ、筋肉のまるでねぇゴルディアーナと戦ったみたいだったぜ。完敗だぁ!」


 潔く敗北を認めるオッドラッド。筋肉言語な台詞ではあるが、一応スズを褒め称えているらしい。


「オ、オッドラッドさんの強さも凄かったです。あの、もしかしてなのですが、『ゴルディア』を習得されているのですか?」

「ああ、それは俺も気になった。さっきお前が使った技、どれもゴルディアーナが使っていたものに似ていたけど、オッドラッドはゴルディアの門下生だったのか?」


 技名に関しては全然違うし、それ以前のどこかで見た覚えがあったような気もするけど。


「フッ、そうだと良かったんだがなぁ! 俺がゴルディアの門を叩いた時には、もう門下生の募集は終わっちまってたようでよ! 仕方ねぇから、我流でゴルディアの技を真似ていたって訳だ! ま、ガワだけ似た模倣品よ! ゴルディアの奥義たるオーラなんて、今のところ纏える気配もねぇしなぁ!」

「なるほど、模倣か。オッドラッド、お前の指導方針もなんとか決まりそうだよ」

「なぬ?」


 餅は餅屋、ここは近くにいる専門家を呼ぶとしよう。


「次にスズ。君も見た事のない技を使っていたようだけど、アレは我流で会得したのか? オッドラッドの攻撃をすり抜けたり、一瞬で面での攻撃を全て弾いたり――― ああ、そうだ。最後の踵落としも尋常でない速さだったっけ」

「そう、そうなんだよ! 一挙手一投足がまるで見えなかったぞ! あの不可思議な術は何だったんだ!? もしかして魔法との併用か!?」

「いや、魔力の流れは一切感じられなかったから、それはないだろう。ほんの僅かな時間だけ、動作の速度を最高速に達しさせているような感じだった。虎狼流の居合をその身で実践してるって言うのかな? 上手く言い表せられないが、俺はそんな風に感じた」

「あわわわわ、わ、私、ケルヴィン様に分析されちゃってます……!」

「あの、スズさん?」


 スズは両手を口元に当て、これまた全身で凄まじい振動を引き起こしている。これ、振動速度が速過ぎて、軽く左右に分身作ってない?


「す、すみません、感極まって取り乱してしまいました。えっと、大よそケルヴィン様の仰る通りです。忍という特殊な職業に就く父の技と、母の持つ異国の武術を合わせ、私なりに改良を施したものでして。我流のような、元があるので我流ではないような……」

「ほう、それは興味深いものだな! 忍というものも初めて聞いた! それに異国というとトラージの武術ではないようだが、どこの国のものなのだ!?」

「そ、それが私も知らない国でして。母曰く、とてもとても遠い国なんだそうです。東大陸でも西大陸でもないというので、もしかしたら島国だったのかもしれません。あ、ちなみにこの服、母の国の民族衣装なんだそうです。母から貰った一張羅で、こういった特別な日にしか着ないのですが」

「ほ~、珍しいものだなぁ!」

「………」


 オッドラッドが感心して深く頷きまくっている。が、一方の俺は少し思うところがあった。スズの両親、どちらも凄い出自の可能性ががががが。いかん、興奮が心の声にまで影響を及ぼし始めている。


「スズ、ちなみにお母さんの名前は何ていうんだ?」

「母ですか?」

「ああ、俺も色々な国を回って来たものだからさ、もしかしたら、名前で出身地が分かるかもしれないぞ」

「な、なるほど……! えっと、リンリンといいます。とっても珍しい名前なんですが、如何でしょうか?」

「……すまん、この世界ではちょっと聞いた事ないかも」

「いえいえ、お気になさらず! 恐らく冒険者ギルドも把握していない、とっても遠くの小さな孤島とかですから! 本っ当にお気になさらず」


 いや~、すっごく遠くってのは合ってるけど、たぶん孤島ではないかな~。

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― 新着の感想 ―
[一言] とんでもねぇハイブリッドな逸材 忍びの体術と中国拳法の組み合わせとかいう殺意マシマシ感よ
[良い点] 『鈴』なんて日本人っぽい名前だなーと思ってたらまさかの日本人忍者と中国人拳法家のハーフ。母親の名前が漢字で書くと鈴々で、鈴の名前はそこから取ったんですかね。
[一言] こりゃ、両親が転移者の臭いがしますね。 日本人忍と中国人拳法家かな? 魔力を使わずここまで極めるかぁ。
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