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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー1 学園都市編
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第37話 シンジール

 私の名はシンジール。パブ三大冒険者の一角を担う、気高くも美しいA級冒険者である。男でありながらも、そこいらの女性よりも数段美しい私の顔は、ありとあらゆる生物を魅了する。この顔のお蔭で幾度となく勘違いさせてしまっているのだが、別に私は王族貴族などの高貴な生まれなどではない。むしろスラムに分類されるであろう貧困街の出身であり、幼い頃に親に捨てられ奴隷としての人生を歩んで来た、悲しき経歴を持つ薄幸の美男子だった。


 しかし、私は奴隷で人生を終える悲劇の美男子などではない。己の価値を正しく理解し、チャンスを決して逃さない、できる美男子なのだ。機会を得て知り合ったマダムを魅了した私は、自らを買い戻す為の金を融通してもらう事で、奴隷の立場から解放された。その為に色々とプライドを捨てるようなもにょもにょも発生したが、そこは恩を返す為に仕方のない事だったので、記憶を封印する事で何とか自我を保つ事に成功した。そう、できる美男子はやる時はやり、消すべき記憶は消せるもの。私はそれを有言実行したに過ぎないのだ。


 返すべき恩を返し終わった私は、悲しき過去を振り返らない為にも、故郷を捨てて新天地へと旅立った。だからこそ、故郷の名は語る必要はない。これ以上余計な恩とトラウマをゴホンゴホン! ―――マダムに迷惑を掛けない為にも、私は裸一貫で旅立つのみだ。それはもう、大急ぎで。ちなみに風に靡く私の長髪が、罪なほどに美しかったのは言わずもがな、である。


 未来輝く新たな国へとやって来た私は、一先ずは慣れ親しんだ野宿にて一日を過ごす。優雅であると共にワイルド、それが私だ。ただ、そんな野性味溢れる私にも悩みは尽きないもので、今後の生活をどうするべきかと満点の星空を眺めながら思い悩んだものだ。何しろ、私は才能に恵まれ過ぎていた。きっと何をしても上手くいくという自信があり、それ故に進むべき道が多かった。一夜、また一夜と眠れぬ夜を過ごしていき、辿り着いた答えが冒険者だった。理由は至極単純、自由気ままにフリーダムに、そんな風のような人生こそ、私には相応しいと結論が出たからだ。生活費がなくなって、直ぐにでも金が必要なくらいに困っていたからでは断じてないぞ。だってほら、ワイルドな私はサバイバルにもきっと詳しいのだから……!


 冒険者という眩いロードを歩み始めた私の生活は、月が変わる毎に様変わりしていった。迷い猫探しや野草の採集に走らされる新人時代とは三日で別れを告げ、週を跨ぐ頃にはD級となり、一人前の冒険者として認められるようになる。こうなれば野宿なんて不毛な営みをする必要は既になくなり、格安の宿が私を出迎えてくれていた。格安とはいえ侮る事なかれ。屋根がある、壁がある、飯が出る。私はそれらの事に甚く感動したものだ。私の感受性豊かな心がそうさせてくれたと言うべきだろうか、フッ。庶民的な生活というものを、ここでは色々と勉強させてもらったものだ。まあ、私の才能は普通のそれを大きく上回っているから、直ぐに次のステップへと跳躍してしまうのだがね。


 冒険者としてのランクが上がれば、否が応でも同業者から注目されてしまうもの。特に私の場合、この美貌が女冒険者達の心を鷲掴みにしてしまう。何と罪作りな男なんだろうか、私は…… しかし、惚れさせてしまった事を、嘆いてばかりはいられない。そうしてしまった事について、私は責任を負う義務があるのだ。という訳で、告白も同様なパーティのお誘いを受けた私は、快くそれを受けるのであった。


「シンジールさん、仲間にしてくれてありがとうございます。これまで一緒にパーティを組んでいた夫が腰を痛めてしまいまして、どうにか私とパーティを組んでくれる方いないか、ちょうど探していたところだったんです。こんなロートルなおばさんと一緒に戦ってくれる人なんて、なかなか見つからないと思っていたので、本当に助かりました。若い人と組む事に夫は反対していましたけど、もうすっかりあの人とも仲良くなったみたいで」

「フッ、酒の入った杯を交わして、私と分かり合えない人間なんていないものでね。喩えそれが男だったとしても、真摯に向き合えばそれは同じ事さ。それに私にはパーティのリーダーとして、レディを護る責任がある。その家族を安心させるのも、また私の務めなのさ」

「まあまあ、私なんかをレディだなんて。口が上手いんですから、ウフフフ」


 一人目の仲間は冒険者として経験の豊富なこちらのレディ、リスペクト夫人だった。まったく、人様の妻の心を奪ってしまうとは、私はつくづく罪深い。冒険者を引退されたご主人とは飲み友となり、可能な限りフォローできる体制作りは構築しておいた。だが、できる美男子に間違いは万が一にも許されない。この夫婦との絆を戒めとして、これ以上ハートを射止めないよう努めなければ。ちなみに、マダムという言葉は私にとって毒でしかないので、私の気分的にも仲間への信頼の証としても、年齢に関係なくレディという言葉を使う事にしている。


「………」

「フッ、レディ・アイスは今日もシャイを決め込んでいるようだ。まあ、それも仕方のない事。何せ、この私が同じパーティの仲間として眼前にいるのだからね! 喜びと緊張、そして再び喜びが巡りに巡り、言葉も出ないとみえる!」

「………(ふるふる)」

「思いっ切り首を横に振ってますねぇ」

「苦し紛れの照れ隠しとは、また何とも可愛らしい事じゃないか。まあリーダーとして、私には全てお見通しなのだがね」

「………(じー)」

「凄いジト目ですねぇ」


 こちらの言葉数の少ない、というかほぼほぼ喋らない少女はレディ・アイス。彼女がギルドの片隅に一人でいたところを、私が迂闊にも近くを通ってしまい、不覚にも惚れさせてしまったのが出会いだった。パーティを組んでそれなりの月日が経つというのに、私の前では決して声を発してくれない、名の通りクールな子だ。しかし、そんな彼女の心情を察し、気配りを徹底するのがリーダーの、更には惚れさせてしまった美男子の役目。何かと使命の多い私であるが、一つとして手を抜くつもりはない。今日も今日とて、彼女の心の声に耳を傾け続ける。それが私というものなのだ。


 とまあ、仲間達との運命的な出会いを果たした私は、その後一年二年と順調に成果を挙げ続け、このパブの地でA級冒険者まで昇りつめる事ができた。リスペクト夫婦とは未だに危ない橋を渡り、レディ・アイスの声を耳にする事も未だにないが、私は才能に容姿に運命に、兎に角全てに恵まれていると言っても、決して過言ではないだろう。


 ……だがしかし、そこからの道のりはそんな私にとっても、大変険しいものだった。A級冒険者に昇格して一年が経過しようとする今に至っても、S級への道が開かれる事はなく、それどころか信じられない速さで昇格していく新人に追い抜かれていくのが現状だ。先日新たにS級への昇格が決定したグロスティーナ・ブルジョワ―ナ、彼でもう三人に追い抜かれた事になる。


 別に追い抜かれる事自体に焦っている訳ではない。ただ、私はこのメンバーでS級に昇格したいのだ。私達の限界がここであるとは、決して認めたくない。女性を相手にこう言うものではないのだが、レディ・リスペクトは今やそれなりの年齢だ。本来であれば引退をして、主人との余生を楽しんでいても何らおかしくはない。全てが私の美貌が原因となって、彼女に無理をさせているとすれば、それはとても心苦しい事だ。どうにか彼女が無理をしないうちに、S級の景色を見せてやる事ができれば良いのだが。


 ちょうどそんな事を考えている時に耳にしたのが、パブの西にて新たなダンジョンが発見されたとの報だった。しかも話を聞くに、その攻略難易度は我々A級冒険者に相応しいものだという。ここでシン総長に私の美貌と活躍と絆等の諸々をアピールする事ができれば、S級への道がぐっと近づくかもしれない。そう、私はチャンスを逃さない美男子。そこに天使の微笑みが転がっているのならば、一目散に駆け付け、誰よりも先にキャッチする。それが私だ!


「よお、色男。こんなところで何をしているんだ?」


 そう意気込んでダンジョンの探索を開始したそんな時、私達の目の前に、やたらと見る目のある男が現れた。

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