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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー1 学園都市編
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第20話 途中成績②

 配布された資料を眺めながら、ホラスの話に耳を傾ける一同。彼が報告を終わると、ボイルがわざと聞こえるように大きく溜息を吐いてみせた。


「フン、北大陸に獣国ガウンか。悪魔が住まう大陸と獣人の国、どちらも信用ならんと思うのだがな。特に試験を無視して眠ってしまう者は論外、そもそもやる気が感じられん。所詮は獣人、という事ではないのかね?」

「お言葉ですが、ラミ受験生は獣人ではありませんよ。獣王レオンハルト様が推薦をし、多額の入学金を支払う事を約束してはいますが、ガウンの王族という訳でもないようです」

「は!? そ、それではただのガウンに住まう一般人に対し、そこまでの援助をしたと!? 一体どういうつもりなのだ!?」

「それは私には分かりかねます。が、この者は信用に足る人物であると、太鼓判を押しているのもまた事実。無碍に扱う事は許されませんよ、ボイル教官?」

「ぐ、ぐぐっ……! わ、分かっておるわ!」

「フフッ、ボイル教官は高貴な人間が大好きなんですものね。ですが教官である以上、一部分のみを贔屓にしてしまうのはいけません。それともまさか、ボイル教官は種族で生徒の良し悪しを判断する差別主義者だった、なんて事は―――」

「―――あ、ある訳がなかろう! 種族に関係なく、ワシは不真面目である事はよくないと、そう指摘したかっただけだ! ミルキー教官、人が悪いですぞ!」

「それじゃあボイル先生、満点を取った超優秀なベル受験生を信用できないと言ったのはどうしてです? ホラス先生の話を聞く限り、試験は真面目に受けられていたようですけど?」

「そ、それは……」


 アーチェの追撃を受け、ボイルは舌打ちを目一杯にしてやりたい気分だった。普段は天然な風なのに、こういう時のアーチェは悪びれる様子もなく、必ずボイルの弱い場所を突っついてくる。しかも上手く言い逃れない限り、徹底的に追及してくるのだ。だからこそ、ボイルは彼女を毛嫌いしていた。


「……彼女自身というよりも、ワシは北大陸という存在自体を気にしておるのだ。新たなる大陸という触れ込みの聞こえは良いが、そこにいる者達は殆どは悪魔なのだろう? 長き歴史のどこを取っても、悪魔とは人類の敵とされてきた存在だ。そこから魔王も多く輩出されている。学院長は彼女を橋渡し役として期待しているようだが、生徒らの安全を第一に考えるのは何も不思議な事ではあるまい?」

「おお、珍しく理に適っていますね。確かに確かに!」

「フッ、そうであろうそうであろう。筆記試験で全問正解をしたと言うが、それこそ未知の術でも使い、違反行為を行ったのではないか? 実に怪しいものだ」


 アーチェに肯定された事に気を良くしたのか、一転して饒舌になるボイル。しかし、他の試験官達から送られる視線の旗色はあまりよろしくないようで。


「ボイル教官、それは極論暴論というものでは?」

「残念ながら、私もその考えには賛同できませんね」

「あ、なら私も反対で!」

「なぬ? ミルキー教官、ホラス教官、なぜにワシの意見が受け入れられないと?」

「あっ、なら私も反対でっ!」

「ワシとしては至極真っ当な事を言っただけなのですがなぁ」

「なら! 私も反対で―――」

「―――分かったから一旦黙っとれぇ!」


 ボイルはアーチェを無視して、二人の次の言葉を待つ。


「貴方の数十年足らずの人生において、言葉を喋る悪魔、それも我々人間とそう姿が変わらぬ悪魔を目にした事はありましたか? 私はありません。これまでに出現したとの報告があったのは、力はあれど意思疎通を図れない下級悪魔レッサーデーモンが殆どでした。が、今回の彼女は明らかにその上を行く上級悪魔アークデーモン、いえ、姫なのですから、それ以上の存在なのは間違いないでしょう。そんな彼女が力を行使する訳でもなく、我々の常識に則って手続きを行い、正式にルミエストへ入学しようとしてくれているのです。これほどまでに興味の尽きない出来事はそうはありませんよ? 人間にだって悪人はいますし、悪しき習慣を持つ者達だって存在します。だからこそ既存の悪魔としてではなく、彼女については新たな悪魔として考えるべきでは? 是非とも頭脳明晰な彼女には、私の研究室に来て頂きたいものです」

「た、確かにそうかもしれんが……!」

「私からも少し意見を言わせて頂きましょう。先ほどボイル教官はベル受験生の不正を疑われたようですが、それは詰まり私が考案した不正への対策、私の監視の目をすり抜けて行ったという認識でよろしいのですね? 私が怠慢であったからそのような疑いが出るのだと、ボイル教官は考えておられるのですね? ならば、具体的にどのようにして不正を行ったのか、具体案を出して頂きたいのですが? 今後の参考にさせて頂きますので」

「あ、いや、決して断言している訳ではなく、可能性をだな……」

「私もベルさんには頑張ってもらいたいと思ってるんですよねー。彼女、第一試験だけじゃなく、第二試験においても凄まじい成績を残しているんですよ。歴史的と言っても良いかもしれません。純粋な肉体能力だけでなく、武術は達人の領域を容易に越え、指定試験では思わず逝っちゃいそうになるくらい、凄い演奏をしてくれたみたいなんです。いやはや、才能の塊と言い表すだけじゃ失礼な人材ですよ。疑わしいから手放すなんて、途轍もなくもったいないかと! わざわざおかわりを要求して、それを残すくらいもったいないかと! あと、私とも気が合う気がするので!」

「むむ、むむむっ……!」


 唯一賛同されていたアーチェからも裏切られ、次々と追い詰められてしまうボイル。僅かな望みを託してアートの方へと顔を向けるが、アートは亜人であろうと差別せず、分け隔てない学園運営を目指す事を信条としている。そんな彼に助けを求めるのは、そもそもが間違いである。


「これは北大陸と新たな繋がり持てる絶好の機会でもある。疑いの目ばかりを向けて、その機会を無下にするのは如何なものだろうか? それこそ、ボイル教官が不安視する悪魔達と対立してしまうかもしれない。そうなれば、我が学園の立場は危ういものとなってしまうぞ?」

「……その通り、ですな。申し訳ない、発言を撤回する」

「理解を示してくれて何より。だが、ボイル教官が言わんとしている事も、十分に理解できるものだ。他生徒らに危険が及ばぬよう、私としても最大限配慮しよう。それと、そうだな…… そこまで不安であるのなら、明日のベル受験生の面接にボイル教官も参加してみるか? 彼女と直接言葉を交わせば、北大陸の悪魔がどのようなものなんか、ボイル教官にも知ってもらえるだろう」

「ワ、ワシが、ですかな……?」


 アートの提案に、ボイルのみならず他の教官らも意外そうな表情を示す。予定ではボイルは別の受験生らの担当であり、ベルと面接する機会はなかった筈なのだ。


「……学院長がそこまで仰るのであれば」


 その意図を怪しみながらも、ボイルはこれを了承する。返事を聞いたアートはニコリと笑いながら立ち上がり、両手を広げ出した。


「よし、ならばそれで決まりだ。そして話題も切り替え、空気を入れ替えよう! 今君達が注目している受験生を、私に教えてくれたまえ!」

「はいはい! ベルさんとリオンさん! 二人とも良い子で気が合って凄い才能があって兎に角凄くて、ああっ! 私の担当じゃなかったけど、ラミさんも凄―――」

「満点を取ったベル・バアル受験生はもちろんですが、私個人としてはグラハム・ナカトミウジ受験生にも注目しています。第一試験に遅刻した為、総合点では目立たない彼ですが、参加してからの解答は全て正解していました。最初から受験に臨んでいれば、トップに並ぶ力があったかもしれません」

「うーん、そうですねぇ。皆さんが言う通り、私もベル受験生と…… それと将来性を考慮して、クロメル受験生でしょうか。彼女は最年少ながらに文句のない学力を持っていますし、何よりも第二試験の結果も素晴らしい。彼女ほどの伸びしろは、他にいないでしょうね」

「ワ、ワシはエドガー・ラウザー君を推すぞ! 彼ほど確かな人材はいないと確信している!」


 凄まじい熱意を持って語り始める教官達。これほどの熱意を示すにのは、とある理由があるのだが、それが明らかになるのは合否発表後の事になる。

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