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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー1 学園都市編
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第3話 追い打ち

「話は聞かせて頂きました。パパ、私も学園に興味あります!」


 リオンたってのお願いを渋々、それはもう仕方なしに了承した後の事だった。具体的には皆が食堂に集まり夕飯を取っていたんだが、徐に愛娘のクロメルがそんな事を言い出したんだ。


 ―――カラァーン。


 本日二度目の衝撃、ショックの上塗りにスプーンを落としてしまう俺。一つにしてはやたらと響くなと思ったら、ジェラールも同様に食器を落としていた。どうやらお爺ちゃんも脳が処理できる許容限界を越えてしまったようだ。うん、俺も理解するまでもう少し掛かりそうだから、ちょっと待ってね。


「……えええ、えっと、ど、どゆ事、なのかなぁ?」

「クロ、クロメルや、お爺ちゃんにも分かぁーるように、言ってほしいなぁって」


 やっと口から捻り出した俺とジェラールの言葉は、全くと言って良いほど舌が回っていない。あまりこんな醜態は曝したくないんだけど、こんなにも動揺が透けて見えては、言い訳のしようがなかった。


「リオンさんから学園都市ルミエストのお話を聞いたんです。何でもお年頃の子供は、早ければ私くらいの年齢で学び舎で勉学に励むんだとか。私ももう8歳ですし、一度お家を離れて新しい風の中で成長してみたいなと、そう思ったんです!」

「そ、それは素晴らしい心掛けじゃな。じゃけど、やっぱりお爺ちゃんは心配と言うか、何と言うか……」


 言いたい事は明確だが、リオンに許可を出した手前、なかなか反対意見を言い出す事ができないジェラール。チラチラと俺を見て「王が止めて」とでも言いたげな視線を寄越していやがる。いや、俺だって正面から止めたいけどさぁ! こんなキラキラで純粋な瞳で来られるとさぁ!


「……クロメルの事が心配なのは、俺も同じ気持ちだ。けど、今はさて置こう。居心地の良い場所から離れて、自らを成長させたいっていうクロメルの強い想い、親として俺は尊重したい」

「パパ!」

「だが! リオンとクロメルの2人をルミエストに入学させるのは、現実的に無理があるんだ。金もそうだけど、推薦人だって必要になる。如何にS級冒険者の家からだって、王族でもないセルシウス家から一気に2人もってのは―――」

「―――なるほど、状況を把握しました。できますよ、リオンさんとクロメルさんの入学」

「っ!?」


 決死の説得を試みている最中に、凛とした声が食堂に響き渡った。そのあまりの美しさに、そして台詞内容の容赦のなさに、俺は思わず説得を中断してしまう。


「シュ、シュトラ……?」


 発言したのはシュトラ。そう、ここ最近は屋敷内でもなぜか大人の姿でいる事の多い、大人シュトラであった。家の中で毎日ドレス姿でいる訳にはいかないので、現在はお姫様らしからぬラフな格好だが、紅茶を淹れたカップを片手に持つ姿は実に優雅である。クロメルに向かって優し気な表情を浮かべ、妙案がありますと暗に言っているようで――― いや、実際あるんだろう。その優し気な表情が、今はとても恐ろしく感じてしまう。


「ルミエストへ入学する為の試験内容は実技、筆記、面接。そして成績のプラスアルファ要素となる特別推薦人、特別入学金の支払いがあります。クロメルさんは大変優秀な実力をお持ちですし、リオンさんに至っては言わずもがな。日頃から熱心に勉強に勤しみ、礼儀作法も十分に弁えていると言えます。よって試験内容について不安視する必要はないでしょう。実技試験に至っては、やり過ぎないか逆に心配になってしまうくらいです」

「「えへへ」」


 シュトラにべた褒められ、自然と笑みをこぼしてしまう2人。あまりに真っ正面からだった為に、リオンは照れて頬を赤く染め、対してクロメルは純粋に喜んでいるようだった。兄で親な俺の鼻は高くなるばかり。そして不安も順調に募っていく。


「表向きはこれらを総合的に判断して合否が決定される訳ですが、ルミエストは家柄を重要視する傾向があります。唯一お二人の落とし穴になるとすれば、ここです。S級冒険者になる事で貴族の証であるファミリーネームを得た私達のセルシウス家ですが、冒険者上がりの親族がどの程度評価されるかは未知数。殆ど前例がないので、私にも予想がつきません。『女豹』のS級冒険者、バッケさんの双子の娘さんが入学できた事例もある事にはあるのですが、そもそもそのお二人は火の国ファーニスの姫でしたし…… S級の力に畏怖して高評価とするか、伝統を守り正統な血筋の他貴族を優先するか、正直のところ評価を下す教官次第だと思います」

「なるほどね~。その点、ベルは何の問題もないわねっ! 同じくプリンセスだものっ!」

「ベルの場合、面接がちょっと心配だけどな」

「あっ!」


 確かに! と、そんな顔で驚くセラ。そんだけベルがお姫様である事を強調するのなら、お姫様に護衛役を任せるのもどうかと思っちゃうんだけど。


「それでは、その不安要素をどのようにして排除するのですか? 先のシュトラの発言、何か奥の手があると見ました。私のクロメルの将来に関わる大切な事です。ここは入学を確実にしませんと!」


 唐突に眼鏡をして、なぜか教育ママ面を開始するメル。その伊達眼鏡、セラが白衣になってる時のアレだよね? 何、この時の為にわざわざ借りてきたの?


「方法は2つあります。先ほどにも少し触れた、特別推薦人と特別入学金です。後者は入学後の印象がよろしくなく、セルシウス家の財貨を圧迫する可能性もありますので、今回は前者の方法を取ります。もうお分かりの方もいらっしゃるでしょう。ルミエスト首席卒業者として、私とコレットちゃんがお二人を推薦しちゃえば良いのです!」


 これで解決! そんな勢いでババンと宣言しちゃうシュトラ。最後だけ、若干子供シュトラに引っ張られた感がある。だがこのお言葉は一大事、兄と父にとっての一大事であった。


「そ、そんな簡単にいくものなのか? シュトラとコレットがルミエストの卒業生かつ首席だった事は知ってるけどさ、いくら何でもそこまでの決定力にはならないと思うけど?」

「いいえ、なります」


 きっぱりと真っ向から否定されてしまった。駄目だ、舌戦でシュトラに勝てる気がしない……


「首席で卒業するとはこれ詰まり、学園都市ルミエストより全幅の信頼を寄せられた事に通じます。かつてルミエストが認めた首席が、この入学希望者は期待できると判を押す。名ばかり通る王族貴族よりもよほど影響力があるのです。入学金や学費の免除まで、視野に入れて良いかもしれません」

「ほ、本当に?」

「わくわく……!」

「ええ、本当です。コレットちゃんはリオンさん、クロメルさんを溺愛、いえ、崇拝……? コホン。兎も角、好意的に見ている事は間違いありません。私の方からデラミスに連絡を入れておきますので、安心して試験に励んでくださいね」

「「わーい!」」

「「………」」


 諸手を挙げて歓喜する妹と娘、ガックシと肩を落として観念する父と爺。推薦人をわざわざ手配してくれて、お金も掛からない。更には護衛役として元神の使徒、しかも同性が同伴してくれるとなれば、もう反論材料はないだろう。無念、まことに無念である。


『ケルヴィンさん。リオンさんとクロメルさんが離れるからといって、がっかりする事ばかりではないと思いますよ?』


 ふと、シュトラより念話が届いた。何事かと、自然にシュトラの方を向いてしまう。ちょうどシュトラは、ティーカップを口に傾けているところだった。


『ルミエストへの入学は、お二人の人生経験に良い影響を与えるものです。しかしそれ以上に、ケルヴィンさんにとってまたとないチャンスでもあります。ここは一つ父として兄として、クロメルさんとリオンさんの夢を応援してあげましょう』


 それからシュトラの話を聞いて、俺はリオン達を応援する立場に鞍替えした。いや、別に学園に付いて行くとかそういう訳ではないんだが、確かに俺にとって実りある話だったのだ。シュトラは理性的なバトルジャンキーをよく分かっていらっしゃる。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 子供が希望する進学を反対したりその理由にお金を絡めるケルビンがカッコ悪いし当の子供の前でお金は1番口に出しちゃいけない話だ…見損なったわ
[良い点] ケルヴィンがいい感じに親馬鹿してるところ [気になる点] クロトを護衛にしたらいいのでは? [一言] クロトの戦闘を出してください
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