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第573話 刹那の勝負

 俺が纏うは風神脚ソニックアクセラレートヘキサ、今の俺における最高速度を実現する事ができる補助魔法だ。魔力超過の段階を1つ2つと上げるにつれ、2倍から3倍へ、3倍から4倍へと凄まじい上昇力を見せてくれたこの魔法であるが、ヘキサともなればかなり不安定だ。素直に倍々となるのではなく、俺の気の持ちよう、興奮状態にその上がり幅が左右される。平時であればペンタの方が速いんじゃないか、なんて時もあるくらいだ。だが、刹那達のあんな面構えを魅せられた今ならば、その力は計り知れないものとなる


「合図はいりません。ケルヴィンさんのタイミングで、好きな時に来てください。焦らすのもアリですよ? 女の子を相手に、そんな事をするケルヴィンさんではないと思いますけど」

「個人的にザックリくる挑発、ありがとよ。でもまあ、そこは安心してくれ。今直ぐにでも飛び込みたいのが本心なんだ。もう行って良いっつうなら、カウントしながら行かせてもらう。良いか? さぁーん、にぃー、いぃーち―――」


 氷柱が辺りを凍結させるパキパキという音色と、俺の声のみが場を支配する。尤も1の次になった瞬間、俺達はその音さえも置き去りにしていたのだが。果たして外側で見守る刀哉らは、俺の姿が見えているだろうか? 正面も正面、今にも刀を抜こうとしている刹那の間合いを、俺は察知スキルの警報を無視しながら通り抜けようとしている。


「ギューアッ!」


 刹那の姿を隠すように、突如として炎の壁が俺の目の前に現れた。刀哉の障壁のない空には、飛翔する火竜、ムンが息吹ブレスを放出しているのが見えた。自分と奈々が何をするのか、雅がわざわざ説明してくれた理由がこれか。意図してムンを除外する事で、視覚を遮る炎の邪魔立てを隠していたのだ。


 まあ、ムンが何かするだろうという事は、何となく予想の1つとして考えていた。だからこそ、ムンでも反応できるようカウントダウンをしていたんだ。そうしてくれないと勇者達を完璧に倒した事にならないし、俺の昂りに水を差されてしまう。炎の密度は十分、向こうが一切見えない。この後ろに刹那が控えていると思うと、本当に肝が冷えてゾクゾクする。


 身を焦がしながら炎を抜け、刹那と瞬間的な対峙をする。刹那も俺が見えていなかった筈だが、彼女の瞳は確かに俺を捉えていた。無数に広がる死の線をスキルで察知。ニトのおじさんよ、何て物騒な奥義を教えてくれちゃってんだ。ありがとう、今度お礼参りします待っていろ。


「「いざっ!」」


 気分が最高潮に至ったその時、刹那の涅槃寂静ねはんじゃくじょうが刀身を晒す。斬られようが躱そうが、その速度ならば結果が及ぶ前に刹那の背後へと到達するものだ。俺は縦横無尽に駆け巡る斬撃を完璧に躱したと信じながら、一先ずは目指す場所の大地へと足を付ける事ができた。


「……ふう、完敗です。ローブの裾は斬れましたけど、肉には至りませんでした」

「ぷはぁっ! その裾が斬られた瞬間、俺の緊張感が半端ない事になってたよ。刹那の居合、堪能させてもらった」


 多少焦げ臭くなりはしたが、俺の五体は無事だった。俺と刹那が会話をする事で、結界の外にいる刀哉達もこの結果を理解できたようだ。


「刀哉、リーダーとして勝負の結果、声に出してハッキリさせるべき」

「え、良いのか? いつもの雅なら、そういう事は嫌がっていただろ?」

「嫌だけど、するべき。次に戦って私達が勝った時、清々しく勝ちたいから」

「雅ちゃん……」

「ああ、そうだな。了解だ。 ―――この勝負、ケルヴィンさんの勝利です! ありがとうございましたっ!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 勇者達と別れた俺とクロメルは、トラージに向かって再出発した。次のチェックポイントに指定されたのは海の方ではなく、人気のない山中だった。盛大にやらかしても良いように、とかそういう配慮だろうか?


「パパ、さっきの読み合いは凄かったですね。こう、バッと行くかと思いきや、途中でギュン! 刹那さんの無数の斬撃もお見事でした!」

「そうかそうか、あの中で明確に見えていたのは刹那とクロメルくらいだったから、ちゃんと見てくれて嬉しいなぁ」

「それはもう、私はパパの戦いを見届ける義務がありますからね!」

「でもそんなにクロメルに褒められたら、パパ嬉しくって気が緩んじゃうぞ?」

「そ、それはいけません! 褒めるのは控える事にします!」


 慌てふためく姿も可愛い。そう思いを馳せながら道中をぶっ飛ばしていく俺。何かに夢中になると時間は早く通り過ぎていくもので、気が付いたら目的地に到着していた。


 第3のチェックポイントには巨大な湖が広がっており、トラージの海の景色にも負けぬ自然の美しさがそこにはあった。果たしてこんなに綺麗な場所を、バトルフィールドに指定して良いものかと思ったり。そして湖に接する陸地には、これまた結構な数の人影が俺達を待ち受けていた。


「待っておったぞ、ケルヴィン! いや、実際は予定よりも早くて驚いておるが!」


 空より地面に着地するや否や、トラージの姫王であるツバキ様より早速な挨拶を頂いてしまう。他の面子もツバキ様に負けぬそうそうたる顔ぶれだが、この地の提供者として代表になったのかな?


「そう言わないでくださいよ。楽しくて楽しくて、夢中でここまで来てしまったんです。それよりも、よくこれだけの大物を一国に集められましたね。これから大きな会合でも開くつもりですか?」

「くく、それも良いが、あってもついででじゃな。妾達の第一の目的は、お主と戦う事じゃよ」


 扇子で口元を隠しながら笑うツバキ様、実に上機嫌。そうは言っても、今回の相手は普段であれば手を出す事も許されない相手ばかりだ。水国トラージからはツバキ様と、その横に控える忍者っぽい黒覆面。獣国ガウンからはジェレオル、ユージール、同志キルト、サバト、ゴマの王族兄妹。神皇国デラミスなんてサイ枢機卿が率いる古の勇者パーティ(教皇とセルジュ抜き)を提供してくれた。軍国トライセンには正直いつか来ると思っていた同志アズグラッド、そして白銀竜の姿に戻ったロザリア。誰もが4大国の重要人物だ。


「第3の試練、妾ら『4大国同盟』がお相手しようぞ!」

「4大国総力戦、ですか。かなり気合入ってますね、ツバキ様。というか、ツバキ様も戦われるんですか?」

「当然じゃろう。妾はかつて、あのシルヴィアとエマを相手取って接戦を演じたのじゃぞ?」

「………」

「あっ、疑っておるなっ!? 真じゃからなっ!」

「おう、トラージの。その辺にして俺にも話させろって」


 話し足りなさそうなツバキ様に代わって、今度はアズグラッドが前に出て来た。


「シュトラが色々と手回ししてくれてよ、俺以外にもこんだけの物好きが集まりやがった。へっ、トライセンとガウンの共同戦線なんて、親父の時代には夢にも思わなかったぜ」

「トライセンの王よ、それは我らとて同じ事だ。だがまあ、過去を払拭する切っ掛けにはなり得るのではないか? ダン殿にも来て頂きたかったくらいだ」

「おう、ジェレオルは雪辱戦狙いだったのか? 戦争してた時、ダンの爺さんにこっ酷くやられたって聞いてるぜ?」

「まったく、王となっても喧嘩腰なのだな。久し振りに買ってもよいぞ?」

「おいおい、ジェレオルの兄貴もトライセンの王様も、ここはそういう場じゃねぇだろ? ケルヴィン、俺がいるぞ! ゴマもいるぞっ!」

「サバト、この場だと流石に恥ずかしいからはしゃぐのを止めて。あと3秒で殴るわよ?」

「この場で殴るのもどうかと思うよ!?」


 何つうのかな。これだけの人数が集まると、俺が俺がと皆が話し始めて収拾がつきそうにない。ん、だけどデラミスの奴らは妙に静かだ。というか、3人とも


「「………」」

「サイ枢機卿、お仲間が怖いくらい沈黙しているようですが、何かありました?」

「いえ、それが…… セルジュが私達に何も言わず、デラミスから旅立ってしまいまして…… 物静かなラガットはいつも以上に気が沈み、いつも陽気なソロンディールまでもがあの様なのです。かく言う私も、枕を濡らし続ける日々が続いていて…… フフッ、教皇に祭りに参加して、少しでも元気になって来いと言われてしまいました。教皇に説教されてしまうとは、もう私はお終いです……」

「そ、そうだったんですか…… その、頑張ってくださいね?」

「フフッ、その優しさすらも辛い……」


 フィリップ教皇、俺にこの人達をぶっ飛ばせと言うのか?

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