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第570話 真・勇者の帰還

 ―――デラミス大聖堂


 数日後、俺達は揃ってデラミスへと移動した。その理由は言わずもがな、勇者である刹那達が元の世界へ帰るのを見送る為だ。4人がコレットに召喚された始まりの場所、デラミス大聖堂に皆が集う。俺達とプリティアはもちろんの事、コレットやクリフ団長、そして古の勇者達。姿を隠してはいるが、フィリップ教皇も奥に控えているそうだ。


 集まった者達が順番に別れの言葉を交わしていく。クリフ団長にエールを送られたり、コレットと話して奈々が涙ぐんだり――― そんな光景を目にすると、本当にあいつらが帰るんだな。なんて、柄にもなくしみじみとした気持ちになってしまう。


「お前ら、本当に帰っちまうのか? 帰るにしても、ここにいない奴らに挨拶の1つくらいして来いよ」


 気が付いたら俺の番になっていて、そんな気持ちを代弁する言葉が自然と出てしまっていた。


「ふふっ、引き止めるなんてケルヴィンさんらしくないですね。ご心配には及びません。あの決戦が終わってから俺達、今までお世話になった方々を訪ねて回っていたんです。中には泣いたり、全力で説得してくれた人もいて…… でも、最初からそう決めていた事ですから。俺達には、俺達が帰るべき世界があります」

「そっか、それがお前らの選択した道か…… うん、なら俺からは、これ以上とやかく言わないよ。結局、熟したお前らを食べられなかったのは残念だけどな。ああ、そこだけはマジで心残りだ」

「ハハハッ、やっぱりケルヴィンさんはケルヴィンさんでしたね。本当にすみません、師匠!」

「それよりも、その言い方がとても不快。セクハラ? セクハラで訴えても良い?」


 雅は本当に最後の最後まで、俺に対する当たりの強さをよく維持してくれたもんだ。まあそんな憎まれ口でさえ、今となっては良い思い出。一応は師匠という立場らしいので、笑って受け止めてやろう。


「うわ、笑ってる。絶対何か悪巧みをしようとしている。とても気持ち悪い。お願い、近付かないで」


 ハッハッハッハ…… いや、やっぱりこいつとは合わないわ。


「刹那と奈々も元気でな。つか、奈々はまだ泣いてるのか?」

「うう、だって寂しくって悲しくってぇ……」

「死体の山の中に隠れられるようになったのに、こういうところは相変わらずなんですよ。それも奈々の良いところなんですが…… ケルヴィンさん、以前に頂いた涅槃寂静ねはんじゃくじょうですが―――」


 刹那が腰に付けていた刀を鞘ごと外し、俺の前へと出した。


「ああ、そのまま持っていって構わないよ。性能上、おいそれと使ったりはできないだろうけど、まあ刹那なら間違って使うような事もないだろ。ペンダントと一緒に、旅の思い出としてやる」

「良いんですか?」

「元々、その得物は俺には扱えないんだよ。そいつだって、力を十全に引き出してくれる主の下にいた方が良いだろう。涅槃寂静ねはんじゃくじょうは、もう刹那の相棒なんだよ」

「……最後の最後まで、ありがとうございます。生涯、大切にする事を約束します」


 優しい目をした彼女は、鞘に収めた刀を優しくひと撫でする。うん、やっぱりそれが正解だ。


「あ、そうでした。刀と言えば、ニト師匠には黙って来たので、後ですみませんと伝えて頂いてもいいでしょうか? あの人に知られたら、何が何でも私を留まらせようと無茶苦茶するでしょうから」


 刹那の優しい目が、一瞬にして無機質なものへと変貌。ニトのおじさん、一体何をやらかした?


「そろそろ転移について、詳しい事を説明しましょうか」

「女神様…… いえ、今はメル様でしたね」

「今はもう、ただのメルで結構ですよ。少し強い程度の、一介の天使でしかありませんから」

「異議申し立て。少しの尺度を問いたい」


 珍しく意見が合ったな、雅。それは俺も問いたい。


「コホン、それでは説明致します。貴方達の元の世界は、この世界と同じ時間軸となっています。詰まり、戻る頃には1年と少しの時間が経過してしまっているのです。突然4人が同時にいなくなったとなれば大事になってしまいますので、帰還時に違和感が発生しないよう、貴方達を知る者達の記憶が修正されます。例えば急に海外へ留学してしまった、などですね。証拠として必要な書類や記録にも修正は施されますので、その辺りはご安心ください」

「というと、お母さんやお父さん、友達を悲しませる事はなくなるって事なのかな?」

「そうなりますね」

「そっか、良かった……」


 刀哉達はホッと胸を撫で下ろす。


「ここで1つ注意点なのですが…… 元の世界へ戻った際、貴方達はこの世界で養った力を失ってしまいます。向こうは魔力などのない世界、法則の根本が異なりますからね」

「え? ……ええっ!?」


 雅が表情と声に出るくらいの、凄まじいショックを受けている。とても分かりやすい。


「これまでの活躍の報酬をその力とするならば、現在の状態のままで戻る事もできます。ですが、あまりお勧めはできませんね。あちらの世界でその力を行使するのは、あまりにも逸脱した行為ですから」

「でしょうね…… 雅、潔く諦めなさい。考えてみれば、現実的じゃないって分かるでしょ?」

「……悪人とか、バッタバッタと薙ぎ倒す」

「リ、リアルヒーローになる気?」


 刹那らが何とか雅を説得して、報酬はまた別のものという事になった。


「それでは、貴方達はどういった報酬を望みますか? 常識の範囲内であれば、大体の事は叶えられますよ?」

「ううーん…… どうしようか?」

「お金とか良いんじゃない……? 金の力でバッタバッタと薙ぎ倒す系の……」

「雅ちゃん、あからさまにやる気をなくさないで~!」


 報酬よりも人助けが目的で参加したような刀哉達の事だ。報酬を何にするか決めるのに、結構時間が掛かるかな。


「えと、一応聞いておきますけど…… もう世界の新たな危機が迫るような事はないんですよね?」

「神崎君、いくら何でもそれはないよ~。そんなにしょっちゅう、大それた事が起こる筈が……(チラッ)」


 言葉では否定しようとしているが、奈々の視線はチラチラとこちらに向けられている。


「いやー、それを聞かれちゃうとなぁ。要らぬ心配をさせたくなかったから、教えたくなかったんだけど……」

「「「あるんですか、危機っ!?」」」


 総ツッコミを食らってしまう俺。だから、言うつもりはなかったんだって。プリティアから聞いたばかりで、まだ何の調査もしていないんだし。


「でも、あくまでかも・・で、殆ど可能性はないようなもんなんだ。たとえ太古に封印された邪神が奇跡的な確率で復活したとしても、お前らの世界には何ら影響はない。だから、安心して帰れよな!」

「「「「………」」」」


 あれ、おかしいな。なぜか俺に4人の視線が集中しているぞ?


「いや、今回のは前みたいに明確な情報じゃなくて、俺がいたら良いなぁ程度に思ってる願望というかだな―――」

「ハァ…… 師匠の事だから、またそうやって起こさなくてもいいものを、自ら起こしちゃったりするんじゃないですか? そんな時、少しでも戦力がいた方が良いでしょう。うん、良い筈です」

「また乗りかかった船、かしらね」

「神埼君がそう言うのなら、私は大賛成だよ!」

「もう一度遊べる」


 異世界勇者組、残留決定。これってさ、俺が信頼されているから、或いは別の意味での確信があったからの、どっちの理由なんだろうか?


「盛大な見送りをしてくれたのに、またお世話になってしまうのは申し訳ないですけど……」

「何を言っているんですか。巫女として、デラミスを代表して歓迎しますよ」

「そうそう、今更かしこまる必要もないでしょん。あ、そうだわん! 報酬で迷っているのならぁ、自由に世界を行き来できるようにしたらん? 貴方達の世界とぉ、こっちの世界をねん」

「ええっ、そんな事も報酬にできるんですかっ!?」

「いつでもどこでも、という訳にはいかないと思うけどぉ、定期的に帰る分には問題ないわん。ね、メルちゃん?」

「そうですね。刀哉達が望むのであれば、それを報酬にする事は可能です。先ほど申しました通り、帰る際には能力が排除され、こちらに来る際にまた元に戻るという形ではありますが」

「「「「是非それで!」」」」


 報酬内容も決定。プリティア、早速神としてガンガン働いている。


「ふへぇ、一時はどうなるものかと思ったけど、良い形収まってくれて良かっ―――」


 ―――カァーン、カァーン!


 突然、鐘の音が大聖堂に届いた。時間を知らせるような音色ではなく、気が急くような騒がしい音だ。何事かとコレットに聞くよりも早く、俺達はその原因を大聖堂の外からの叫びより知る事となる。


「侵入者、侵入者だー! 大聖堂に向かったぞー!」

「おのれ、神聖なる場所に入れるなっ!」

「刹那ちゃんいるぅ!? おじさんが迎えに来ましたよー!」

「この、訳の分からない事をっ! おい、そっちに変なおっさんが行ったぞー!」

「「「「………」」」」


 皆の視線が、一斉に刹那へと集まる。


「やっぱり、私だけでも帰ろうかな……」

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