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第566話 妹談議

 ―――トライセン城・アズグラッドの私室


 シュトラより伝言を受けた俺は、早速アズグラッドのいるトライセンへと向かった。足で向かうには一苦労なこの移動も、転移門があるので散歩気分で行く事ができる。一緒に行く面子もシュトラとクロメル、そしてリオンなので、弁当を引っ提げてピクニックへ向かう心境だ。雲ひとつない快晴の下、鳥達のさえずりが聞こえてくる。少し前まで魔王のいたトライセン城だというのに、今ではすっかりと平和な印象を受けるようになった。うん、今日も清々しい良い日だ。こんな日はどこかに凶悪なモンスターでも出ないもんかと、手を組んで祈りたくなってしまう。


「すまん。同志キルトも呼びたかったんだが、唐突にガウンの城にお邪魔するのもどうかと思ってさ。3人で語るのは、また今度の機会にしよう。ま、唐突なのはアズグラッドも同じなんだし、勘弁してくれな」

「お前の方こそ唐突だよ。キルトって、ガウンの第3王子か? 一体何の話をしてんだ?」

「何って、お前こそ何を今更恥ずかしがってんだ? 妹について話す為に、俺を呼んだんだろ? 全部言わなくともお見通しだぜ? シュトラの前じゃし辛いだろうと思って、クロメル達と一緒に遊ばせているから安心しろって。今頃3人でお人形遊びでもしてる筈だ」

「……そうか。もう俺の思惑はお前に見破られていたって事か。確かにシュトラの前では、な。気ぃ利かしてくれて、感謝するぜ」

「別にいいって。それで、どの辺から始めるつもりだ?」

「あー、それなんだが―――」


 何気に初めての妹談議だ。俺としては、手始めに軽くジャブを打っておきたい。そうだな、まずは如何に自分の妹が素晴らしいのか、その辺から熱く語ってもらうというのはどうだろうか? 同志キルトならば、恥ずかしがる事なく見事に先陣を切ってくれるだろう。


「―――ケルヴィン、単刀直入に言おう。シュトラを貰ってやってくれねぇか?」

「……はい?」


 え、何? 今アズグラッドは何と言った? シュトラは貰ってやってくれ? 何を言っているんだ。シュトラはもう屋敷に居候しているから、これ以上貰うも何もないぞ? あ、もしや滞在期間の延長話の事か? 天使モンスターがいなくなって落ち着いたとはいえ、まだまだトライセンも復興の最中、不安定な状況だもんな。それならそうと、遠回しに言わなくても良いじゃないか。いやー、何事かと驚いちゃったよ。あははははは……


「お前に子供ができたって事は聞いてる。それなら、近いうちに結婚もするんだろう。それならよ、その中にシュトラも入れてやっちゃあくれねぇか? この通り、頼む」

「………」


 思考停止、いや、動けよ俺の並列思考! だけどさ、いきなり何言ってくれちゃってるの、アズグラッド!? 妹談議ならぬ妹の嫁入り話は、流石に予想外にもほどがあるぞっ!


「よし、アズグラッド。まずは頭を上げてくれないか? 正直、俺は今酷く混乱状態にあるんだ。俺はただ、ここに妹を熱く語る妹談議をしに来たつもりだったんだ。シュトラは確かに俺にとっても妹のようで妹だけどさ、実際はお前の妹であってお前も妹で、あ、あれっ?」

「お、おう、確かにかなり混乱しちまってるようだな。俺も話を飛躍させ過ぎた。少し、お互いに冷静になるか」


 一呼吸置きまして。よし、少しマシになった。


「そもそもの話さ、今はアズグラッドが国王を代理でやってるけど、ゆくゆくはシュトラを王にするつもりだったんだろ? それが何で、俺との結婚話が持ち上がってんだよ?」

「俺も最初はそのつもりだったんだけどよ、いつの間にか城に居着いちまったうるせぇのが、ちょっとな……」

「うるせぇの?」

「アーズーちゃーん? それは誰の事かしらね~?」

「げっ」


 アズグラッドが心底嫌そうな表情を作ったのと同時に、部屋の窓がバンと開かれる。室内に入り込むヒンヤリとした冷気に触れ、次いで生命として強大過ぎるその存在を感じ取る。俺達の前に現れたのは、先日の最終決戦にアズグラッドと共に参加した、氷竜王その人(その竜?)であった。


「あ、どうもお母さん。お邪魔してます」

「あら、ご丁寧にどうも。ケルヴィンさんもお久しぶりですね。毎度の事ながら、うちのアズちゃんがいつもお世話になっております。自分の家だと思って寛いでくださいね。そうだ、アイスでも食べます? たんと冷やしていますよ?」

「何でそんな会話してんだよ! ここはトライセンの城で、俺の部屋だからな!?」


 いや、何となくこんな挨拶をしなきゃいけない感がして……


「サラフィアも許可なく部屋に入ってくんなって、いつも言ってるだろうが! せめて扉から来い、扉から!」

「だってー、アズちゃんが友達を連れて来るなんて珍しくて、ついつい。てへ♪」

「てへじゃねぇよ! 歳考えろよ!」

「はーい、口が悪いぞ~♪」

「あがっ!?」


 どこから取り出したのか、サラフィアはかなりでかいサイズなアイスを、アズグラッドの口に押し込んだ。痛みはないだろうが、これはなかなかに辛い。俺まで頭がキーンとしそうだ。


「あぐあぐあぐっ! この程度で罰になると思うなよ!?」

「まあ、良い食べっぷり。流石私の息子ね」


 と思ったら、アズグラッドは一瞬であのでかぶつを食べてしまった。すげぇな、アズちゃん。


「はぁ、まあいい。ある意味ちょうどいいし、話を戻すぞ。こんな感じでサラフィアが四六時中俺に付き纏ってな、王になれ王になれってうるせぇんだよ。場所も時間も人の目も弁えねぇから、流石の俺も疲れたやら恥ずかしいやらで折れちまってな…… 嫌々ながら、王位を正式に継ぐ事になった」

「私が頑張りました。自慢の息子です」

「そ、それは、何というか…… おめでとう?」

「城に連れて来たのは失敗だったと、今更ながらに本気で後悔してるぜ……」


 ビシッと満足そうに決めポーズを取る氷竜王に、俺はただただ苦笑いを浮かべる事しかできない。アズグラッドが絡むとテンション高いのかな、この竜……


「面倒事を全部実の妹に投げるなんて、男の子としてあるまじき行為ですからね。母の気持ちが伝わってくれたようで、とても嬉しいのです」

「こ・い・つ……!」

「ま、まあまあ、落ち着けって。兎も角、アズちゃ――― アズグラッドが王位を継ぐ事になった経緯は分かったよ」

「お前、今言い直しただろ」


 しょうがないだろ、サラフィアがちゃん呼びの時に語尾を強めるんだもの。俺もつい釣られてしまう。


「しかしだ、それはシュトラが嫁入りする件とは全く別だ。何で俺と結婚する事になるんだよ?」

「王位を継がない事になるんなら、それが関係あんだよ。今でこそあんな小せえ姿をしてるから誤解しやすいが、シュトラはもう18になる。男ならまだしも、女でその歳になりゃあ王族は婚姻を結ぶもんだ。現に親父がまだまともだった時は、この歳になったシュトラを有力な王族と結婚させるつもりだったみてぇだからな。ま、所謂政略結婚ってやつだ」

「あー、まあ王族貴族でよくある話ではあるけど…… それで?」

「親父が魔王になってからは、色々と準備してきたもんは破棄された。んな面倒臭い事をするより、実力行使で領土奪う戦略にシフトしたからだ。ぶっちゃけた話、婚約話が破棄された時は俺も喜んだもんさ。だけどよ、俺が王位を継ぐ今の体制になっちまうとシュトラは遠くない未来、どこの馬の骨とも知らねぇ奴のところへ嫁に出す事になっちまう。シュトラの記憶が戻ってる事はもう知ってる。だから、もう遮るもんも何もねぇ」


 随所で察せるアズグラッドの妹愛に思わず感動してしまうが、全体的に重い話だ。今やシュトラは、俺にとってのもう1人の妹のような存在だ。アズグラッドの気持ちが痛いほどに分かってしまう。


「で、俺は妥協案を考えた。ケルヴィン、それがお前だ」


 などと思っているうちに、何か知らんが妥協された。

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