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第559話 転生神継承

 ―――水燕三番艦


 クロメルとの最終決戦を終え、俺達はいったんトラージの飛空艇へ集まる事にした。黒幕であるクロメルを倒した今も、この世界は転生神不在という大きな問題を抱えている。その問題を解決する為にも、俺ら以外の主要メンバー達にも集まってもらった。コレットや刹那達、プリティアにシルヴィア、アズグラッド、義父さん、元使徒等々、今回の戦いで活躍してくれた者達だ。リオンやアンジェもそうだが、負った怪我を治療し切れていない者も多い。そのような中で集まってくれた事に、まずは感謝したい。


「ゴマ、お前今までどこに行ってたんだ! 船から落ちたんじゃねぇかと心配したんだぞ!?」

「私がそんな間抜けな事をする筈ないでしょ。他で戦況が危なそうなところがあったから、そっちの応援に行っていたのよ」


 来て早々、サバトとゴマが兄妹喧嘩をし始めていた。状況が状況なので、サバトが殴り飛ばされる前に情報を共有しておこう。メルに説明を頼む。


「―――というのが、この事態のあらましです。対象の討伐は既に完了していますので、後は私の継承権限が残っているうちに次代の転生神を確定させる事ができれば、世界の崩壊を食い止められるでしょう」

「ん、でもそれって簡単な事なの?」

「簡単に済ませて良い事ではありません。緊急時における仮継承とはいえ、神となるに相応しい人格、実力を身に付けている方でなければ、継承の際に不適合判定が下され、邪なる者としてその方は消滅してしまいます。本来であれば天使の長達が長い月日をかけて協議を重ね、候補者に試練を与え選定するのを、この短時間で見出さなければならないのです。でなければ、世界は終わります」

「お、おお。俺ら、何気にすげぇ場面に立ち会ってんだな……」


 転生神が代替わりするなんて、それこそ何百年も昔のエレアリスからメルフィーナに移った時以来の事だ。変に緊張してしまうのも無理はない。しかし、心身共に転生神に相応しい人物か。


「初めに言っておくが、俺らガウン組は誰も当て嵌まらないと思うぜ? 親父なら肉体的な強さは問題ないだろうが、神に相応しい性格かって言われると、黒も黒、真っ黒だ。なあ?」

「………(ニッコリ)」


 同意を求めるようにゴマの方を向いたサバト。だが視線の先にあったは、静かなる微笑みを浮かべながら拳を構える彼女の姿だった。


「な、何でお前が怒ってういばいえあっ!?」

「なら、コレットちゃんはどうかしら? デラミスの巫女としての実績があるし、彼女以上に清らかな心の持ち主はそうはいないと思うの」


 背後で吹き飛ぶサバトを総スルーしつつ、シュトラがそんな意見を出した。慣れとは恐ろしいものである。


「いや、この場合ツッコむべきはコレットについてか。シュトラ、残念ながらコレットは手遅れなんだ」

「へ? 何が?」

「何がってそれは、なあ?」


 幼いシュトラにコレットの変態性を何と説明すれば良いものか逡巡して、ついコレットの方を見てしまう。ここで1つ、異変を発見。メルフィーナの後釜を考えるこの集まりが始まってから、まだコレットが一言も発言していないのだ。信仰力に定評のあるデラミスの巫女らしからぬこの行動に、俺は目を疑いコレットの容態を心配した。


「コレット? コレットやーい?」

「………」

「お、おい、マジで大丈夫か?」


 俺が声を掛けるも、コレットは驚くほどに無反応だ。目を見開いたまま、静かに椅子に座っているだけ。全く動く様子がなく、生気もない。ついでに瞳に光沢もない。


「ええっと…… コレット、気絶してるみたいです……」


 コレットの隣にいた刹那が状態を確認してくれた。メルフィーナが転生神でなくなると聞き、精神がショックに耐えられなかったのか…… 信仰心を極めたが故の反動、ダメージを少しでも抑える為の強制スリープが働いたんだろう。


「シュトラの案についてですが、コレットは転生神になり得ません。いくら心が清らかであろうと、肉体が継承に耐えられないのです。人を基準とするならば、進化を遂げているのかが条件となるでしょう。それに何よりも、コレットはデラミスの巫女としてその生涯を捧げてきました。御覧の通り、仮に神となれたとしても、今の状態では正常な判断を下す事はできないでしょう。 ……あなた様、後でコレットの事もよろしくお願いします」

「え? あー、うん、確かにそうだな……」


 詰まり、別件の問題としてコレットの心のケアもしなければならないと。最悪の場合、新転生神の反対派として第二のアイリスとなる可能性すらあるもんなぁ。信仰の力とは、時に恐ろしいものである。尤も、メルフィーナは今も元気も元気、超元気だ。エレアリスが封印された時とはまた状況が異なり、しっかりと俺達がフォローすれば間違った方向に進むような事はないと思う。


「でもそうなると、候補はかなり絞られる事になるよね。人間の場合は聖人、魔人、超人――― このいずれかに進化していないと、そもそも駄目なんだよね?」

「かつ神に相応しい人格者となれば、そうじゃな……」

「おい、貴様ら! セラとベルの名を挙げるつもりだろう!? 駄目だ、駄目だぞ! 確かに2人はそれに相応しい素質の全てを兼ね備えた全世界の宝であるが、神になるなんてパパは許しません! 悪魔として駄目、絶対!」

「父上、静かに」

「パパ、話が進まないから黙ってて」

「はい!」


 セラベルに咎められた途端、静かになる義父さん。悪魔としては複雑な想いがあるんだろう。今は静かでも、セラベルの名が上がれば再び暴れ出しそうだ。北大陸組も無理、と。


『王よ、王よ』

『ん、ジェラールか? どうした?』

『どうしたも何も、このままでは姫様、ワシらのリオンを推薦するのではないか?』

『……やっぱ、ジェラールもそう思うか?』

『当たり前じゃて! 進化を遂げた健康的な聖人の肉体に、誰であろうと平等に接する優しき心の持ち主じゃ。エフィルの線も一瞬考えたが、あれでいてどんな時でも王を最優先、何が何でも王が一番! な、ところがある。神の精神を推測するのであれば、やはりリオンしか適任者はおるまい。じゃが仮にそうなれば、これからリオンと共に行動する事ができなくなるのではないか? 今回の姫様の召喚は特別なケース、転生神とは本来下界へ干渉できないものだと、前に姫様は言っておった。そうなれば、ワシは寂しくて死ぬかもしれん……!』

『さ、流石に言い過ぎだろ。それにほら、メルが長期休みを取ったのと同じく、義体を使って帰って来る事だってあるだろ』

『その休暇、姫様が何百年も働き続けて漸く溜め込んだものじゃろうが! 世界がこんな有り様で、神とはいえ新米なリオンがそうやすやすと戻って来られるとは思えん!』

『………』


 転生神に適している人物、ああ、そうだ。そんなの、リオンしかいないだろう。現実的に考えてみれば、ジェラールが言う全てが的を射ている。リオンがいなくなった後の世界、そんなもの、考えただけでも吐き気がする。しかし、誰かが転生神の座を継がなければ、この世界が崩壊してしまうのもまた事実。俺は一体、どうすれば……


「実はですね、私の方で候補者は決めていました。皆さんのお話を伺ってから改めて考え、その後に決定しようとしていたのですが、やはり私の挙げた候補者に間違いはなかったようです。彼女ならば私の後任、神になっても問題ないでしょう」


 議論が行われる中で、ふとメルがそんな事を言い出した。瞬間、俺とジェラールがビクリと反応してしまう。


『王よ!』

『分かってる、分かってるけど……!』


 葛藤に次ぐ葛藤、大切な妹と世界を天秤にかける。考えてみろ、リオンはまだこの世界でも成人を迎えていないんだ。あんなに小さく、可愛くも愛おしいリオンを神になんて、俺は、俺は―――


「改めて告げたいと思います。次の転生神に相応しい、その者の名をっ!」


 気が付けば、頭で考えるよりも先に口が動いていた。すまない、メル。ここは1人の兄として、大切な妹を護らせてもらうっ!


「ゴルディアーナ・プリティアーナ、私は貴女に次の時代を託したいと思います」

「メル、それは駄目だってあっれぇーーー!?」

「あらん、私ぃ?」


 俺の絶叫の後、気絶したコレットが床に倒れた。

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