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第556話 神機の心臓

 ―――中央海域


 殲滅目標であった巨大戦艦が沈み、トラージの飛空艇は直ちに避難を開始した。残る仕事といえば討ち漏らした鎧天使らを倒すくらいなもので、役目として担っていたものは殆ど完遂したと言っても良いだろう。だがそんな中で、規格外と規格外による神々の戦いが始まってしまう。如何にトラージの船が優れていようとも迂闊に近づくものならば、多くの犠牲を出す事は必至。今や彼らの目標は、この戦いに巻き込まれぬよう、安全圏に脱する事となっていた。


「おーおー、派手にやってんなー。俺もあそこに交ぜてもらいたいもんだぜ」

「アズちゃん、およしなさいな。あれはまた次元の異なる戦いよ。私達竜王だって立ち寄ってはならない、恐らくは最高位に位置する者同士のもの――― まあ見学するだけならタダな訳だし、それで満足なさいな。たぶんこの戦い、今日を逃したらもう見られないレベルで凄いから!」

「もう! アズグラッドお兄様もサラフィアも、もっと緊張感を持って!」


 しかしながらその外野では、呑気に観戦を決め込む者達もいる訳で。氷竜王サラフィアと彼女に騎乗するアズグラッドに対して、同じく騎乗する幼い姿のシュトラが注意を促していた。


「ケルヴィンお兄ちゃん達から意思疎通で戦況を確認して、一応の避難は完了しつつあるけど、まだまだ予断を許さない状況なんだよ!?」

「ハハハッ! それは違うぞ、シュトラ! 俺達にどうにもできない戦いがそこにあるんなら、そいつを見ない手はねぇだろ! それが俺の糧となり、延いてはトライセンの糧となる!」

「も~! また馬鹿な事を言っているんだから……」

「まあまあ~。アズちゃんは考えなしが過ぎるけど、シュトラちゃんは逆に重く考え過ぎよ~。それに、今やれる仕事は十分にしているでしょ? シュトラちゃんの指示で全竜王が安全圏から周囲を囲って阻止しているから、あの戦いで生じる衝撃が各大陸に届く事はないわ。私が作った氷の堤防も、今のところ無事に機能しているみたいだしね♪」

「む~!」

「フフフ、不満気に頬を膨らませるシュトラちゃん、いつにも増して可愛いわね~。人の姿だったら、その柔らかなほっぺをつっついているところよ?」


 サラフィアの言葉を受けて、更に頬を膨らませるシュトラ。一見ふざけているようだが、念話を受け取ったシュトラはケルヴィン達を心から心配していた。しかし、自ら救援に向かうような事はしない。敵味方の戦力を鑑みて、行ったとしても足手まといにしかならないと判断したからだ。直接では力になれない、ならば戦いでは解決できない外堀を埋めようと、氷竜王であるサラフィアを始めとした雷竜王、水竜王、風竜王、闇竜王に助力を求め、外側にペンタゴンを形成。これにより、神々の戦いによる影響を最低限に抑え込んでいたのだ。


「でも、問題はお兄ちゃん達の戦いだけじゃないの。この世界自体が、確実に滅びに向かってる。もう私には祈る事しかできないけれど、お兄ちゃんならきっと―――」

「あん? なあおい、何かがこっちに近づいて来てねぇか?」

「途轍もなく強い気配ね。というか、速過ぎてお母さん吃驚しちゃう」

「も、も~! 一体何なの!?」


 折角の良い台詞の最中に割り込まれ、幼シュトラはすっかりプンスカモードだ。大人モードに戻った際に、さぞ赤面する事だろう。


「って、あれはセラお姉ちゃん? 私にも認識できるって事は、大分スピードは落としてるみたいだけど……」

「ハァ? あれで速度落としてんのかよ!? 豆粒みたいな距離だったのに、もう到着すっぞ?」


 シュトラが指摘する通り、セラは最高速度から大分落としてのスピードでこの場所へと迫っていた。神体であるメルフィーナと同等の力が備わったセラであれば、それこそ一瞬で到着する事ができる。しかし、それに伴って巻き起こるソニックブームの威力は甚大だ。セラはその辺りの事情を考慮して、今の速度で移動しているのだとシュトラは推測した。


『セラお姉ちゃん、どうしたの?』

『………』


 念話でのやり取りを試みるも、セラからの返答はなかった。


(あ、あれっ? 何だかセラお姉ちゃん、戦闘態勢じゃない……?)


 間近に迫って初めて分かる、セラの鬼気迫る表情。まるで敵に向けるような殺気を飛ばされ、思わずシュトラは固まってしまう。


『お、お姉ちゃん! ストップ、ストップー!』


 混乱の最中にそう念話を飛ばすも、セラはスピードも纏う雰囲気も変えてくれない。シュトラが考察する間もろくにないまま、魔人紅闘諍ブラッドスクリミッジ及び無邪気たる血戦妃クリムゾンアストレイアを展開して、容赦のない最大威力を叩き出す拳を振り上げていた。


「ス、ストッ、ぴゃあーーーーーー!?」


 距離がゼロになる寸前に出てしまった、シュトラの可愛らしくも変な叫び。そして、恐怖のあまり目を瞑ってしまう。


「あ、あれっ……?」


 当然ながら、その拳がシュトラに振り下ろされる事はなかった。シュトラも頭では理解していたものの、頭の回転が速過ぎる為に様々な可能性を思い描いてしまったようだ。では、セラが攻撃したものは? その解を得る為に、シュトラは閉じていた瞳を見開いた。


「ふいー、まさかこんなところに隠していたなんてね。本当に捻くれているんだから、参っちゃうわ! 今の私って極端な力になってるから、周りの配慮をするのにすっごく神経使うし!」


 声の方へと振り向く。シュトラの瞳に映ったのは、空中にて仁王立ちとキメ顔を決め込むセラの姿だった。先ほどまでの殺気は何処にいったのか、今はセラはいつもの天真爛漫な様子だ。


「セラお姉ちゃん、それって……」

「うん? ああ、これ? 神機の心臓ってやつよ」


 差し出されたセラの右手には、キューブ状になった鉄の塊らしきものが置かれてあった。


「それ、私達が捕縛したタイラントリグレス……?」

「そ! これも結局のところ、ジルドラの発明品なんでしょ? あいつ、これに神柱の心臓部を埋め込んでいたのよ。機竜を中核を構成していた重要パーツの一部が、まさか肉体外のゴーレムにあったなんてね。道理で機竜をいくら探しても、私の勘がうんともすんとも言わなかった訳よ!」

「……なるほど、そういう事だったのね」

「いや、どういう事だよ?」


 セラの掻い摘んだ説明にシュトラは完全に納得、一方でアズグラッドはさっぱりな様子だ。


「つかよ、アレがどうしたらそうなるんだよ。その物騒な両腕で、思いっ切り握り潰したのか?」

「あら、よく分かったわね!」

「うわ、そんな気なかったのに正解しちまった!」

「ちょっと貴女、あのゴーレムは変わった能力を持っていたみたいだけど、それはどうしたの?」

「どうしたもこうしたも、握り潰す瞬間に反抗してきたから命令しただけよ? 抵抗するな! ってね。っと、今は雑談してる時間なんてなかったんだった。じゃ、私戻るから!」


 手の平にあったキューブ状タイラントリグレス(鮮血ソース添え)をメキメキと握ったまま、ここへやって来た時以上のスピードで飛んで帰るセラ。シュトラ達は呆気に取られたまま、この場に残されるのであった。


「流石にあのレベルの奴らとは、喧嘩できねぇな(うずうず)」

「言葉の反応と心の反応が合ってないわよ、お兄様……」

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