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第548話 最後の修羅場

 ―――黒女神の神域


 『亜神操意』、MP最大値を消費せずに神の召喚を可能とする、召喚士として破格の固有スキルだ。トリスタンはこの力を使って神柱を大量に抱え込み、自身の配下として自由自在に操っていた。だがこのスキルはどこまでも万能という訳ではなく、適用範囲は下級の神までに定められている。それ以上の存在を召喚するとなると、喩え何らかの手段を用いて契約したとしても、MP最大値の消費はしっかりと行われる事となる。


 但し俺がこのスキルに期待しているのは、この効果ではない。オマケ程度に記載されている、その後の効果である。メルフィーナが取り纏めてくれた情報には、この能力についてこう記してあった。それ以上に高等な神には適用されないが、仮に契約できたとすれば、多少なり魔力消費を抑える程度の効果はある、と。そう、所持する召喚士に魔力消費抑制効果が付与されるのだ。


「あなた様は、メルフィーナを…… 神の本体を召喚するおつもりですか? そのような事は―――」

「―――俺の為に神にまでなってくれたお前が、できないなんて言葉を吐かないでくれよ? 前例がなくても無謀でも、成し遂げられるって事を示してくれたのはクロメル、お前自身なんだぞ」


 クロメルが吸収したのはあくまでもメルフィーナの義体、もっと言えば元々はエレアリスの体だったものだ。転生神であるメルフィーナの肉体ではない。メルフィーナが本物の体に戻らず、緊急避難場所として俺の魔力体として留まっているところから考えるに、戻れないよう細工はされているんだろう。なら、話は単純だ。こっちから行けないのなら、あっちから来てもらう。神としてのメルフィーナを召喚する事ができれば、存在が希薄になりつつある魔力体のメルフィーナは正式に肉体を得られるんだ。かなりの暴論だってのは分かってる。だが、やるしかない。


「………」


 クロメルは歯を食いしばりながら、そこから動こうとしなかった。召喚の邪魔をする気がないのか、俺がメルフィーナを召喚できるか、その真意を確かめたいのか。どちらにしても、俺がこの召喚を成功させなければ、もう敗北は必至。事前にメルフィーナの召喚なんて試してないし、正真正銘これが初めての試みだ。絶対に召喚させなければならない。


「……んー、違うか。食堂の椅子で出迎えるようなお前だもんな。もっとこう、肩の力を抜くくらいがちょうど良い」


 難しく考えるのを取り止め、まっさらな気持ちで召喚を行う。久し振りに恋人に会うようなってうおおおおおおお……! 全身から魔力がなくなってうわぁってなるぅぅぅ……!


 そんな感じで俺が凄まじく健康を害していると、知らぬ間に辺りが明るくなっていた。宇宙空間さながらなこの領域には似つかわしくない、温かく、それでいて優しい光が降り注いだのだ。ああ、俺はこの温もりを知っている。コレットであれば泣いて喜び鼻水その他諸々を垂れ流し、過呼吸かと思うほどに周囲の空気を吸うであろう、この感じ。目頭が熱い。今この時だけは、あの変態の気持ちも少しは分かるかもしれない。


「最後の敵は私自身、という事ですか。転生神メルフィーナ、こうして直接顔を合わせるのは初めてですね。どうですか、自分の暗黒面と対面したご感想は?」

「……ええ、そうですね。あれだけの事をされたというのに、それ自体には不思議と怒りが湧いてきません。が、私の最愛の人を傷付けたこの一点だけは、決して許せる事ではありませんよ」


 あいつは俺の前に立ち、クロメルと対峙していた。辺りを照らすこの蒼く優しい光は、間違いなくそこから発せられている。その姿はいつもと同じ、俺がよく見慣れたものだ。だというのに、こんなにも神々しく見えるのは、久しぶりにこの目で見た俺の幸福感がそうさせるんだろうか? ……まどろっこしい説明は、もういいだろう。メルフィーナが、俺が想い続けた女がそこにいた。


「あなた様、遂にやりましたね。当初からの目標の1つ、私の召喚――― ずっと、ずっと耐えて待った甲斐がありました。はなまるをあげちゃいます」


 一瞬振り向いて見せたメルの顔は、今まで見た事がないほどに満面の笑みだった。エフィルがどんなご馳走を用意したって、こんなにもメルが笑みをこぼれ落とした事はなかったんだ。やばい、嬉しい。


「転生神メルフィーナ、もう貴女の時代は終わったのです。潔く身を引いて頂きたいものですね」

「クロメル、でしたか? いいえ、弁えるのは貴女の方ですよ。と言いますか、ここまで来たのですから、もう本心を包み隠すのは止めましょう。貴女が心が本当に思う事を、私にぶつけてください。私もそれに応えますから。それとも、最愛の人に本心を聞かれるのは恥ずかしいですか?」

「……なるほど、覚悟は十分にできているようですね」

「ええ、もちろん。あなた様、ここからは私が引き受けます。かなり危ないと思いますのでお気を付けて」


 互いを威嚇するように純白と漆黒の翼をバサバサと広げ、同時に天使の輪をビカビカと光らせながら視線をぶつけ合う2人。たったそれだけの事で、この場が凄まじい重圧に支配される。情けない事に、俺程度では立つ事もままならない。魔力体として待機しているクロトも、酷く怯えている。


「「すぅ―――」」


 タイミングを合わせたかのように、メルフィーナとクロメルは大きく息を吸い出した。元々は同じ人格であるだけに、その仕草には殆ど差異がない。しかし、何でここで息を……?


「―――そこを離れなさい、メルフィーナ! その場所は私が長年夢見てきた、私が居るべき場所なのですっ! もうこれ以上、私は我慢をしません! 絶対に譲りませんっ! 神の座に胡坐をかいていただけの貴女は、彼に相応しくないっ!」

「―――そう言われて引く女なのですか、貴女は!? 生憎と私個人は執念深い女なのです! どこまでも諦めが悪い女ですっ! 貴女が世界一想っていたとしても、私は更にその上をいくっ! 相応しくなかろうと、欲深くそこに居続けるのが私でしょうにっ!」


 包み隠す事のない本心と本心の応酬、ぶつけ合い、殴り合い。2人の叫びが発せられると、その声量で大気が歪み、正面を向いていられないくらいの圧が飛んで来た。物理的に凄まじい力が実際に働いているんだろうが、俺の場合、熱く重い愛をぶつけられてそれ以上に強く感じているんだと思う。今更ながらに、あれ、これって修羅場? と、並列思考の一部が考えてしまうんだ。


 それにしたって、舌戦の時点でこの威力だ。神同士の本気の戦い、本格的に始まったら一体どうなってしまうんだ? おかしい、体が震える。戦いに恐怖を感じるのは、ゴルディアーナ一派に迫られて以来の体験だ。


「よろしい、上等ですよ。貴女は私自らの手で消して差し上げます。正妻は、いえ、妻は私だけで十分なのですから……!」

「あら、余裕が見受けられませんね。いくら恋人を増やそうとも、正妻は私であるという自負と自信が足りてないのではありませんか? ええ、相手をしますとも。私が私であるが為に……!」


 2人が言葉で殴り合いをする度に、その間に俺が挟まれているような錯覚を覚える。不思議だ、全く以って不思議だ……!


 そんな錯覚はさて置き、聖槍が破損してしまった今、2人に得物らしい得物はなく、互いに素手の状態だ。これからどんな戦いが繰り広げられるのか、不謹慎ながらワクワクしてしまっている自分がいる。うん、不謹慎だと自負しているのだから、その辺りは許してほしい。


「「あなた様の隣に立つのは、私っ!」」


 こうして始まったのは、神同士による壮大な――― 素手喧嘩ステゴロだった。

お盆時期、色々と予定が立て込みまして

2、3日ほど黒と黒鉄の更新をストップするかもしれません。

正確な日取りが決まりましたら、追ってまたご連絡致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] やばい クソおもしろい
[一言] 女神の女神によるケルヴィンのためのステゴロ
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