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第525話 交差する光

 ―――戦艦エルピス


 これまで幾度となく目を見開いてみせたリオルドであったが、驚愕、という意味で見開いたのは、この時が初めての事だった。両目だけでなく、体中の目がミストの方へと向いて硬直している。そして、勝利の算段を誰よりも立てていたアンジェが、この瞬間を逃す筈がなかった。


 負傷した身であれど、今のアンジェが出せる最速へと一気に速度を上げる。そんなアンジェと相談もなしに合わせられたのは、長年の付き合いのあるベルだからこそ。彼女はアンジェの意図を逸早く察し、最大限に支援する為に魔法を詠唱する。


風神脚ソニックアクセラレート!」


 リオルドの魔眼によって解除され続けた補助魔法は、この瞬間に花開きアンジェの支えとなった。これまで確認しただけでも、リオルドの魔眼の数は37にも及んでいる。如何にアンジェといえども、それら魔眼を全て潰すのは至難の業だ。だが、握り締めた凶剣カーネイジは羽毛のように軽く、今ならば親友の助けも借りられる。腕が片方ない? だから何だ! この瞬間に全てを捧げると覚悟したアンジェは、この時確かに世界最速となっていた。


「―――っ!?」


 気合いからの叫びとか、そんなものは何もなかった。ただ淡々と、無言のままに処理を行う。37の魔眼をほぼ同時に得物で突き刺し、深く抉り、猛毒を送り込む。不意打ちと判定された事で、アンジェの『凶手の一撃』が発動。寝首を掻いたその全ての攻撃が会心の一撃となって、それまでほぼ無傷であったリオルドに大打撃を与えるのであった。潰されたのは両目も例外ではなく、片眼鏡の割れる音が一層際立つ。


風切りの蒼剣グラディウスアイレ!」

「封刻印の神札!」


 ベルが高らかに上げた片脚に、空気を響かせ唸りを上げる蒼き風の剣が携えられる。バスタードソードを持って駆け出したミストも、どこから取り出したのか札のようなものを放ち、それらをここにいる全ての者に貼り付かせた。いつもであれば迂闊に札を寄せ付けないであろうアンジェとベルも、今ばかりはそこまで気を配る余力がない。ただ札が2人に貼り付いた瞬間、それが自身に大きな力を与えてくれるのを感じていた。


(体が、重いっ……!?)


 札を付けられたのは、目を失ったリオルドも同様だ。但し、その効力はアンジェやベルが受けているものとは真逆だったようで、体が鉛のように重くなる。失った視力と行動力の低下は、リオルドに更なる隙をもたらした。


「ハァッ!」


 リオルドの左肩から心臓に迫るようにして振り落とされた、ベルの風切りの蒼剣グラディウスアイレ。攻撃を拒もうとするリオルドの肉体を断ち切り、深く、より深くへ進もうとしている。切り裂く毎に怒涛の疾風が辺りに舞い、同時にベルの脚にもダメージを与える諸刃の剣は、それでも尚引く様子を見せなかった。


「どうやら少しだけ、リオには非情さが足りなかったようね。ケルヴィンさんなら一目で見抜いて、私の首を刈り取っていたところよ?」


 ベルの風に吹き飛ばされぬよう、ミストは片方のバスタードソードでリオルドの腹部を突き刺し、もう片方で右腕を狙った。バスタードソードを叩き付け、バキバキと右腕をあらぬ方向へと曲げ、ぐりぐりと腹部に捻じ込ませる。


「前菜、頂きますっ!」


 一仕事した後の一杯を飲み干すように、アンジェが漸く言葉を発した。リオルドの足元にいた彼女は早業で足の腱を切り裂き、念願の首の二つを頂く。それによりバランスを崩したリオルドは―――


「ああ、その調子だ! 勝利は目前だぞっ!」


 ―――笑っていた。ある筈の痛みを表情に一切出さず、らしくもなく大声で猛っていた。


「だが、こんなものではまだやれないなぁ!」


 傷だらけの体から顕現する、新たなる魔眼。傷の隙間を縫う様にして現れた為か、その数は3つと少ない。


「ぐっ!?」

「かはっ……!」

「あっ……!」


 だが3人との間合いは殆どゼロ距離に近く、『熱視眼』から放たれたレーザービームが全員に直撃。致命傷には至らなかったものの、貫通した攻撃によって再び距離を離されてしまう。


「さあ、これで振り出しかな!? 戦況は互角、勝負はここからだねぇ!」

「フッ、フハハハハハ! いいや、ここまでだ、リオルドよっ!」


 ミストであったそれが正体を現し、姿形を変化させる。やがてミストは獣王レオンハルトとなり、彼はありのままに笑い出した。


 ―――バァン!


 同時にこの空間の天井部が破壊されて、そこより新たな気配が出現。3人を熱視眼で捕捉したまま、リオルドは潰れた眼で上を向き、その存在を確認しようとした。


「ううっ、自分の黒歴史がここまで酷いなんて、顔から火が出てしまいそうですぅ……!」


 そこにいたのは、白き杖『極楽天シオン』を掲げた本物のエストリアだった。シスターの服装を纏って顔を真っ赤にしていて、とても恥ずかしそうな様子だ。まるで羞恥心を魔力に変えているかのようだが、極楽天シオンが力に変えるのはもっと別のものである。彼女の杖には呆れるほどの魔力が集束していて、今にも暴発してしまうそうになっていた。


「で、ですが、これもジェラールさんの為! 私、りますっ!」

「ハハッ! なるほど、こっちが本物のエストリア君かっ! 良いね、1つ勝負といこうか!」


 互いの殺気の交差、次いで攻撃が放たれた。


「セ、救済の罰光セルベイションレイ~~~!」

「うおおおおっ!」


 降り注ぐ光の雨に対し、潰されたひたいの横から新たな魔眼を顕現させるリオルド。そこより撃つは、熱視眼による極大のレーザービームだった。エストリアが放つ攻撃は心臓部の機材に止めを刺す、辺り一面に撃ち続けられる広範囲型の無差別攻撃。リオルドは自身に被害が及ぶであろう攻撃を阻止していたが、とてもではないが額の魔眼だけで処理し切れる量ではなかった。遂には先に出していた3つの魔眼までもを運用して、エストリアに対抗する。


「愛はっ、愛は勝つんですぅ~~~!」

「ならば、力を示してみせろっ!」


 光と光が衝突し、拮抗。威力と数がほぼ同じである攻撃の応酬がこのまま延々と続くようにも思えたが、実のところはそうではない。リオルドの体からは新たな魔眼が顕現し始めており、新たな熱視眼、もしくは他の能力を有した魔眼が誕生するところだったのだ。このままではエストリアは押し負ける。そんな光景が実現する間際に、リオルドの首に何かが刺さった。


「ハァ、ハァ…… ギルド長の、首っ、つまみ食い程度に頂きますね……!」

「アンジェ、君……!」


 リオルドの首に刺さったのは、倒れたアンジェが最後の力を振り絞って投擲したナイフだった。その柄の部分にあったのは起爆符。リオルドがこのナイフを目にした時、この起爆符は爆発する寸前だった。


 ―――ボン!


 それは今までの戦闘中に起きた爆発の中では規模が小さく、威力にしてみれば些細なものでしかない。だが、無防備なリオルドの首半分を吹き飛ばすには十分な威力だった。


「あああっ! 吹っき飛べぇ~~~!」


 リオルドの迎撃の手が弱まった瞬間、それを感じ取ったエストリアが最後の仕上げに取り掛かる。極楽天シオンに己の淫らな想いを紡ぎ、莫大な魔力に変えて畳掛けたのだ。光の雨は本日最大級のスコールとなって降り注ぎ、アンジェら仲間の存在をも忘れて全てを破壊した。

今日はコミカライズ版の更新日!

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