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第498話 究極の生命

 ―――戦艦エルピス


「―――私の願いは、ジルドラさんを蘇らせる事ですっ! 彼にはそれだけの価値があります!」


 高らかに腕を振り上げたトリスタンが、リオルドに向かってそう宣言する。死者の復活、通常であれば絶対に不可能とされる奇跡も、転生術の力を持ったクロメルならば確かに可能である。仲間は生きたまま有効活用する。そうトリスタンに呪縛を与えた当人であるシュトラも、流石にこうなる事は予想していなかっただろう。


「創造者の復活か。反魂者がいなくなってしまった今となっては、それはかなり大それた事になりそうだね。それで、クロメルには何と願ったんだい? 以前の彼は若い男の姿だったが、その時の姿で復活させるのかい?」

「いえいえ、そのような勿体ない事は致しません。私が欲しいのは生きたジルドラさんであって、勝手に行動するような方では困るのです。あくまで、私の支配下・・・・・にいてくれないと」

「……ふむ。詰まり?」

「解析者なら、もう私の心内なんて読み切っているでしょうに。わざわざ私の口から聞き出したいのですか? だとすれば、ふふっ。実に喜ばしい事ですねぇ」

「そういう事だと理解してくれて構わないよ。それで、教えてくれるのかい?」


 リオルドはトリスタンという狂人を正しく理解している。あの芝居がかった立ち振舞いは、何も悪ふざけで行っているのではない。彼はそうでもしないと、人間らしく振舞う事ができないのだ。歪んだ思想、人を人と思わない極端な価値観、生まれながらに持ったそれらの異常性を可能な限り排除する為、人であろうと文字通り演技するようになったのが、彼のそもそもの始まりだった。せめて、演じていられるその時だけは人間らしく。しかしどの段階で道を誤ったのか、トリスタンが演じている人物自体が既に狂人のそれであり、とても一般的な思考を持っているとは思えないものと化していた。


(ああ、彼の弟には勘当された殺人鬼がいたんだったか。名は確か…… そう、カシェル君だ。彼は私の目論見通り、犬死寸前だった黒風の残党、ゴルディアの修行から逃げ出した負け犬を引き連れて、ケルヴィン君の良い噛ませ犬になってくれたっけ。今となっては懐かしい思い出だね。しかし兄弟揃って狂っているとは、ファーゼ家は呪いにでも掛けられているのかな?)


 リオルドは全てを知っていた。全てを知っていながら、それさえも利用し仕組んでいた。なぜならば、その行為こそが彼に課せられた使命であり、彼の願いにも繋がるものだったから。クロメルからの命令は、普通では生き残れないであろう試練をケルヴィンに与え続ける事。もうその立場に復帰できなくはあるが、リオルドはこの結果に大よそ満足しているようだった。


「承知致しました。では、僭越ながら私がお教え致しましょう。何を隠そう、ジルドラさんはもう復活されているのです! それも、この研究所内にいます!」


 両腕を広げるトリスタン。しかし、その声に反応する者がいる訳でもなく、周辺機器から放たれる電子音が静寂の中に響くだけだった。


「……ほう、やはり一大事だったね」


 自分の反応を待っている事に気付き、気を使ってリオルドがそう返答する。


「些かリアクションに不満が残りますが、まあ良いでしょう。ジルドラさんが蘇った先の体は、戦死される以前に用意されていた人造の人体…… ジルドラさんのオリジナル、元々の体をベースにして作られたものです。何の為に用意されていたのかは推測の域を出ませんが、まあ大よそは私の考えている通りでしょう」

「もう復活しているのなら、本人に確認すれば良いのではないかね?」

「ふふっ、解析者はなかなか意地悪ですね。それができないと、分からない貴方ではないでしょうに」


 トリスタンが研究所の奥の方へと向き直る。


「これは昔、ジルドラさんから直接聞いた話なのですが…… ジルドラさんの願いはこの世の何者にも敗北する事のない、究極の生命を創造する事だったそうです。ルーツを辿れば彼は研究者でも科学者でもなく、純粋に強さを求める探求者。その根っ子にある部分が、ジルドラさんを動かしていたんだと思います」

「君は使徒となる以前から、創造者と親交があったんだったね。彼がそこまで心を許すなんて、とても珍しい事だ」

「心を許すなんて、そのような事は決してありませんよ。私もジルドラさんも、己が為に利用し合っていただけですから…… 尤も、今は私の支配下にありますが」


 研究所の奥、闇の中にて2つの鋭い眼光に光が灯された。


「……君が起こしたのかい?」

「ええ、どうやら実験は成功のようです。ジルドラさんの体はコアとして、上手い具合に同調しました。これで彼の意思とは関係なく、これまで積み上げてきた知識を、野望の為に準備してきた全てを、私が思うがままに扱う事ができます。ああ、やはり仲間は生きたまま役立たせるのが最上だ。かけがえのない、貴重な資源ですからね!」

「ふぅむ…… これ、間接的に創造者の願いも叶えているのかな? 神となるクロメルは抜きにしても、地上においてこれ以上の生命は存在しないんじゃないかい?」

「解析者にそう言って頂けると心強いですが、どうでしょうなぁ。地上には最強と謳われるゴルディアーナが、使徒中最高の戦闘力を持った守護者がいますから。何よりも、彼らの底力は侮れない。侮ってはならない。転生する為の手段だったとはいえ、一度殺されていますからね、私」


 自傷的な笑いなのに、トリスタンの声色は随分と明るい。新しい玩具を手に入れて喜ぶ子供のように、その目は酷く無垢だった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ―――ガウン・とある僻地


「「―――んっ?」」


 同時に何かを感知したような声を上げたのは、人気ひとけのないガウンの僻地にて壮絶な激戦を演じていた『桃鬼』ゴルディアーナ、『守護者』セルジュの2人だった。


 広く生い茂った森の中心にぽっかりと空いた、見通しの良いこの空間。ここはかつて、突如として現れた巨人によって荒らされた経緯があり、押し倒された木々達の墓場と呼ばれている。人里から離れており、凶悪な巨人が出現した忌み嫌われる場所とされている為、獣人達は決して近づこうとしない訳ありの場所だ。しかし、2人にとっては好都合な場所でもあった。ガウン領内において、これほど人目に触れないであろう場所はそうないからだ。


 最強と最強、人々からそう呼ばれる2人が顔を合わせて、何も起こらない筈がない。彼女らは直観的に互いの強さを読み取り、自らの鍛錬に最も適した人物であると答えを出した。それ以上の言葉はいらず、それからは手合わせの日々を送っていたのだ。ちなみに一緒していたシスター・エレンは、少し離れた場所で昼食の支度中である。


「今、どこかで噂された気がしなかった?」

「したしたぁ、すっごくされた気がしたわん! 有名税って奴なのかしらねぇ。美し過ぎるが故にぃ、可憐な乙女は常に噂の的になってしまうものだからん」


 そして、2人は結構気が合っていた。性別の趣味趣向があべこべな彼女らだからこそ、分かり合える部分があるのかもしれない。


「私としては、見た目よりもプリティアちゃんの強さの方にビックリしたんだけどなー。何で私と互角に戦えちゃってるの? 本当に人間?」

「あらあらぁ、唯の超人よぉ。でもん、容姿よりも中身を先に見てくれるなんて嬉しいわん。皆、最初はどうしてもこの美にぃ! 釘付けになっちゃうものだからねん。それにぃ、私の方こそ驚きの連続よぉ! 慈愛溢れる天の雌牛ローズイシュタル最終形態ファイナルエディションを以ってしても互角なんてぇ」

「あー、あれ凄かったよー! 何かもう…… 凄かったよー!」

「うふっ、シンプルに褒められるのも嫌いではないわぁ。フーちゃんだって、あらゆる武具を自由自在に扱っていたじゃなーい。私、あんなに苦戦したのはセラちゃん以来の事だったわん」

「2人とも~! そろそろお昼の時間ですよ~!」


 木々の間からシスター・エレンがひょっこりと顔を出して、2人に食事の時間を告げる。すると、2人は意気揚々と同時に振り返った。


「あ、はーい!」

「うふん、今行くわよぉ~」


 ホップステップと乙女走り、だというのに信じられない速度で、2人は昼食場所へとルンルン気分で向かうのであった。

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