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第454話 巫女はいつの時代もこんなもんだよ

 天使とデラミスの巫女、運命の出会いから数分。教徒達から崇拝される聖女の息遣いは荒く、これでも大分マシになった方ではあるが、やはりちょっと気になるレベルで荒かった。


「ふう、ふう…… も、もう大丈夫です。ご迷惑をお掛けしました」

「いや、まあ、うん……」

「お、落ち着いたようで何よりですね……」


 デラミス大聖堂内にある、セシリア専用の個室。そこに案内されたケルヴィンとメルフィーナはソファに座り、対面に座った興奮冷めやらぬ様子のセシリアに正直引いていた。戦闘狂いと食事狂いも、ストレートな変態には耐性がないようである。舞桜は申し訳なさそうな表情を浮かべながら、最後にセシリアの隣に座る。


「え、えっとですね、改めて俺も自己紹介しますね! 俺の名前は佐伯舞桜って言います。さっきセシリアから紹介されましたけど、こんなんでも勇者なんですよー。いやー、参っちゃいましたね、ええ!」


 気を遣ってなのか、舞桜がぎこちない仕草で自己紹介をし始めた。巫女の熱気で微妙な空気になってしまったこの場を、無理に和まそうとしているらしい。ただ、彼もそんな役割には慣れていないようで、話し方が非常に不自然であった。


 こんな特殊な雰囲気になってしまったのには理由がある。ああ、そうだ。今も、瞼を瞑れば脳裏に蘇る。拳を上げて舞い上がったセシリアは、まるでスローモーション映像であるかのようにふわりふわりと飛翔して、その背中に白き翼があるかの如くかなりの距離を置いて着地した。次いで大聖堂内に溢れるのは、天使であるメルフィーナを歓迎する聖女の声。歓喜であったり奇声であったり、兎に角自分で制御できない感じだったのだ。素の顔がとても可愛らしいものだっただけに、そのギャップにケルヴィン達は心打たれてしまった。勿論、悪い意味で。


 だが、勇者に気を遣わせておいて、こちらが苦笑いだけで済ます訳にもいかない。勇者とパーティを組み、魔王を倒し、あわよくば勇者とも手合わせする為にも。


「あ、それなら私の方からも、改めて――― ケルヴィンと言います。メルフィーナは天使ですが、私は人間です。一応、こいつの夫をやってます」

「えっ? と言うと、ご結婚されて?」

「うふふ。改めて耳にすると、なかなか新鮮なものですね。まだ新婚なのですが…… 妻です♪」

「はー、新婚さんでしたか。見たところ、ケルヴィンさんは俺と同世代だというのに。それも、こんな綺麗な天使様と結婚とは凄いですね! 独り身としては羨ましい限りですよ。いえ、本当に」

「はっはっは、何を言いますか。勇者様も精悍な顔をされているじゃないですか。ガタイも良いし、身の回りの女性が放っておかないのでは?」

「いやいやいや! 俺なんて本当に駄目で!」

「「またまたー」」


 微妙な空気が一転して、和気あいあいとした和やかなものとなる。照れ顔のメルフィーナに、悪戯顔のケルヴィン、そして謙虚な様子の舞桜。とても優しい時間である。


 ―――しかし、忘れてはならない。この場にはもう1人、重要人物がいるという事を。


「あ、あの、天使様は…… 本当にケルヴィン様とご結婚、されて……?」


 プルプルと全身を震わせるセシリアが、メルフィーナに虚ろな目をしながら問い出した。何かを感じたのか、優しい時間を享受していた3人の頬に冷たい汗が流れ出す。メルフィーナはできるだけ自然な表情を心掛けて、笑顔を作り出した。


「え、ええ。間違いありませんよ」

「な、何という事でしょうか……! エレアリス様の使徒たる天使様が、我々人間の1人とご結婚されていただなんて…… なんて、なんて―――」

「セ、セシリア? ちょっと落ち着こう。深呼吸、まずは深呼吸が大切ですよ」


 舞桜が震えるセシリアの肩に手を置こうとしたが、それよりも早くに彼女はソファから立ち上がり、拳を天に突き出した。


「―――なんて素晴らしき事でしょうか! 異なる種族が手を取り合い、弊害にも負けずに自らの愛を貫き通す! おお、神よ! イッツアメージング! 我々は、より愛の真理に近づきましたっ! それもこれも、転生神エレアリス様の思し召し! この世界は光に満ちていたぁ! イエェェーース!」

「「「………」」」


 固まる。雰囲気と共に、時までもが固まる。


「……ふう、今ので大分信仰心を発散できました。申し訳ありませんね、度々驚かせてしまいまして。私、時々こうして溜め込んだ信仰心を出さないと、どうにも昂ってしまう性質(たち)でして。ついさっき出したばかりですのに、何ともお恥ずかしい。やはり、御二人との運命的な出会いに影響されているようです」

「あ、いえ……」

「く、癖とは人それぞれなところがありますからね。ええ……」

「いや、本当に申し訳ない…… 巫女様はその、ちょっと人よりも信仰心が強くって……」


 セシリアが落ち着いたところで、ケルヴィン達はこの場所を訪れた理由を話した。メルフィーナは地上に降りた数少ない天使の1人であり、勇者召喚の報を受け共に魔王を打倒せんとして、夫と共に立ち上がったのだと。転生神エレアリスに仕える者同士、ここは協力すべきだと思い馳せ参じたのだと。尤もらしいお題目を並べて、迫真の演技を用いつつ話したのだ。目的は魔王の討伐と一致しているので、まあ嘘は言ってない。


「な、何と崇高な志なのでしょうか……! 不肖、このセシリア、いたく感動致しました……!」

「俺もです。まさか、危険でしかない旅に同行してくれる人達がいるなんて…… 本当に嬉しいです!」


 普通に感動され、感謝されてしまう。あまりにも簡単に信じられてしまったので、ケルヴィンとメルフィーナは思わず顔を見合わせてしまった。


(おい、マジで信じちゃったぞ。逆に先行き不安なんだけど!?)

(デラミスの巫女も勇者も、代々こんな感じらしいですから…… 崇拝する神の関係者は病的に信頼しちゃいますし、勇者も純粋な者達が多かったと記録にあります。例外もあるでしょうが、セシリアと舞桜はその限りだったんでしょうね)

(そ、そうなのか…… メルフィーナが天使だと分かって、無条件で信頼関係構築ってか。パーティを組むなら、俺達がしっかりしないと駄目そうだな……)

(そのパターンでしょうね。頑張りましょう!)


 夫婦による以心伝心アイコンタクト、終了。


「ふふっ、どうやら舞桜も興奮が隠せないようですね。それも仕方ありません。勇者は舞桜ただ1人でしたから」

「あら? 他にパーティを組まれる方は、いらっしゃらなかったのですか?」

「勇者としては、そうなりますね。先代の勇者は複数人が召喚される場合が多かったのですが、そうなると力が分散してしまうので、私の代では単独の召喚方式にしました」


 セシリアが勇者の召喚について簡単に説明する。


「なるほど、召喚にも色々とあるんですね。しかしながら、魔王を相手に1人旅というのは、いくら勇者様が強くとも辛いものでは?」

「分かっております。当初不足するであろう人手は、騎士団から精鋭を抜擢して補助に回らせようと考えていたのです。ただ、今となってはその必要もなくなりました。メルフィーナ様、ケルヴィン様、私からもお願い致します。どうか、舞桜の旅路に同行してくださいませんか?」


 深々と頭を下げるセシリアと、それに続いて頭を下げる舞桜に返す答え。当然、それはもう決まっていた。

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