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第394話 黒の書

 ―――魔王城・議場


 ベルに連れられて部屋に入る。立派で髑髏意匠な長テーブルに、これまた立派で髑髏意匠な椅子がずらり。会議室とかそんな感じの部屋かな。分厚い壁には防音が施されているっぽいし、ここなら内緒話には最適だろう。


「適当に座りなさいな。水はセルフでどうぞ」


 水が入っているらしいポットとコップがテーブルの上に幾つか置いてある。マジックアイテム、かな? 微弱ながら魔力の形跡を感じる。お、冷え冷えだ。それに、重さはないのに幾らでも出てきそうだ。保管機能を使ってポットに水を入れているのか。贅沢な使い方だな。


「私の分もね」

「セルフじゃなかったのかよ…… ほら」

「ありがと」


 ベルの分もコップに水を注いでやり、対面の席に座る。さて。


「それで、黒の書について教えてくれるんだったか? 代行者がエレアリスを復活させる為に使っているとかいう」

「ええ、そうよ。ちなみに、貴方はどれくらい知っていたかしら?」

「どれくらいと言ってもな……」


 正直なところ、黒の書が一体何なのかまではまるで知らない。対象を魔王にしてしまう曰く付きの代物、エレアリスが復活する特殊な魔力の元となる魔力回収機――― 義体のメルフィーナが喋れないって事から、知ってはいけないような禁忌に当たる事柄だと推測はできる。


 俺は頭に浮かび上がったそれらを大雑把にベルに話した。


「うん。少なくとも、貴方の考えは大方間違ってはいないわね。黒の書は周期的に姿を変えて出現して、力ある者を魔王にしてしまう。パパの時は敵の城を落とした時に押収した宝の山の中に、ゼルの時はそのまま書の形で現れたんだったかしら? アンジェの調査じゃ、ゼルは意外と読書家だったらしいからね。ま、妥当かしら」


 その辺の血はシュトラにも引き継がれているな。屋敷の私室とか、ヌイグルミの次に多いのは本だ。それも難解過ぎて俺は読めないレベルのものばかりだった。 ……アズグラッドやタブラとか、他の兄達がそういうタイプじゃない分、シュトラにばかり遺伝したとか?


「それと、魔力回収機って言い回しは言い得て妙ね。それも正解。前の転生神であったエレアリスが、封印されて今どんな状況に置かれているかまでは、私も知らされてない。けど、この世界の神であっただけに、そこいらの魔力じゃどれだけ集めたとしてもてんで足りないの。魔力馬鹿なケルヴィンが全力を出してもメルフィーナの本体を召喚できないように、ね」

「そのロジックじゃ、俺がいくら頑張っても一生メルを召喚できなくなるな……」

「そう悲観しないでよ。今も元気に女神してるメルフィーナの本体と、封印されて安否も所在も分からないエレアリスじゃ、同じ神でも降臨させるに必要な魔力量が違うでしょ。これは私の勘も混じっているけど、たぶんエレアリスよりは楽だと思うわよ?」

「それは心強い助言だな」


 今のところ、セラやベルの勘が外れた例はない。俺はその言葉を信じて努力するしかないか。


「話を戻すわよ。神を復活させる為に、代行者が目を付けたのが例の黒の書だったの。ここからが義体じゃ話せない内容になるから、無暗に口外しない事ね。恐らくは、メルフィーナもあまり知られたくない内容でしょうから」

「ああ、分かってるよ」


 もとから他人に話す気はないし、メルが嫌がるなら尚更だ。


「『邪神の心臓』には、遥か昔に封印された邪神が眠っている。神々との戦争で邪神は負けはしたけど、その力は神々と同等だった――― よくある伝説の定番のようなお伽話だけど、これって本当にあった話らしいわ。実際に、聖域の外にある大空洞は歪な魔力で溢れていたし」

「ノンフィクションかよ。今まで聞き流していたけどさ、邪神って何なんだ?」

「元々は神の1人だったとか、悪魔達の大元となる大悪魔だとか、神々が誤って作ってしまった生命体だとか、色々と逸話があるわね。まあ、私も邪神が何なのかまでは知らないわ。この世界ができる神話の頃の話だし」


 知らないんかい。いや、そこはあまり重要ではないのか?


「兎も角、邪神は神々にとって目の上のたんこぶなのよ。争った時にいくつか世界を崩壊させたとか、神々側にも被害があったらしくてね。その上、邪神を完全に滅ぼす手段が神々にはなかった」

「世界の崩壊とかスケールでかいな…… 神でも無理だったのか?」

「下界に墜ちた邪神に直接手を出す事ができなかったらしいわ。ほら、メルフィーナも義体じゃないと下界に来れないでしょ? そんな感じでしょ、ニュアンス的には」


 そこ、義体ルール適用されるんすね。まあ、神話とか曖昧な話も多いし、本当かはどうでもいい話か。


「だから、神々は邪神にその時に可能だった最高の封印を施した。その跡が邪神の心臓と呼ばれる大空洞になったそうよ。ホント、大掛かりな封印よね」

「封印か、封印――― 大空洞ができる封印って、最早攻撃になるんじゃないか?」

「………」

「………」

「―――封印は、邪神を封じるには十分なものだった」


 あ、スルーされた。


「だけど、邪神には特殊な性質があったの。悪意や怨念、そういった負のエネルギーを世界から吸い出して、自分のものとする力。刹那の時間では破れない封印も、数十年数百年ともなれば侮れない力になる。当時の神々は邪神のその性質をまだ知らなくて、封印から暫く経った後にモンスターから悪影響が出た事で、漸く事の重大さに気が付いた。凶暴で凶悪な奴らが頻繁に、それこそ我が物顔で人間の街を襲うようになってからね。それでも、前述の通り神々は直接モンスターに手を下す事ができない。デラミスの巫女と異世界の勇者はこの辺りから生まれたとか、そんな小事があってこの場は乗り越えたようね。ま、対応が遅れた分、人間の半分は死んじゃったみたいだけど」


 小事じゃなくて大事だよね、それ。しかし、巫女と勇者のルーツでもあるのか、この話。


「でも、それは所詮その場凌ぎの対策にしかならなかった。強力なモンスターは次々に現れるし、邪神の心臓には負のエネルギーが次々と流入していった。神々は苦心しながらあれこれ考えたそうよ。それで遂に考え付いたのが―――」

「―――黒の書、か?」

「あら、知ってたの?」

「いや、話の流れから何となくそうかなって」

「ふーん、察しが良いわね。黒の書は曰く付きのアイテムでも、呪われし冒涜的な代物でもないわ。神々自らが作り出した、邪神の封印を促進させる為の神器よ。モンスターの凶暴化が起きるのは、邪神が世界から吸い出した負の力が蓄積してしまったから。それならば、邪神に向かう筈の負のエネルギーを黒の書を持つ者に集約させて、解放と同時にエネルギーを負から正へと裏返させれば良い。黒の書は封印された邪神からさえも溜め込んだ負の力を吸い出して、世界の危機を救った。邪気のせいか書を持つ対象には『天魔波旬』なんて悪影響が出ちゃったけど、それは勇者の異世界による力が解決した。黒の書は世界の汚染の度合いから周期的に下界へ現れるように設定されているから、邪神がいくら待とうと復活するに足りる力は永遠に回って来ない」

「魔王となった者を生贄にして、世界が救われる。 ……そういう事か?」

「そうよ。一応、黒の書は負のエネルギーを集めやすい者、詰まり巨悪になり得る者を選定するらしいけど、こればかりは実際どうなのか分からないわね」

「………」


 メルフィーナが昔言っていたっけな。魔王の出現は覆す事のできない、自然現象のようなものだと。そうか、メルフィーナはあの時、これを言っていたのか……


「……これも一応、言っておくわね。黒の書を使ったこの世界の営みは、メルフィーナが神として就任するずっと以前から行われてきた事よ。エレアリスの時だって、その前の神だってね。古の神々が取り決めた絶対のルールだから、今の転生神はこれを曲げる事ができない。 ……だから、そんな難しい顔をしなくてもいいのよ」

「ああ、悪い。そんな顔をしていたか? 大丈夫だ、続けてくれ」


 これでも未来の旦那さんだ。メルフィーナを支える。その気持ちは絶対に変わらない。ただ、自由に振舞っていた裏側での想いを考えると、ちょっと心苦しく感じてしまった。

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