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第350話 研究班の成果

 ―――ドクトリア王国・仮拠点


「ご覧ください。これが転移門を解析、改変した我々の血と汗と信仰心の結晶です」

「色々と混じってんのな……」


 信者に説法を説くように、高らかに宣言したコレットが手を向けた先。そこにはコンクリート色の鳥居を思わせる大小の転移門が立ち並んでいた。大きい方はこれまで目にした転移門と同程度、5メートルはありそうだ。こちらは見上げるまでに高いが、逆に小さい方の転移門は家の扉ほどしかなく、かなりコンパクトになっていた。


 ゲートを発生させる門だけでなく、使用者を認識する台座にも差異がある。前者が見た目からして重々しい石の台座、後者が手に収まるスマートフォンサイズで軽々としているのだ。これまで結構な数の転移門を見てきたが、どれもが大きい門と類似したものだった。一方でこの小さな門は実に新鮮味に溢れている。


「食事を運ぶ際に拝見しましたが、こちらの小型に時間をかけていたようですね」

「そう、そうなのよ! 流石はエフィルの目利き力ね!」

「い、いえ、ありがとうございます?」


 目利きはあまり関係ない気がする。そんな風に心の中までにツッコミを留めていると、仮の肩書ではあるが研究班主任のシュトラが指し棒を取り出して前に出始めた。どうやらこの転移門について解説してくれるようなのだが、恰好がいつものドレスから様変わりしている。セラから借りたのか、伊達眼鏡とサイズの合わぬダブダブな白衣を着ているのだ。あの指し棒もどこかで見た事があるかと思えば、学校などで教鞭を執る時に使うアレか。格好から入る徹底ぶりに変に感心してしまう。まあ、十中八九セラの影響だろうけど。


「説明するとね、この小さな門は私たちが内部に張り巡らされた紋章を解析、改変する事で実現できた転移門の携帯型なの」

「携帯型?」


 むむ、思っていたよりも凄そうだぞ。携帯型っていうと、某国民的青い狸が出してくれるチートアイテムの1つみたいなものだろうか? いや、冷静になって考えてみれば、あの扉の機能は何の制限、触媒もなしに何度でもどこでも使える代物。それでは明らかに神出鬼没も大概にしろなレベルだし、何かしらの制限があると見た。


「従来の転移門との大きな違いは、より小さく、より少ない魔力でゲートの起動を可能にした規模の縮小化ね。サイズダウンに伴うゲートの展開を限定する事で、安定した魔力供給を行えるようになったの。一番の鬼門は重なり合う紋章の反発を抑えつつ効力を維持する事だったかな。でもそこは、セラお姉ちゃんの大胆な発想が生み出したレイヤー構造を―――」

「ま、待て待て、凄いのはよく分かった!」


 語り出したシュトラの口が止まらない。特に門の仕組みに話が差し掛かった辺りで瞳が一層輝き出したので、これは無理にでも止めねば今日中に終わらないと直感的に分かってしまった。


「あ、あー…… シュトラが苦労したポイントとかはさ、ジェラールが後でじっくりたっぷり高説願いたいそうだ。だから今は門の機能に絞って教えてくれ」

「そう? うん、分かった。楽しみは後に取っておくって事ね、お爺ちゃん!」

「喜んでぇ!」


 適材適所という言葉を今日ほど身近に感じたのは初めてだろう。ジェラールであれば何時間何日に及ぼうが、嬉々として仮孫の講義を受けてくれる。ここ最近研究に熱中するシュトラも、これを機に思う存分満足するまで語れる。ウィンウィンな関係とは正にこの事だ。しかし声でけぇな、おい。


「それじゃ、ここでは簡潔にまとめるね。携帯型転移門に供給する魔力が少ないのは、さっき言った通りよ。小さくした一番のメリットは、持ち運びを可能にしてどこでも使えるようになった事かな。携帯型って称した割には、まだまだ大きくはあるんだけどね。そこはクロちゃんの保管スキルを使ってのテコ入れが必要かな」

「普通の扉サイズではあるからな。だけど、それを差し引いても場所を選ばない機能は凄いもんだぞ?」

「メリットばかりって訳でもないよ。場所を選ばない代わりに、固定された従来品と違って他の転移門からは干渉されないの。要は行きのみの入り口専用の門だから、そこは注意してね」


 携帯型転移門→固定式転移門には移動できるが、その逆はできないって事か。


「あとは門の外枠自体がこのサイズだから、ムドちゃんやハクちゃんが竜化したら狭くて通れないかな。アレックスやクロちゃんは身体の大きさを調整できるし、使う分には特に問題ないと思うけどね」

「戦闘時でもない限りは大丈夫そうだな」

「あ、質問いいかな?」


 アンジェが軽く手を挙げる。


「この携帯型の転移門、使った後はどうなるの?」

「「「……へ?」」」


 不意を打たれたのか、ポカンとするシュトラ&聖女と悪魔。心なしかシュトラの伊達眼鏡がずれ落ちたような印象を受けてしまう。


「え、えっと、使った後っていうと?」

「そのままの意味だね。今の説明でこの転移門がどこでも使えるのは分かったよ? でもさ、その門を使った後、この門自体はどうなるのかな。移動した先に一緒に転移するの? それとも使った場所にそのまま残るの? 職業柄、痕跡が残っちゃうのか気になっちゃってさ~」

「「「………っ!」」」


 そのまま放置ですね、分かります。いや、言われてみればそうだね! みたいな顔を並べられても、俺も困ってしまうんだが。んー、この動揺っぷりからすると、本気でうちの3大頭脳は転移門を使った後を考えていなかったようだ。このままでは携帯型転移門(使い捨てタイプ)になってしまうぞ。


「そうだな。門が残るなら、誰かがその場に残るかして回収する必要があるか」

「あ、そうだ。クロちゃんの分身体に門を回収してもらえば解決するんじゃないかな? ほら、クロちゃんの保管スキルって分身体も使えるし」

「「な、なるほど!」」


 うん、リオンの出した案で大方解決できそうだ。そこで頻りに頷くセラとコレット、冷や汗を隠し切れてないぞ。


「リ、リオンちゃーん!」

「わわっ!」


 シュトラが涙目になりながらリオンに抱き付いた。そのままリオンの胸にうずくまってしまう。


「あ、ありがと……! こんな初歩的なミスをするなんて、恥ずかしくて顔から火がでちゃう……」

「あはは、大袈裟だよー。でも、シュトラちゃんにしては確かに珍しいのかな? 何かあったの?」

「えっとね、ガリアの王様から貰った門は2つあったし、どうせなら思う存分やっちゃおう! ……ってお姉ちゃん達と話になって、元々は片方を廃棄する気で分解したのだけれども、パーツと紋章が上手い具合に組み合わさっちゃって、高揚する気分を抑え切れなくって……!」


 細かいところを見逃すくらい、調査や開発に夢中になってしまったと。うん、よくある、よくある事だ。俺だって武具やゴーレムを作る際、ましてやメルフィーナやアンジェと戦う時なんて殊更に我を忘れてしまう。でもさ、何かに夢中になるのは悪い事ではないんだ。それだけ人生が彩られるってもんだろ? もう一度声を大きくして言おう。悪い事では、決してないっ!


「―――もちろん、反省はする」

「反省、ですか?」


 おっと、心の声が漏れてコレットに聞かれてしまったか。そういや、今回はコレットにも無理を言っちゃったな。わざわざ奈落の地アビスランドにまで助っ人として足を運んでもらってさ。礼のひとつも今度しないとな。


「いや、独り言だよ。失敗を反省するのは大事だよな、ってさ」

「ケルヴィン様もやはりそう思われますか! 不肖ながら私もそのように考えていたところなのです。私の悔恨の情をケルヴィン様に捧げる為、ここはケルヴィン様のおみ足を、願わくば遠征からお帰りになったばかりの履物を、私が丹念に誠心誠意舐め―――」

「シュトラー! この転移門試しに使ってみていぃー!?」


 並列思考による即断逃走。逃げ切れたかどうかは、ご想像にお任せする。

オーバーラップ文庫様より『黒の召喚士3 魔獣の軍勢』の立ち読み&口絵が公開されました。

立ち読みではエリィやツバキ様がチラッと顔見せ。

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