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第349話 深淵の王

 ―――ドクトリア王国・仮拠点


「さ、それじゃ早速私たち研究班の成果を見てもらいましょうか!」

「お、おい、引っ張るなって!」


 その私たち3人のうち、2人は今も休息中なんだけどな。妙にハイテンションなセラが俺の手を取り、引きずるように転移門のある部屋へ連れて行こうとする。もはや自分から言い出したシュトラへの配慮は頭にないようで、気持ちいい程に大声だ。当然ながら近くでそんな事をされれば、お気に入りとなったヌイグルミを抱き締めるシュトラも目覚めてしまう訳で。


「う、ううーん……」

「駄目じゃないケルヴィン、大声なんて出して。シュトラが寝ているって言ったでしょ?」

「お前は一度顔でも洗って来い、セラ……」


 うん、分かった。酔っているが如く、メキメキと俺の腕を握る力の強さ加減で理解した。見た目は平気そうに装っているけど、こいつも休んだ方が良い。


「あ、お兄ちゃん、帰ってたんだ…… おはよー、ふぁ……」

「おはよう。疲れているだろ、まだ寝ていていいぞ?」

「ううん、平気。それよりも任されていた転移門、早く報告したい……」


 寝起きのシュトラが眠い目をこすりながらも、セラと同様にローブの袖を引っ張ろうとする。が、腕の長さが足りてないようで、精一杯伸ばしたシュトラの腕がぷるぷると震えるに止まってしまった。まだ頭が覚醒していないのか、珍しくもシュトラは意地になって袖を掴もうと頑張り続けている。あ、段々涙目になってきた。セラはセラで腕に加える握力を更に強めて――― それ以上はあかんて! 俺の肉体的にも精神的にも!


「分かった、分かったから! 皆、部屋を移るぞ」


 観念した俺は白旗を上げる。まずは十分に休んでほしいんだけどな。まあ、満足すれば大人しく寝てくれるだろ。


「ふむ。ワシらもシュトラ達、研究班の部屋には殆ど立ち入らなかったからのう。どんなものか楽しみじゃわい」

「クゥーン」


 ジェラール達が立ち上がり、皆の足元の隙間を縫うようにトコトコとアレックスも移動を開始した。


「あら、アレックス。進化が終わったのね。 ……ん?」

「って、あれ? アレックス、何だか小さくなってる?」


 アレックスの姿に違和感を感じたシュトラが、再び目をこする。しかしいくらまじまじと見詰めようとも、アレックスは一般的な大型犬程度の大きさにしか見えないだろう。つまるところ、以前よりも数段小さい。


「何だ、本当にずっと部屋から出なかったんだな」


 俺とアンジェがグレルバレルカへ出発する直前、アレックスは魔力内で無事進化を終えていたのだ。今のアレックスの姿は、あー、何て言えばいいのかな。まず、新たなステータスはこんな感じだ。



=====================================

アレックス 3歳 雄 最深淵の黒狼王ヴァナルガンド

レベル:135

称号 :陽炎

HP :4233/4233(+100)

MP :1582/1582(+100)

筋力 :2891(+640)(+100)

耐久 :1958(+100)

敏捷 :2280(+100)

魔力 :1384(+100)

幸運 :1245(+100)


装備 :魔剣カラドボルグ(S級)

    女神の首輪(S級)


スキル:影移動(固有スキル)

    這い寄るもの(固有スキル)

    模擬取るもの(固有スキル)

    剣術(S級)

    軽業(S級)

    嗅覚(S級)

    隠密(S級)

    天歩(S級)

    隠蔽察知(S級)

    剛力(S級)


補助効果:召喚術/魔力供給(S級)

     隠蔽(S級)

=====================================



 見ての通り、聖人として進化したリオンにも引けを取らないまでに強くなった。スキルポイントも大量に手に入れたようだけど、こちらはまだそこまで振っていないようだ。俺としては『屈強』スキルで最大HPを強化すれば、ジェラールにも匹敵する護り手になれるんじゃないかと思っている。ステータス的に打たれ弱いリオンとの相性が更に向上しそうだし。


「強くなったのは分かったけど、こんなに小さくなったのは何でよ? てっきり、屋敷に入らなくなるくらい成長するかと思ってたのけれど」

「でも、ふかふかー♪」

「クゥーン」


 セラは興味深い様子でくるくると周りを衛星となって移動しながら注視、一方で早速モフり始めるシュトラ。そして一方で鼻を押さえ始めるジェラール。お前、鼻血出ないだろ。


「ここからはアレックスの相棒である僕が説明するね」

「リオンちゃん?(モフモフ))」

「実はアレックスの固有スキル『這い寄るもの』の使い方を工夫してみたんだ。今までは周りの影を操作して、物を掴んだり相手を拘束したりで使っていたよね」

「うんうん」

「ここで発想を転換。そこにある影を使うんじゃなくて、アレックス自身を影と仮定して能力を発動してみたんだ。ほら、アレックスの元々の種族っての狼だし!」

「ウォン!」


 その結果、アレックスは自らを影として操作できるようになり、身体のサイズを自在に変えれるようになった。まだ俺も見た事はないが、その気になれば狼以外の姿にもなれるらしい。能力を解除して本体を晒せば、そりゃあもう凄ぇのが出て来て屋敷には納まらないけどさ。それでは何かと私生活が不便なんで、普段は小柄(といっても比較的大型ではあるが)なこの姿になっているのだ。リオンもそんな内容でシュトラとセラへの説明をし終える。


「自分を影として、なるほどね。色々と応用も利きそうじゃない!」

「影で大きさが変えられても、毛並みは変わらなくて良かったね」

「それはもう、僕が責任持って手入れしているからね! ……本来の姿だとブラッシングが大変だったけど」

「そんなに? アレックス、ちょっと本体を見てみたいわ!」

「私も!」

「ガゥガゥ?」

「だ、駄目だよ! この拠点が壊れちゃう!」

「「えー」」


 これについては俺も全力で止めたい。見せるとすれば屋敷の地下修練場か、だだっ広い平野でないと。ムドやダハクに屋敷内での竜化を禁止しているのと同じだ。規模が馬鹿げている。体積でいけば、一番巨大なのは本気出したクロトかね。


「それなら丁度良いじゃない! 私たち研究班の成果、転移門で一度屋敷へ戻りましょう! そしてアレックスのお披露目をしてもらうわ!」

「あ、そうだった! 転移門の話をしていたんだった! ケルヴィンお兄ちゃん、早く早く! 面白いものもできたから!」


 回りに回って話がアレックスから転移門に戻って来たな。それでは行くとしますか、狂信者せいじょが眠る研究部屋へ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ケルヴィン様、お待ちしておりました」


 部屋に到着すると、身を整えたコレットが出迎えてくれた。どこで覚えて来たのか、座り手を重ねてお辞儀。旅館の女将のような仕草である。てっきり寝袋で抜け殻になっていると思ったが、かなり元気そうだ。


「……趣きはある意味聖女っぽいけど、一体どうした?」

「いえ、ケルヴィン様はトラージの文化をいたく気に入られているとの情報を得まして。巡礼の合間にトラージの温泉街で女性としての振る舞いを学んでいたのです。傍らで温泉にも入らせて頂いたのですが、大変良い湯でした」


 俺たちが行きたいと思いつつもまだ訪ねていない温泉に行っただと……? 何か負けたような気もするが、今度コレットお薦めの宿を紹介してもらおう。


「セラから聞いたけど、さっきまで燃え尽き――― コホン、寝ていたんだろ? よく俺たちが来るって分かったな?」

「何を仰いますか。ケルヴィン様とリオン様がここへ近づく毎に強まる馨香、深き眠りの中とはいえ私の信仰心が逃す筈ありません。今起きずして何時起きるというのでしょう? ……今です!」


 ああ、メルフィーナもいたら口から垂らす透明な信仰心に加え、鼻から赤い信仰心も垂らすところだったかもな。いくら女性としての仕草を学んでも、コレットはコレット。そう簡単に人は変わるものではないのだ。

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