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第333話 いざ、奈落へ

 ―――奈落の地アビスランド・無限毒砂


「ここが奈落の地アビスランド…… 神の使徒の、エレアリスの根城がある地か」


 転移門を越えると、辺り一面の景色は砂で覆われていた。平たく言うと砂漠地帯になっている。空には2つの太陽が顔を覗かせ、灼熱の光がサンサンと容赦なく降り注ぐ。暑苦しい火山群を踏破した後が砂漠ってのも、ある種の嫌がらせに近いんじゃないかな? それも砂が悪魔の肌のように紫に染まっていて、見るからに何かありますよと誇示していやがる。


「帰って来たわよ、私の故郷!」

「帰って来ちゃったぜ、俺のホーム!」


 ん? ああ、悪魔であるセラが奈落の地アビスランドの生まれなのは頭に入れていたけど、そういえばダハクもここの出身だったか。うっかりしていたな。ダハクの父親、闇竜王。偉大な父を持つ子はグレやすいと聞くが、このダハクも例に漏れず反発しているようである。息子に跡を継がせたい父と、土いじりなど他に学びたいものがある子といった関係性もあって、その仲は拗れるだけ拗れてしまっている。俺としてはプライベートにまで口出しする気はない。まあ、どうしようもなくなったら、最終手段として拳と拳で語ればいいんじゃね? これで大抵の事は解決! と、助言くらいはするかもしれないが。


「土竜王の旦那、俺は成長したぜ!」


 ……あれ、そっち? いや、お前がいいなら別にいいけど。


「で、ここは奈落の地アビスランドの何処なんだ?」

「ほら、とっとと説明しなさい!」


 ついさっきセラの血染で服従させた、偉そうな悪魔に問い掛ける。悪魔はセラの背後で直立不動を保っていたが、セラが急かすとキビキビと敬礼し出した。


「イエス、マム! この砂漠は『無限毒砂』と呼ばれる場所でありますっ! 地上までの道程を塞ぐ禁忌の地、その者を力量を計る為の試練の道、何かと噂の絶えぬ場所なのですっ! 出現するモンスターの力は私と同等かそれ以上! そのどれもが猛毒を持ち、またこの地の砂にも毒が含まれておりますっ!」

「そうか。お前と力がそう変わらないなら、別に無理して撃破する必要はないか。弱いし」

「ご期待に沿えず、申し訳ございませんっ!」

「ああ、うん。別に気にしないでいいよ。ちなみにあの程度の軍隊で、どうやってこの砂漠を越えて来たんだ? 仮にも一番力のあるお前と同等以上のモンスターばかりで、それも過酷な環境なんだろ?」

「我が一族は生まれながらにして、毒に強い耐性を持っておりますっ! このスキルを活かし、比較的毒の薄い箇所を、即ち、危険の少ないであろう道を取捨選択して来たのでありますっ! その道は毒を好むモンスターがいない道でありまして―――」

「セラ、待機させといて」

「はい、黙る!」

「………」


 パンとセラが手を叩くと、悪魔は休めの姿勢で停止する。うーむ。セラの血染は情報を引き出せて便利だが、なぜか対象が大声で喋って煩いのが難点だな。その様子をセラは気に入っているようだけど。今も不動を貫く悪魔を見ながら満足気に頷いている。


「こっち側の転移門周辺にも結界が張られているみたいだね。目の前が砂漠なのに、それ程暑くないや」

「野営した形跡がありますね。水場も結界内にあるようですし、この中は安全かと」


 リオンやエフィルが辺りを観察して話す通り、砂漠のオアシスとも呼べるこの場所には結界が施されている。効果は煉獄炎口と同じものだろう。野営跡は十中八九、さっきの悪魔軍団によるもの。しかし、食い散らかした後が酷いな。あの指揮官悪魔と部下悪魔を両方連れて歩くのは荷物以外の何ものでもないし、指揮官はここに残して清掃に励んでもらおうか? 


「ふふふ、皆が言わんとする事は分かります。 ―――詰まり、おやつタイムですね?」

「おやつ!?」

「違うから。さっき散々食った後だろうが。ムドも反応しちゃ駄目だ、メルになるぞ?」

「―――っ!」

「ムドファラク。今、ハッとしませんでした? しましたよね?」

「きっと気のせい」


 メルフィーナを宥めたその後、ムドを青から赤に人格を変えるなどの砂漠を横断する準備を整える。簡単な道案内であればセラが操る部下悪魔でもできるし、それ自体に問題は何もないだろう。初めに目指すべきは人の、いや、悪魔の住む街かな。人とそう外見の変わらない吸血鬼であるエストリアも元々は奈落の地アビスランド出身な訳だし、見た目で怪しまれる心配はないと読んでいる。それこそ悪魔の姿形は千差万別なのだ。


「よし、出発前にこれからの目的を纏めるぞ」

「「はーい」」


 俺たちの奈落の地アビスランドでの目的。まず第一に、セラの里帰り。その昔、魔王グスタフが治めていたとされる国に向かう事だ。現状どのような状態になっているのかは分からないが、グスタフの墓参りの意味も含まれている。まあ、これからを考えれば墓前で報告しなきゃならない事も色々あるのだ。親馬鹿だったらしいグスタフには文句のひとつやふたつ、多分それ以上に言われるだろうが、避けては通れない道だしな。もしグスタフが生きていたら、文句よりも先に拳が飛んで来たかもしれない。 ……ホッとしたような、口惜しいような、複雑な心境だ。


 次に神の使徒の無力化。これに関しては特に説明はいらないだろう。デラミスの巫女、アイリス・デラミリウス。先代勇者、セルジュ・フロア――― 残る8柱の使徒を倒し、エレアリスの復活を阻止する。この素晴らしき世界の為に!


「王よ。よだれ、よだれ」


 う、いかんいかん。つい本音が表に出てしまった。エフィルに本音をハンカチで拭いてもらう。


「少々お待ちを…… はい、綺麗になりました」

「悪い」

「主、人の事をとやかく言う前に―――」

「分かってる。自覚はしてる」


 だがな、これは不治の病なの。一生寄り添って生きていかなきゃならないの。だからメルフィーナ、その同類を見るような目で俺を見詰めるんじゃない。お前とはジャンルが違うんだ。


「うふふっ♪」


 何その慈愛に満ちた顔。はい、話を戻します。戻しまーす!


 ……で、最後はシルヴィアたっての願いであるシスター・エレンの捜索だな。奈落の地アビスランドの何処かにいるって話だから、俺たちにとってはついでのような扱いになってしまう。しかしながら、冒険者として依頼された事でもある。他目的の道すがら、調査はしっかり行っていかないと会わせる顔が後々なくなってしまう。


「シスター・エレンはシルヴィアとエマの義母であり、剣術や魔法の師匠でもあるらしい。それだけの才覚がある人物だとすれば、いやが上にも俺たちなら気付ける筈だ。容姿についての特徴は配下ネットワークにアップしておいた。各自、確認しておくように」

「銀の髪で、長髪で――― へー、シルヴィーの本当のお母さんみたいだね。髪の色がお揃い」

「あー、確かに。まあ、エストリアみたいに髪を変色させられたら意味ないけどな。シスター・エレンもわざわざ奈落の地アビスランドまで追いかけて来るとは思っていないかもしれないが、変装している可能性だってある。一応は考慮しておいてくれ」


 もし発見できたら、弟子に渡したペンダントを通してシルヴィア達に連絡だ。そのまま保護するかはシスターの出方にもよる。行方を晦ました名目上の理由は治療だが、真の理由は本人の口から聞かないと何とも言えないからな。納得できるような理由を提示してくれるといいんだが。


 さて、これで大方目的の整理は終わったかな。っと、セラの方は―――


「はい、復唱!」

「イエス、マム! 周辺の清掃を終えた後、無限毒砂へ単身突撃致しますっ!」

「よろしい! 生涯最後の大仕事、見事成し遂げなさい!」

「ッハ! 隅々まで綺麗にして見せますよっ!」


 あちらも指揮官悪魔への命令を終えたようだ。それじゃあ、地獄の砂漠横断と行きますか。

第8章はこれにて終了です。


いつもより短いような気もしますが、5章以降が長過ぎただけなんですよね(笑


書籍版第3巻の準備も着々と進めております。


カバーイラストが楽しみですね。

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