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第319話 戦の前の腹ごしらえ

 ―――火竜王の塒


「遅い! おっそ過ぎるわよ、2人共!」


 他よりも一際大きな火山の根元で、仁王立ちのセラが俺たちを待ち構えていた。このプンスカ具合から察するに、セラとアンジェが到着してからかなりの時間を待たせてしまったらしい。他のメンバーを確認するに、俺ら以外の全員が既にゴールしているようだ。意図的に遅れてきたとはいえ、最下位は不味かったか。


「エフィルちゃん、バッチリ楽しめた?」

「え? ええと、その…… は、はい……」


 エフィルを茶化すアンジェは俺の意図をしっかりと読んでいたらしい。赤面するエフィルは眼福ものだが、そのお姉さんぶりを自分の時にも発揮してほしいかな。


「思いの外狩りに夢中になっちゃってさ。俺たちが通ったルート、火竜の巣と重なってたみたいだ。嬉しい悲鳴というか、思わずエフィルと一緒にエキサイトしちゃったんだよ」

「あら、そうだったの? うーん、なら仕方ないわね! でも優勝したのは私たちに変わりはないのだから、真心のこもった贈り物を期待するわ!」


 セラが納得してくれたところで、そろそろ本題へ入ろう。眼前にあるは本当の意味での『火竜王の塒』、巨大火山。巨竜が天に向かって大口を開き、息吹ブレスを浴びせようとするかのように大噴火を引き起こしている。歪な竜の顔にも似た形状をした火山なのだが、これが人為的に作られたものではなく、自然とこうなったものだというから驚きだ。自然の神秘だな。


「それにしても、面白い形をした火山だよね。あそこが丁度竜の目みたいな模様になってるし。記念にスケッチしておこっと」

「わ……! リオンちゃん、絵が上手だね。もう書き上げちゃった」


 あれはリオンが文字の勉強がてらに始めた絵日記だ。文章と絵のレベルの開きがぱねぇと先生役の俺とエフィルの間で専らの評判である。日記の内容は歳相応、描かれた絵画は写真を思わせる域の模写とはこれ如何に。ああ、また話が逸れたな。


「この火山の頂上にある噴火口――― 『煉獄炎口』を降れば奈落の地アビスランドに繋がっているんだよな?」


 メルフィーナ先生に再確認。


「正確には奈落の地アビスランドに繋がるゲート、転移門のような装置があります。国が管理する転移門とは違い、こちらは資格や許可は必要ありませんので誰でも使用可能です」

「そのゲートまで辿り着けられれば、だろ?」


 普通に考えれば、溶岩が渦巻く火口から飛び降りるなんて発想は自殺志願者からしか出てこない。これだけでも十分に危険だと言い切れるが、更にこの火山は名前の通り火竜王の住処とされる場所。同族の火竜でさえ、火口付近には近寄ろうとしないのだ。竜王の中でも最も凶暴とされるだけはある。


「誰でも使えて安易な場所にあっては、地上は今よりも奈落の地アビスランドに住む者達がいたことでしょうね」

「まあ、セラやビクトール以外の悪魔と会ったことないしな」


 セラの妹候補であるベル・バアルは例外として。


「ちなみにシルヴィアらが向かった『天獄飛泉』も同様の危険度です」

「ここと同じくらいか。シルヴィアとエマなら平気そうだけど、刀哉達がちょっと心配だな。あとナグアもか」

「天獄飛泉は水竜王の管轄。彼とシルヴィアは縁があるそうですから、そこまで懸念せずとも大丈夫だと思いますが?」

「実力的にはそうだとしても、刀哉はあんな体質だろ? 刹那の心労とか、ナグアの苦悩とか…… 色々ありそうじゃないか?」

「ああ、なるほど。理解しました。刹那の眉間のしわが深くならないことを祈るばかりです」

「ナグア、強く生きろよ……!」


 女神が祈り、ダハクが天を見上げながら拳を握った。うん、勇者と別行動って凄く気楽だ。頑張れあっちの皆! 何もできない無力な俺だが、気持ちの上では応援しているぞ!


「ところでケルヴィン。火山内部の気配を探った感じだと、今は寝床に火竜王はいないみたいだよ」

「げ、マジかアンジェ。折角急いでお礼参りに来たっていうのに」

「ケルヴィンは急いでないでしょうが。頑張ったのは私とアンジェ!」

「ちなみに2位は僕とシュトラちゃんだよー」

「私はアレックスと影の中で御本を読んでただけだけど…… 思いの外快適だったなぁ」

「主、3位は私。鈍間なダハクのせいで3位だった。この苦悩を癒す為、姐さんの菓子を所望したい」

「うるせぇな、この辺りは貴重な草花の宝庫なんだよ。黙って見過ごす訳にはいかねぇ! そして俺も追加のカット野菜を希望したいッス!」

「うんうん、お前たちの頑張りは十分に分かったって」


 各コンビ思い思いのやり方で走破したみたいだな。ガチ勢のセラとアンジェは単純明快、全力で眼前の敵を蹴散らし進んだだけ。リオンとシュトラは作戦勝ちだな。アレックスの力を使ってシュトラが影に潜り込み、随一の速さであるリオンが走る。竜ズは、まあ…… 道中で戦力補強できたんなら結果オーライ。


「―――ん? ってことは、4位はメルとジェラールか?」

「じゃってワシ、重騎士職じゃし……」

「だって私、食後でしたし……」


 頭を摩るジェラールに、腹を摩るメルフィーナ。職も食もこの場合関係ないような気がする。パーティを代表する二枚看板にも不得手はあるだろうが、奈落の地アビスランドでの先行きが少々不安になってしまう。最下位の俺が言うのも、とてもアレだけどな!


 ―――ぐぅ~。


 直後、腹の鳴る音が聞こえた。


「おい、メル。お前さっき食ったばかりだろ……」

「わ、私じゃありません! 冤罪です!」


 何? だとすれば、残る食いしん坊は―――


「主、濡れ衣だと主張したい。人型は竜型の時よりも燃費が良い」

「ああ、確かにな。兄貴、ムドの腹からは鳴ってなかったッスよ」


 ムドファラクでもない、と。 ……まあ音の出所から大体の把握はしていたんだが、普段が普段だけに念の為の確認だ。改めて犯人である2人、セラとアンジェを見る。


「や、ちょっと頑張り過ぎちゃったみたいで」

「これもまた、己の限界を超えた証かしらね! ……お腹減った」


 お前ら、どれだけ本気出してたんだよ。


「……そういや飯時か。うん、まずは飯にするか」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 火山の麓に剛黒の城塞アダマンフォートレスの応用で食事場所を作成、所謂キャンプ場にあるであろうバーベキュースペースを思い浮かべて作り出してみた。土台を高めに生成した為に火山から流れ出るマグマも何のその。屋外用の簡単な屋根も取り付けているので、空から降り注ぐ火の雨にも対応している。更には外側をメルフィーナの氷女帝の荊セルシウスブライアで覆い、伝わる衝撃や熱をもシャットアウト。止めの清涼領域クールリルトで快適空間の完成だ。外では噴火の炎が花火代わりに上がり、ちょっとした夏の風物詩的存在となっている。クックック、そこいらの宴会場より居心地が良いぞ。そして―――


「ケルにい、これを作っていたから遅れたんだね」

「こ、これが幻の溶岩焼き……!」


 メルが目を輝かせる先にあるのは、長方形型の大きな溶岩プレート。最下位の俺とて、単にエフィルとイチャコラしていた訳ではないのだ。良質な溶岩石をエフィルの『目利き』スキルで厳選してもらい、俺が加工を施した出来立てのほやほやな品だ。


「火入れを開始します」

「「「おお……!」」」


 エフィルが手に灯した炎をプレートの下に移すと、どこからともなく歓声が上がる。


 ここまで説明すればもうお分かりだろう。そう、バーベキューを行う! 海の幸はセラが、野菜はダハクが確保したものがクロトの保管に入っているし、竜肉だって道中腐るほど狩ってきた。具材の布陣は完璧だ。完璧な筈だ。でも尽きる前に帰って来てほしいな火竜王。


「火竜王との戦いの前哨戦だ。皆、食うぞっ!」

「「「おー!」」」


 まあ、エフィルのウォーミングアップ代わりにはなるか。

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