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第308話 トラブルメーカー

 ―――デラミス宮殿


 メルフィーナ達との連戦を終え、エフィルとリオン、そしてコレットを連れて宮殿へと戻る。他の面子は汗を洗い流しに風呂へ、もしくは朝食を再開しに食卓へと向かって行った。誰がとは言うまい、誰がとは。時間もいい頃合いになったことだし、俺たちもそろそろシュトラ達の所へ戻っても大丈夫だろう。


 しかし、朝っぱらから体中に火傷や凍傷、数多の切り傷を受ける羽目になってしまった。死線を彷徨うとは正にこのこと。まったく、何て素晴らしい1日の始まりだ。毎日だと流石に体が持たないだろうが、1週間に1度はこんな日があっても良いのではないだろうか? え、駄目?


「ケルヴィン様、趣味に興じるのも程々がよろしいかと……」

「お前がそれを言うか、コレット。軽くショックなんだけど」


 軽口を叩く俺であるが、献身的なコレットの回復魔法のお蔭で今は全快状態である。負ってしまった状態異常についても、訓練場から『絶対浄化』を持つリオンがずっと手を繋いでいてくれているし、減ってしまった小腹はエフィルが作ってくれた最強の携帯食、おにぎりで満たされた。よって問題は何もなく、むしろ調子が良いくらいなのだ。気分も最高だ。


 まあ、どんなに重傷になろうとも、生きてさえいれば自力で回復できる俺である。ましてやメルやコレットが傍にいたことなんだし、何も問題はないと思うんだ。いや、訓練場を全破壊してしまったことは悪く思ってる。まさか、あんなに脆いとは想定外だったんだ。どうも獣王祭で使っていた舞台の感覚が抜けないんだよな。シーザー氏、貴方は意外と偉大だったと今になって痛感しています。ちなみに訓練場は俺が緑魔法で再構築したから問題ない筈。むしろ破壊前より上等に仕上がっている。アフターフォローは完璧である。


「うげ、ゲス野郎のケルヴィンじゃねぇか……」

「出会い頭に何てことを言うんだ、お前は」


 目的の部屋の前に行くと、壁に寄りかかっていたナグアになぜか罵られる。


「ケルヴィンさん、すまねぇな。こいつ不器用だから、思ったことを素直に言っちまうんだ。あっしらも頭を悩ませていてなぁ」

「っは、別に隠すことでもねぇだろ」

「ガッハッハ! それでいて純情じゃから、からかい甲斐があるのう!」

「うーむ、色恋についても素直になれば、まあ多少は救いがあるのですがなぁ。毎回毎回毎回遠回しの―――」

「うっせぇ!」


 コクドリとジェラールも一緒か。この3人は本当に仲が良いな。 ……って待てよ。フォローしているようで、それしてなくない? 結局ナグアは素直に俺のことをゲス野郎って思ってるんだよね? こいつに嫌われる覚えはないんだが。


「僕らはちょっと時間を潰していたけど、3人は部屋の前で待ってたの?」

「うむ! ワシは巻き添え――― 邪魔をするのはどうかと思ったのでな。コクドリ殿とナグアを肴に談笑しておったところじゃ」


 リオンの問いに逸早く答えたのはジェラールである。心なしか戦闘時よりも動きが機敏だ。


「うむうむ。やはりジェラール殿は話の分かるお方だ。ナグアの扱いを分かっておられる」

「いい加減にしてくれ……」


 ナグア、この数十分でかなりやつれてしまって。うーん、いくら以前よりも強くなったといえど、ジェラールが相手では実力的にも精神的にも力不足なのが拭えないしなぁ。物言いで勝てる筈もない。俺だってエルフの里での悪夢以来、時たま戦慄ポエマーという単語が脳裏を過ることが…… ま、まあ何だ。まずはシュトラ辺りと戦って、勝てるようにならないとな。話はそれからだ!


「ったく…… 言っとくが、俺は邪魔者が入らねぇように見張ってたんだよ。お前らのようにただ暇つぶしをしてんじゃねぇ」

「邪魔者?」

「ああ、俺の野生の勘が言ってんだ。こう、俺にとって油断ならねぇ奴がいるってな」

「またえらく具体的な勘だな」


 セラかお前は。ここはデラミスの中心地、宮殿のど真ん中だぞ? そうそう変な奴が現れるなんて―――


「あ、師匠! おはようございます!」

「げぇ!? 刀哉!?」


 ―――居たな。厄介事自動発生装置、天然主人公体質な刀哉が。女を惑わす輝く笑顔を振り撒いていやがる。それにしても、このナグアの反応。知り合いだったのか? 俺の時よりもナグアが酷い反応っぷりだが。


「え? ……ああっ! ナグアさんじゃないですか! 久しぶりですね。俺です、刀哉です!」

「知ってるわボケェ! 近づくな! お前、それ以上こっちに近づくんじゃねぇぞ! 絶対に!」

「変なナグアさんだなぁ。あ、ナグアさんがいるってことは、シルヴィア師匠もいるんですか? その扉の向こうかな?」

「てめぇ、わざとか!?」


 お構いなしにツカツカと近づく刀哉に、滝汗を流しながらジリジリと後退するナグア。朴念仁な刀哉が拍車をかけ、そろそろナグアが武器を取り出しそうだ。これはそろそろ止めた方がいいだろうか? ジェラールとコクドリはどこから取り出したのか、リアルな酒の肴を摘まみながら観戦中。完全に楽しんでいる。


「それにしても、刀哉のあの言い草は……」


 師匠、シルヴィア師匠…… ああ、なるほどな。刀哉らが西大陸へ渡ったように、シルヴィア達も西大陸へ向かった。2つのパーティがどこかで出会うのも不思議ではない。で、何やかんやがあって、俺の時のようにシルヴィアが師匠になったと。たぶん、その途中の何やかんやで刀哉がまた何かをしでかしたんだろう。周囲を巻き込む感じで。


「おい、てめぇ! クソ、てめぇ!」


 ナグアのあの言葉にもなっていない動揺っぷり、もう確信していいと思う。


「ケルにい、助けてあげようよ」

「私もリオン様のご意見に同意します。あの様子は少々気の毒です」

「え? あー、そうだな。そうするべきだよな」


 リオンとエフィルは優しいな。俺はどっちかというと、ジェラール達寄りでもう少し見ていたかった感もあるんだが。


「ところで刀哉、刹那達はどうしたんだ? 今日は別行動か?」

「そ、そうだ! 刹那はどうした!? お前の大切なストッパー役だろうが!」


 ……刹那、西大陸でも苦労していたんだな。ホロリ。


「3人は街に買い物へ出かけましたよ? 何でも懐かしいエルフの友人に会ったとかで、女子だけで遊んで来るって…… ああっ、エルフってアリエルさんのことか!」


 どうやらアリエルは刀哉の犠牲にならなかったようである。この機転も恐らくは刹那によるものか。その代わりに犠牲になった奴もここにいる訳だけど。


「それならそうと、俺にも言ってくれれば良かったのに。挨拶くらいはしたかったな」

「まあまあ、どうせ後で集まるんだ。挨拶はその時でもいいだろ。それにシルヴィアとエマは今取り込み中、大人しく待ってるこった」

「了解です」


 少なくとも俺たちが近くにいれば、刀哉の『絶対福音』が発動することはないだろう。しかし、シルヴィアも結構な幸運値を持っていたんだけどな。ナグアがあそこまで動揺するようなことは起きない筈なんだが……


「ケルヴィン様。刀哉について補足するのですが―――」


 コレットが耳打ちしてきた。何だ、絶対福音なら無効化してるぞ?


「スキル云々を抜きにしても、刀哉は考えもしない幸運を発揮する時があるのです」

「……は?」

「そもそもスキルのみに頼る幸運であれば、私にも封じ込める手段はありました。ですが、その上で刀哉は様々な幸運を呼び起こす素質があるようでして…… もちろんスキルに比較すれば頻度は著しく減少するのですが、その、主に異性に絡む方向で……」


 それは詰まり、『絶対福音』がなくとも刀哉は根っからの主人公体質で、トラージで刹那達がトラブルを起こさなくなったと言っていたのは、いつもに比べれば・・・・・・・・の話だった訳で、ビーチで刀哉がおかしなことをしないか見張っていた俺の行為は正しかった訳で……


「刀哉君、ちょっとエフィルとリオンから離れてくれるかな? ってか離れろ」

「し、師匠まで酷い!」


 ナグアの味方となろう。心からそう思った。俺たちは運命共同体だ。

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