第287話 鐘の音
うおお、物凄く間が空いてしまった……
―――英霊の地下墓地・第6層
「こ、のおおぉぉ……!」
地面に激突した光竜王は半身を埋もらせながらも、俺の放った重風圧Ⅱに負けじと抗う。土埃に塗れてしまっては尊厳も糞もないのだろう。その形相に余裕は最早ない。それでも徐々にではあるが、確実に這い上がって来ている。
「うお!? こいつ、マジでしぶといな!」
奴が抗うのは重風圧Ⅱだけではない。床の壊れ目からはダハクが生長させた植物達が、光竜王を雁字搦めに拘束しているのだ。それでも奴は止まらない。強靭なる植物を引き千切り、今にも翼を広げて飛び立とうという勢いだ。
「崇高たる我を見下すとはぁ、万死に値する事なりぃぃ!」
それどころか、叫びながら上空の俺らに息吹を吐き始める。余裕綽々ってよりかは、そう見せようとかなり無理してる感じではあるが。しかし残念なことに、既に俺は黒杖に大風魔神鎌を施している。大鎌より斬撃を放ち、崇高らしい彼の息吹を両断。
『あ』
失敗したかな、と心の片隅で密かに思う。分離された光線は恐らく希少であろう絵画が描かれた天井へとぶつかり、天使やら神様やら、真に崇高な方々を悉く破壊し尽くしてしまったのだ。これ、世界遺産とかじゃないですよね? ……何て卑劣な奴だ、光竜王! 許せん!
―――と、冗談はさて置き。
「頑張ってるとこ悪いが、次いくぞ」
突如、巨大な影が光竜王を覆う。
「グゥガァアアーーー!」
「何ぃ!?」
嵐渦巻く鎧を纏った隕石が、否、ボガが天上より咆哮を上げながら舞い落ちる。持前の頑強さを活かしてか、自身の負傷など知らんとばかりに正しい意味での捨て身を決行。体を丸めたその姿はアルマジロにも似て…… ないな。丸くはあるが、あんな巨大な流星とは似ても似つかない。
「この程度―――」
激突。ボガと大地によって板挟みにされた光竜王の言葉は遮られ、そのまま地ごと粉砕される。果てしない振動が続き、今や地上は大惨事の体を成していた。ボガの超重量級の質量と重風圧Ⅱが合わさり、嵐の外装により被弾する者は切り刻まれるのだ。味方が全員空中にいて良かった。本当に。ここまで来たら世界遺産とかどうでもいいんじゃないかな。
―――カァーン……
「ゴア?」
またしても、鐘の音が聞こえた。奴の背、曼荼羅の鐘から奏でられたものだとすれば……
「この程度、どうということはない」
「ゴ、ア……!」
地上の悉くを破壊していたボガが、真上に弾かれる。それも、向かう先は俺とダハクのいる上空だ。
『ダハク、全力で回避、ボガは衝撃に備えろ! 天井にぶつかるぞ!』
『う、うッス!』
『ゴアゴア!』
風神脚ありのダハクなら避けるのは容易い。ボガの耐久力であれば、こちらも大した負傷はしないだろう。問題は穴の中にいるであろう光竜王の状態だが、あれだけのダメージを負った状態でよくボガを―――
「貴様が召喚士だったな?」
声の先、そこには鋭利な竜の爪を構える光竜王の姿。マジか、目の前にいやがった。それどころか煌槍で抉った右肩の大穴は塞がれ、ボガの突貫で切り刻まれた傷跡も見当たらない。また光速で移動してきたのか? 治癒の発端はあの鐘の音か? 並列思考があらゆる可能性を並べる。が、今やるべきことはそうじゃないだろう!
「兄貴ー!」
強烈な爆発音を耳元で鳴らされたような衝撃。勿論それは本当に爆発が起こった訳ではなく、それ程の衝撃を光竜王が一振りの薙ぎ払いで巻き起こしたのだ。寸前に蹴りつけて避難させたダハクが何か叫んでいるようだが、全く聞こえない。念話で送れ、念話で。
「……我の崇高たる一撃の間際、盾を生成して威力を軽減したか。それも、このような真似まで」
光竜王の右腕には愚聖剣クライヴが突き刺さっていた。その刀身に溜め込んだ怨念を存分に発揮させてもらおうと咄嗟に投擲したのだが、何だか投げられてばかりだな、綺麗なクライヴ君。言うのが遅れたが、今回は相手が女じゃないから存分に暴れていいぞ。
「いやぁ、油断してるつもりはなかったんだけどな。してやられた」
叩き付けられた壁の断片をガラッと退けて、改めて奴を見据える。やはりクライヴ君で与えた傷口以外は綺麗さっぱり回復してしまっている。背後には変わらず回転する光輪、ノーブルオレオールだったか。不可解な力だな、まったく。
『ダハク、ボガ、ムドファラク。それじゃ遠慮なく、積極的に打って出るからな。俺』
確認は事前にとってあるんだ。もうお膳立てやら細かいことを気にする必要もない。我慢も要らない。
「ほう、崇高とは真逆の笑みだが、ここで笑うか!」
「ああ、もう辛抱できないからなっ! 笑うしかないだろう!」
壁から跳躍し、同時に煌槍Ⅱを連射。向こうも息吹を放ち出した。
『ああ、ご主人様。あんなに爽やかにお笑いになられて……』
感極まったエフィルが口元を押さえているようだ。見なくても分かる。意思疎通越しに喜びの感情がもろに伝わってくるもの。
『エフィル姐さんも相当兄貴に毒されてるッスよ。どう見てもクレイジーなそれなんスけど……』
『ゴアゴア』
『『『グォグォ』』』
対してこちらは若干引き気味な模様。ダハクの言葉にボガとムドファラクが頷きまくってるのは気のせいだと思いたい。お前ら、俺の意識が戦闘に向いていても並列思考は働いているんだからな?
『何とおめでたい日なのでしょう。そうです、そうでした! お赤飯を炊くのがご主人様の故郷の習わし。トラージで学んだ異郷の技術の数々、今こそ発揮する時です!』
『やべえ、今日の姐さんテンション高ぇ!』
ダハク、お前はそれ以上にツッコミどころの多い存在だけどな。
「ぬんっ!」
「ふっ!」
豪風を生み出しながら迫る竜の尾を、大風魔神鎌で両断する。両断面からは血飛沫が舞い、深手であることは明白。まあ、それも数秒後には鐘の音と共に完治することだろう。
光竜王と何度か打ち合い、鎬を削る中でいくつか気づいたことがある。奴の回転する光輪の4つ鐘は、12時の場所に来ると音を鳴らす。時間にして約30秒の間隔だ。鐘が鳴れば奴のダメージや状態異常は何であろうが全て完治。何度か腕や翼を吹っ飛ばしたり、腕に刺さったクライヴ君が頑張って呪っているのだが、時間を戻したかのように全快してしまう。
光速での移動は連続では行えないようだが、どうも回復するのはダメージだけではないようで、鐘が鳴るのを境に再度使用している気がする。移動だけでなく、これを攻撃に転用してくるからな。この状態では重風圧の効果も薄い。一発でもまともに食らってしまえば、危うい状況になることだろう。
まあ、あれだ。総括すれば長く戦えて嬉しいけど、このままではジリ貧です。ってことで、こいつに勝利するには次の鐘が鳴る30秒以内に勝負を決めなければならないのだ。光輪を破壊するのも手だと思うんだが、しかし相手は光を司る竜の王。肝心な攻撃はしっかりと躱してしまう。慢心をなくした奴はかなりやり手だ。一撃で決めるのではなく、機動力を削いでからがベストか。
「剛黒の黒剣Ⅱ×4」
生成するはより鋭く、より強固なる漆黒の大剣。
「ぬ……!」
鐘は鳴った。ここからは時間との勝負でもある。完治したての光竜王に大鎌の斬撃と重風圧の併せで移動手段を消費させ、煌槍十字砲火を一斉掃射。交差する光の槍に僅かな隙間を残して壁際へと誘導。最後は―――
「貫けっ!」
待機させていた剛黒の黒剣Ⅱによる串刺し。全部でなくていい。4本のうち1本でも当たればいいのだ。巨大な漆黒剣により壁に縫い付けられた光竜王には致命的な隙が生じる。
「ぐうっ!」
と、こうなればどう料理するもこちらの自由!
『ムドちゃん、ご主人様は手を出すなとは仰られていません。詰まりそれは、参戦するのは自由であるということ。今こそ、全力を出す時です』
『『『グゥオルルゥ!』』』
場外から、何かカラフルな弾丸が飛んで来た。




