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第285話 崇高なる我

 ―――英霊の地下墓地・第6層


「ゴアァ……」

「「「グオォン」」」

「ほう、貴様召喚士か。しかも我が同族をそれだけ使役するとは…… 先の自信、それ相応の道理があったということか」


 竜とは実にバラエティに富む種族が確認されている。得意系統の属性色をその鱗に示す者、岩などの自然に模する者、生物としての枠を超えて三つ首を従える者など、その性質から大きさの規模に至るまで様々だ。光竜王を名乗るこの白竜は属性色を表すタイプかな。順当に考えれば白魔法を十八番にすると考えられる。が、ダハクのように漆黒竜であるにも関わらず、系統を無視して緑魔法を修める輩もいるのだ。一概には言えないだろう。


「おうてめぇ、兄貴に対して上から目線とはどういう了見だ、こらぁ!」


 やや1名、竜らしからぬ言動を放つ輩がいる。台詞としては完全にかませ犬のそれ。ダハク、すっかり下っ端精神が心に根付いてしまって。出会った頃の君はどこに行った? ……まあ、戦闘に支障がなければ何でもいいか。これでもゴルディアーナに振り向いてもらう為の努力はしているようだし。何の努力かは知らないが。


「だが、惜しいことに品格は足りていないようだ。それでは崇高たる我と渡り合うなどとてもとても」

「言うじゃねぇか。なら、その吐いた唾――― 絶対呑むんじゃねぇぞ!」


 竜の巨体が互いに飛翔し、戦いのゴングが鳴る。うーむ、サイズとしてはボガ>ダハク=白竜>ムドファラク>ロザリアといった感じか。大きさが強さの全てではないが、ダハクとタメを張るほどの竜は竜騎兵団にはボガ以外にいなかった。眼前で今まさに行われている息吹(ブレス)もなかなかの迫力である。


「てめぇら、もっと気合を入れろぉー!」

「グルゥアァァー!」

「「「グオォオー!」」」


 ダハクが放った翠緑の光線にムドファラクの極彩の息(トリニティブレス)が交わり、畳み掛けんとばかりにボガの破壊的な叫びが更に加わる。それは正しく極彩色。古竜3体が奏でる息吹(ブレス)の融合体が光竜王に迫り―――


「ガアァァーー!」


 奴が放出した光の息吹(ブレス)と衝突する。接触点からは凄まじい衝撃が撒き散らされ、色彩豊かな光の欠片が散り散りになっては消えていく。遠目に見れば派手な花火のようで、とても綺麗なものだ。煩過ぎる音は少々余計ではあるが。


 それにしても思った以上にやるな。ダハクらを相手に、それも3対1での息吹(ブレス)合戦で対等に渡り合っている。威力は神獣ディアマンテが最後に放ったビームと同等、それ以上か。これはもしかしたら、もしかするかもしれん。


「フハハハハ! この程度か! 崇高なる我の息吹(ノーブルブレス)の前には余りにも無力よ!」

「ぐっ!」


 ……あの光、何か凄い当て字をしているような気配がするが、今はそれどころではないな。徐々にではあるが、ダハクらが押され始めてきた。息吹(ブレス)を吐きながら流暢に話す余裕さえもあるようだ。だが、それも些細なこと。この程度であればエフィルの矢で一掃できる範疇だ。『蒼炎』を使わせるまでもない。


 ―――ドゴォーン!


「何っ!?」


 斜め下から爆音と共に放たれた矢が、光竜王の光線を綺麗さっぱりに削ぐ。極炎の矢(ブレイズアロー)は一切勢いを落とすこともなく、そのまま光竜王の驚愕した顔面へと吸い込まれる。


「ぬうっ!」


 おお、避けた……! 隠密状態から放たれるエフィルの攻撃を避けるとは、敵として戦う奴としては初めてではなかろうか。メルフィーナの反則的なステータスとか、セラの予知能力的な勘があって漸く回避できる代物なんだけどな。俺の期待も再度膨らんでしまうではないか。


「先ほどから何と苛烈なエルフの乙女よ……!」

「たりめぇだ! エフィル姐さんの馬火力に勝てる筈ねぇだろ! 純粋な破壊力は随一なんだぞ!」

「ダハク、それはエフィルを賞賛してるのか? 貶しているのか?」

「うおっ! 兄貴、何時の間に!?」


 見に徹するばかりでは詰まらない。まずは飛翔していたダハクの背に乗るとする。エフィルも同様にムドファラクの背に飛び乗ったようだ。


「ゴアァ……」


 なぜかボガが悲しそうな声を上げた。ああ、自分だけ飛び乗られなかったからか。しかし今は普段騎乗しているジェラールがいないからな。人数的にあぶれてしまう訳だし、こればかりは我慢してもらうしかない。


「で、どうなんだ?」

「尊敬と羨望の眼差しで見てるに決まってるじゃないッスか! プリティアちゃんに誓うッス!」

「ゴルディアーナに誓われても困るぞ……」

「ご主人様、気になさらないでください。それよりも―――」


 エフィルが口頭での会話から念話に切り替えた。


『―――予想以上に素早いですね』

『肉体の力で避けたってより、何かしらの能力を使ったって感じだったけどな』


 エフィルの極炎の矢(ブレイズアロー)は確かに光竜王の直撃間近まで迫っていた。そんな中で奴はまるで瞬間移動したかのように、一瞬で巨体を移動させたのだ。予備動作はなく、翼を羽ばたかせる仕草もしなかった。


『……光を司る竜の王なら、スピードもそれ並とか?』

『だとしても常時使用しないところを見るに、何か制限があるのかと』

『まあ、どっちにしろアンジェより速いってことはないか』


 この場合、比較対象が悪過ぎるのだが。


「地上からの跳躍で空中(ここ)まで来るとは…… 貴様ら、本当に召喚士と使用人か?」

「何だ、知らないのか? 最近の召喚士は剣術や格闘術を嗜むんだ。接近戦はむしろウェルカム。それに使用人が爆撃くらいしたって珍しいもんじゃないだろ」

「え、う、うむ……? 面妖だな。我は修羅の世界に迷い込んだと言うのか……?」


 そんな糞真面目に返答されてもな。我が家ではメイドが戦闘をこなすのは一般常識だし、調理の片手間に扱う炎が多少強力なのも仕方が無い。何も不思議なことはないのだ。


「よかろう、これまでの非礼を詫びるとしよう。どれ、崇高たる我も本腰を入れねばならぬ相手のようだ」


 ―――カァーン……


 鐘の音が鳴った、気がした。


「崇高なる我の光輪(ノーブルオレオール)」


 光竜王の背に出現した猛烈な光。仏や聖人が放つのであろう後光が、形ある金色の光の輪となって纏われる。輪は読み取ることができない紋章が描かれており、時計回りにゆっくりと回転していることが分かる。今さっき聞こえた鐘の音の正体は光輪の四方に付いている大鐘によるものだろう。輪が回転する度に微かにその音色を鳴らしている。


「どうだ? この神々しくも崇高な姿が崇高たる我が神と称えられる所以よ。今ならば、地に頭を付けることでこれまでの不敬を不問にするが?」

「自称神様、崇高が被ってますよ」

「……やはり曲げぬか。だが、それもよかろう」


 こちとら正真正銘の女神様を毎日目にしているんだ。神聖かどうかは別として、今更そんな姿になったところで躊躇する謂れは無い。


『お前ら、あれに勝てれば(多分)晴れて竜王だ。能力が不足していた不安の種のひとつ、ここで解決するぞ』

『兄貴、ぶっちゃけて言うッスね…… まあ、その通りなんスけど』

『ゴアゴア』

『『『グォグォ』』』

『うんうん、分かってるって。だからって弱気になるな。誰が倒すかは早い者勝ち。とろとろやってたら俺とエフィルがやっちゃうからな』

『はい。やっちゃいます』

『お前ら、気合入れろよ! 俺は土竜王を目指してるから今回は譲るけどよっ!』


 そこ、闇竜王じゃないのか。あと気合だけじゃなくて頭も使ってくれな。


『まあ、最初のうちはフォローするさ。風神脚(ソニックアクセラレート)。狂飆の竜鎧(ヴォーテクスアーマー)』


 俺が乗るダハクに敏捷倍加の風神脚(ソニックアクセラレート)を。ボガにはその身に狂飆を纏わせる狂飆の竜鎧(ヴォーテクスアーマー)を施す。


『ムドちゃんには私が。爆攻火(ヒートファーニス)』


 一方でエフィルは次弾攻撃の破壊力を倍加させる爆攻火(ヒートファーニス)をムドファラクに授ける。S級魔法な上に一発のみな燃費を度外視した補助魔法だが、俺は嫌いじゃない。


「おっしゃ、行くぜぇ!」


 ダハクが啖呵を切って特攻した。 ……俺を乗せたまま。

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